39:教皇を殺そう!!!!!!!
「そこの赤毛少女←、キサマ殺人鬼だなッ!? 戦士たちの間で『プレイヤーキラー』とも呼ばれてる人種だ!」
「ぎくぅッ!? そ、そんなことわかっちゃうの!?」
「そしてそっちの銀髪美少女←、キサマは……いったい何なんだッ!? ブーツからボスモンスターの気配が漂っておるぞッ!?」
【悲報】教皇グレゴリオン、しれっと女の子に優劣をつける……!【断罪決定】
「邪魔するぞー!」
巨大な扉を蹴り破り、俺は城の中へと侵入した。
どうやら兵士などは配備されていないようだ。赤いカーペットが続いた先に一人、教皇グレゴリオンは偉そうに椅子に座り込んでいた。
俺の姿を見た瞬間、ヤツは忌々しそうに目を細める。
「っ……まさか初めての客人が、貴様のような極悪人とはな」
スキル【悪の王者】の効果だろうか、グレゴリオンの頬にはうっすらと汗が浮かんでいた。
つまりこいつはシステムから正義属性と認定されたNPCってことか。『使い魔だろうがモンスターは生きているだけで邪悪』と言い切った野郎のくせに気に食わないぜ。やはり運営とは価値観が合わない。
俺は背後に控えていたシルたちに命令を出す。
「悪いが城の周囲を包囲しておいてくれないか? 相手が一人みたいなら、俺も一人で決着をつける。集団でボコる趣味はないからな」
「うぐぐっ、アタシには耳が痛い言葉なんだけど……まぁいいわ。信じてるわよ魔王様」
赤い髪を翻すシルと、彼女に続くサモナーたち。彼らの信頼の眼差しに頷いて応える。
さぁ、これで男同士のタイマンだ。俺は真っ直ぐにグレゴリオンへと近づいていった。
「戦おうぜ教皇様。俺が勝ったらこの街はサモナーたちの聖域とする」
「フンッ、無理なことを言う。ユミル様の加護により、死刑以外の方法では街の中では生命力が減らんというのに」
「ユミル様の加護? ……あぁ、運営による保護システムか。
だったらお前を無理やり街の外にまで蹴り出せばいいだけだろうが。ガバガバだなぁ、神様の加護とやらは?」
そう言うと、グレゴリオンの表情がにわかに変わった。顔を真っ赤にして玉座から立ち上がる。
「えぇいッ、神を罵倒するとはなんという恥知らずッ! ならばいいだろう……上位存在として神より与えられた力、その全てを貴様にぶつけてくれるわァアアアアアアッ!!!」
ヤツが咆哮を上げた瞬間、部屋中が赤い光に満たされた。轟音を立てて扉が閉まり、脱出経路を塞がれる。
さらにはいくつものメッセージウィンドウが空中に浮かび上がり、警告音を鳴らしながら俺へと告げる。
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・プレイヤー:ユーリが重要拠点に無断侵入しました。イベント関係の重要NPC:グレゴリオンに危害が加えられようとしています。
よってこれより運営による緊急回避システムを作動します。
周囲一帯に破壊不可・脱出不可の特殊領域属性を付与し、さらにHPの減少しないシステム保護を無効化。
加えて、グレゴリオンの全ステータスを999999999まで上昇させ、プレイヤー・モンスターからはダメージを受けず状態異常にもならない無敵設定を付与します。
またプレイヤーに対しては死刑十回の罪を付与。HPがゼロになった場合、レベルが10引かれます。プレイヤー:ユーリの場合、累計で10326レベルマイナスとなります。
この領域は、プレイヤーが死ぬまで解除されません。ここから出るには死亡あるのみ。さっさと諦めて殺されてください。
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「グハハハハハハハッ! これぞ神のチカラなりィイイイイイッ!」
絶対的な神の加護を受け、グレゴリオンの姿が変貌していく。
まるで熱膨張するかのように肉体が膨れ上がり、純白のカソックが弾け飛んだ。
その中から現れたのは灼熱に染まった鬼のような筋肉だ。気付けば背丈も何倍にも伸び、モンスター以上に怪物じみた姿となって俺のことを見下ろしてくる。これには乾いた笑いしか出ない。
「ははっ……やるじゃねーか運営。流石に大事なNPCだけに対しては、街の外にも拉致できないようなトンデモ保護をかけていたか。さて、これはどうするかな~……」
「ハッ! どうすることも出来ぬわメスがぁッ! 我が神罰の一撃を受け、その美しい唇から血を吐き散らせぇええええ!」
その瞬間、超音速で駆けてきたグレゴリオンの拳が俺へと炸裂する!
幸運値以外のステータスがゼロの俺に、全ステータス九億を超える攻撃など耐えられるわけがない。
「がはッッッ!?」
俺はヤツの言葉通り、血を吐きながら吹き飛んでいった!
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・スキル【執念】発動。致命傷をHP1で耐えました!
