38:悪のかりすま、ユーリさん!
「いくぞ野郎ども、戦争だッ!」
『オオオオオオオオオオオ――――ッ!』
俺の叫びに同調する数百人を超えるサモナーたち。そして、彼らと同数のモンスターたちが咆哮を張り上げた。
ヘルヘイム地下監獄を脱出してからは全てが一方的だった。襲い掛かってくる衛兵どもは数を増していくばかりだが、それがどうした? 俺の仲間とその使い魔たちは最強だ。
「オレに力を貸してくれっ、『ダークネス・ワイバーン』!」
『キシャァアアアアアッ!』
「ようやく一緒に戦えるな、『シルバー・タイガー』!」
『ガァーーーーーッ!』
サモナーNPCたちに設定された召喚獣どもは強力だった。
全てこの付近で出る40レベル以上の高レベルモンスターたちだ。それが数百体も数を揃えているとなれば、質で劣る衛兵どもなんて敵ではない。
ワイバーンに引き裂かれ、タイガーの突進によって吹き飛ばされ、絶叫を上げながら弾け飛んでいった。
こいつは俺も負けられないな。弓を構えてポン太郎たちを射出しまくり、衛兵どもを蹴散らしていく。
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・プレイヤー:ユーリ、シルに警告。派遣された衛兵NPCに攻撃を与えました。
そのたびに罪が重くなるため、抵抗せずに捕縛されることをオススメします。
死刑判決を受けるたびに特殊デスペナルティのレベルダウンが加算されていきます。
アナタたちは現在、死刑五千回に処されています。死刑となった場合、レベルが5000引かれます。
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「あはははははっ、ねぇ見た魔王様!? 死刑五千回だって! アナタについてきたおかげでビッグな悪人になれちゃったわ~!」
「馬鹿言え、こんなの不当判決だ。俺は正義だぞ正義!」
大剣を振り回しながら衛兵を吹っ飛ばしているシルに応える。
アイツにプレゼントしてやった大剣、『煉獄剣グルヴェイグ』に切り裂かれた者は悲惨だ。高確率で発生する延焼の状態異常に陥り、全身から炎を噴き上げながら絶叫を上げて転げまわる。
街の中ではHPが減らないってだけで状態異常にはなるし、NPCたちは痛覚制限がないからなぁ。哀れなことだ。正義の勇者として見てられないぜ。
よし、人生経験がゼロに等しいサモナーNPCたちのためにも、慈悲の心を見せつけて正義とは何か教えてやらないとな!
そう思いながら俺は特攻用爆殺キマイラ『ジェノサイド・ファイヤーバード(2号)』を召喚して空中から落とし、地獄の炎で衛兵たちを焼き尽くしていった。ヘルヘイムの街が業火に染まっていく。
「よく見ておけよサモナーたちよ、不毛な戦いは一瞬で終わらせるに限る。俺たちの目的は教皇グレゴリオンの排除一択。そのために容赦なく衛兵どもを蹴散らし、早くラクにしてやるんだ! 暴力こそが救済なんだ!」
『お~……!』
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・NPCは関係したプレイヤーの影響を受けることがあります。
サモナーNPCたちの人格属性が、ノーマルから『悪』になりました。
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ってなんでじゃーい!?
そんなのおかしいだろ! どうして俺を見習ったら悪になるんだよ!?
あっ、最初は牢屋の隅でガタガタ震えてたNPCたちの顔付きがどんどん凶悪になっていく!? ねぇちょっと待って!
「ヒャッハーッ! 我らが魔王様に続けぇッ!」
「サモナーとして、男として舐められっぱなしで堪るかよッ! 教皇をボコグチャにしてこの街を乗っ取ってやるぜーッ!」
「オラァ、いくぞシルバー・タイガー……いや、トラ次郎! アーツ発動、『パワーバースト』ッ!」
謎の変貌を遂げていくNPCたち。それと同時に最初は最底辺だった親密度が、30、40、50、60と急激に上がって止まらなくなっていく。
「おいシル、NPCたちのガラがどんどん悪くなってるんですけど!? お前に影響されてあいつらまで俺のことを魔王様呼ばわりしてくるんだけど、どうしてくれるんだよ!?」
「いや、呼び方はアタシの影響だとしても、性格のほうはアナタそっくりになっていってるだけじゃないの……?」
「えっ、マジで!?」
俺の影響を受けてあんな感じになっちゃったのか!?
……うーん、そう考えるとチンピラにしか見えなくなったNPCたちの姿が、なんか男らしいものに見えてきたぞ! ネーミングセンスもいい感じだしな!
まぁ人格属性が『悪』判定されたことだけはあとでバグとして報告するとして、俺は隅っこで震えていた衛兵にちょっと道を尋ねることにする。
俺はチンピラじゃないから、出来る限り紳士的な態度を心がけてっと。
「おびえないでくれ衛兵、お前たちを殺すつもりは一切ないんだ。ただ俺たちは、サモナーとして平和を求めて戦っているだけなんだ。どうか教皇グレゴリオンの居場所を教えてくれないか?」
「なっ……!? ふ、ふざけるな! お前たちのような悪党に、教皇様の居場所を教えるわけがっ」
「アァッ!? 誰が悪党だッ、ぶっ殺すぞテメェッ!」
「ひえーーーーーーーっ!? ま、街の真ん中のお城です! 視察を終えた教皇様はお城に帰ってきておりますーーーーーーーっ!」
おーそっかそっか、やっぱりあそこがアイツの家だったか。聖職者のくせに教会とかじゃなくて城に住むとか、生臭坊主ってやつだなー。
紳士的な態度のおかげで情報が手に入ったぞ。俺は月光に照らされた巨城を指差し、仲間たちへと呼びかける。
「よーしお前たち、あの城目指して進撃だ! グレゴリオンの野郎をぶっ倒し、この街の支配権を奪い取るぞ!」
『ウオォーーーーーーーーーーッ!』
咆哮を上げるサモナーとモンスターたち。
大侵攻は止まらない。数で囲うしか能がない衛兵どもを弾き飛ばし、民衆たちを(たぶんカッコよすぎて)震え上がらせながら城への道を突き進んでいく。
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・情報更新。プレイヤー:ユーリ、アナタに一万回分の死刑判決が下りました。
隠し条件:『死刑一万回以上の判決を受ける』達成!
スキル【悪の王者】を習得しました!
【悪の王者】:接触するNPCが悪属性に染まりやすくなる。また悪属性のNPCから狂信を集め、正義属性のNPCには無条件で恐怖と威圧を与える。
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ってだからなんでじゃーい!?
ぐぎぎぎぎぎぎ……虐げられていた連中を率いて平和のために戦ってるだけなのに、【悪の王者】呼ばわりするとはトチ狂ってやがるぜ!
もういい、モンスター殺戮主義のグレゴリオンが教皇をやってる倫理観崩壊ゲームなんだから、もうシステムの判定には従わねぇ。俺は何と言われようと正義なんだ!
そう固く決意する俺に、シルがふと訊ねてくる。
「そういえば魔王様、教皇を排除するって言ってもどうするのよ? 街の中じゃHPが減らない設定なのよ?」
「そんなの簡単だろ。モンスターに拉致らせて街の外に放り出してぶっ殺せば解決だ」
「わぁお……それをサラっと思い付いちゃうあたり、アナタって本当に魔王様よね~」
悪人プレイヤーとして見習わなきゃと、なぜか感心しながら頷くシル子さん。
そんな彼女の言葉に不満を覚えつつ、俺たちはついに城の前にまで辿り着いたのだった。
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