条件:『一撃で一万以上のダメージを受けて耐える』達成!
スキル【戦士の肉体】を習得しました!
【戦士の肉体】:吹き飛ばされた時の衝突ダメージを半減させる。
条件:『累計で五百万以上のダメージを受ける』達成!
スキル【戦士の肉体】は【魔人の肉体】に進化しました!
【魔人の肉体】:落下・および吹き飛ばされた時の衝突ダメージを半減させる。
条件:『累計で五億以上のダメージを受ける』達成!
スキル【魔人の肉体】は【魔王の肉体】に進化しました!
【魔王の肉体】:落下・および吹き飛ばされた時の衝突ダメージをゼロにする。
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轟音を立てて壁に激突した俺だが、激しい衝撃が身体を襲うだけでダメージはなかった。
まさに不幸中の幸いというやつか。運営の設定したグレゴリオンのアホな攻撃力によって、習得から一気に最終進化まで果たしたスキル【魔王の肉体】が俺を救ってくれたのだ。
累計で五億以上のダメージなんて、それこそ何か月もゲームをやらなければ手に入らないものだろうに。
「まぁ、このスキルに目覚めなくても『切り札』を使えばどうにかなったんだが……」
さて、思わぬ強化に喜んでいる場合じゃない。俺はグレゴリオンの姿がブレたのを確認すると、咄嗟に目の前に拳を突き出した。
その瞬間、ヤツの巨大になり過ぎた拳と衝突を果たす。
「なにぃ!?」
「スキル【神殺しの拳】【魔王の波動】発動!」
どれだけ敵が強大だろうが、スキルの効果は有効だ。筋肉巨人と化したグレゴリオンは弾け飛んでいき、床に手をつきながら何メートルも後退った。
「チィ……なぜ諦めないのだッ! 我は神の加護によって貴様からは絶対に傷付けられず、またこの領域からは脱出不可! どう考えても終わりだろうがッ!?」
「馬鹿を言え。諦めなければ世の中だいたい何とかなるんだよ。……それに俺が悩んでいたのは、お前を殺す方法だけだ。無事に脱出する手段ならとっくに持ってるんだよ」
「なにぃ!? 嘘を言うなッ!」
「嘘じゃないさ。……罪人は金を払うことで、神様からたった一つの祝福が与えられる。それは『街の入口への転移権』だ。まぁ俺はそれを選ばずに看守をブン殴ってきたんだが」
「あぁんッ!? 拒否したのならそれまでだろうがッ! さっさと死に晒せぇええええッ!」
再び俺に襲い掛からんとするグレゴリオン。だがそれに付き合ってやる義理はない。
お前を殺す方法はもう思いついたからな。
「勘違いするなよグレゴリオン。俺は拒否したんじゃなくて、選ばなかっただけなんだ」
「な、なに!? ……え、つまりっ」
「神の加護には神の祝福ってなぁ! つーわけで俺は退散するぜー!」
そうしてヤツに殺される直前、俺は視界の端にずっと待機させていた『転移しますか?』という項目をタップした。
俺の視界は一瞬にして光に包まれ、気付いた時には街の入口に降り立っていたのだった。
その結果に、俺は腹を抱えて大笑いする。
「アハハハハッ! あー、取っておいてよかったよかった。システムの穴、またまた発見ってなぁ。
さぁて……ブン殴られた礼だ。終わらせてやるよ、グレゴリオン」
俺の闘志に呼応し、足元に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そこから数多の蔦を伸ばしながら、全長百メートルを超える巨大竜樹が姿を現した――!
「さぁ、いくぞギガ太郎! 神の下僕を焼き尽くしてやれ!」
『グガァアアアアアアアアアアアアアアッ!』
俺の最大最強の使い魔、ギガンティック・ドラゴンプラントが咆哮を張り上げた!
その姿を見たヘルヘイムの住民たちが悲鳴を上げる中、ギガ太郎は背中に七つの巨大な花を咲かせると、月光を収束させて城に向かって解き放つ!
「食らえや教皇! 『ジェノサイド・セブンスレーザー』!」
そして輝く破滅の光。それはシステムによって特殊領域へと化していた神の居城に炸裂し、灼熱の赤に染め上げていく。
おそらくは内部にも光が差し込み、中にいる者は無事では済まないはずだ。
だが、
『フハハハハハハハハッ! バァカめぇえええええ! 我は神の加護によって、貴様らプレイヤーだけでなくモンスターからもダメージを受けないのだぁ! まぁそもそも極限まで防御力を強化された我には、この程度の光など日光にも劣るがなぁ!』
城の内部より教皇の声が響く。なんだ、身体と一緒に声量まで大きくなったってか? そりゃよかったなぁ。じゃあ、断末魔を聞かせてくれ。
そんな俺の期待に応え、教皇グレゴリオンの笑い声がだんだんと響かなくなっていった。代わりに聞こえてきたのは悲鳴だ。
『ぁっ、熱いぃいいいいいいいいいッ!? な、なんだこれは!? どうなっているのだッ!? わ、我は神によって無敵の加護を受けたはずではっ』
「聞こえないだろうが教えてやるよ。ギガ太郎のレーザー攻撃には、受けた場所を『灼熱地帯』に変える効果があるんだよ。
そう、お前はあくまでプレイヤーとモンスターからはダメージを受けないだけだ。だったらフィールドダメージで殺せばいいってなぁ!」
『うぎゃあああああああああああッ!?』
絶叫を上げるグレゴリオン。これが全ステータス九億以上にまで膨れ上がった化物の倒し方だ。
どれだけ防御値をカンストさせようが、灼熱地帯には『固定ダメージ』を与える効果がある。
たしか最大HPより毎秒1%のダメージが発生するんだったか。つまりヤツのHPがどれだけあろうが、百秒後には必ず死ぬってことだ。
だがそんな長い時間生かすかよ。慈悲の心で一秒でも早く排除してやる。
俺は時間制限によって消えていくギガ太郎から飛び降りると、空中でボスモンスターを召喚する。
「現れろ、チュン太郎!」
『ピギャアアアアアアアッ!』
次に召喚されたのは、灼熱の鳥『バニシング・ファイヤーバード』だった。
スキンヘッドのヤツにぶっ殺されかけてからはヒヨコのようにピヨピヨと俺にすがりついてたが、すっかり復活したようだ。
灼熱に燃える翼を広げ、俺を乗せて城の上まで羽ばたいていく。城の周囲ではシルたちが元気に俺に手を振っていた。
「離れてろよお前らー、今から教皇焼きまくるからー! さぁチュン太郎、空襲開始だーッ!」
俺の命令に応え、チュン太郎の翼より無数の炎弾が射出された!
それは灼熱に染まった城をさらに激しく燃やしていき、やがてその色を溶岩のように赤黒く変えていく。
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・火属性のダメージ300%突破! ダメージエリア『灼熱地帯』は『獄炎地帯』に悪化しました!
毎秒、最大HPより5%のダメージが発生します!
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『ぎゃあああああああああああああああッ!?』
グレゴリオンの絶叫がさらに激しいものとなった。だが男と男の『正義』をかけた勝負なんだ、ここで手を抜くのは失礼というもの!
俺はスキル【武装結界】を発動し、延焼の状態異常を与える火属性の剣を城に突き刺しまくった。その効果により、城が太陽のように白く輝き始める。
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・火属性のダメージ500%突破! ダメージエリア『獄炎地帯』は『浄滅地帯』に超絶悪化しました!
毎秒、最大HPより20%のダメージが発生します!
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『あぁああああぁッ、熱い熱い熱い熱いィイイイイッ!? おっ、お願いだぁああああああ! ここから出してくれーーーーーーッ!?』
「悪いなぁグレゴリオン、それは出来ない相談だ。だってその領域、俺が死なないと解除されない設定なんだろう? つーわけで、恨むんだったら運営を恨みなー!」
『そんなーーーー!? かッ、神よぉーーーーーーッ! 我をここから出してくれっ……出せよクソがぁぁあああああああッ!』
神に対する怒りの叫びを張り上げるグレゴリオン。それがヤツの最後の言葉となった。
パァァァンッと電子レンジの中で卵が破裂するような音が響くのと同時に、ヘルヘイムの上空に巨大なメッセージが表示される。
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・聖上都市・ヘルヘイムにて想定外の事態発生! 今後のイベントに関係する超重要NPC・教皇グレゴリオンが死亡しました!
原因は地形ダメージと判断。その首謀者をプレイヤー:ユーリと断定!
管理者チームに報告、報告、報告…………応答なし。よってこれより、バグ修正用AI『ペンドラゴン』によるジャッジを開始。
ジャッジ――問題なし。システムに不正改竄された形跡はありませんでした。全てはシステムの仕様内の行動です。
また領主NPCとの戦闘に勝利したユーリ様に対し、支配領域『ヘルヘイム』の全ての土地権を譲渡します。
ご迷惑をおかけしました。プレイヤー:ユーリ様、これからも安心してゲームを続けてください。
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「ッ~~~~~、やったぜぇええええええええッ! サモナーたちよ、今日からこの街は俺たちのモノだァアアアアアッ!」
『ウォオオオオオーーーーーーーッ! 魔王様万歳ッ! ユーリ様バンザァァァイッ!』
歓喜の咆哮を上げる仲間たち。この勝利によって彼らからの好感度は100、200、300と上がり続けて止まらなくなっていく。
こうして俺は数多くの手下と一緒に、見事に街を手に入れることに成功したのだった。
さーて、五日後のギルド戦が楽しみだぜーッ!
・次回、運営が泣きます――!
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『毎秒更新しろ』
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↓みんなの元気を分けてくれ!!!