34:宣戦布告!
ゲーム開始から八日目。俺はひたすら東に向かって走っていた!
昨日は戦う力を取り戻したからな。今度は次のイベントのギルド戦に向けて、ギルドホームとする土地を手に入れるのだ!
そのために俺は、東の果てに実装されたという『聖上都市・ヘルヘイム』を目指して、雑木林の中をひたすら突っ走っていた。
そんな時だ。横から何かが迫ってくるような気配を感じた俺は、咄嗟にそれに向かって裏拳を突き出した。
スキル【神殺しの拳】と【魔王の波動】によって吹き飛んでいく物体。それは投擲された大剣だった。
明らかに何者かによる攻撃だ。
「……不意打ちとは失礼なヤツだな。素直に姿を現せよ」
そう言うと、あちこちの茂みから複数のプレイヤーたちが現れた。
全部で二十人以上はいるだろうか。なかなか良い装備を身に付けており、レベルの高いプレイヤーたちだとわかる。
その中の一人がニヤニヤと笑いながら俺に近づいてきた。いわゆる姫騎士のような紅蓮のバトルドレスを纏った赤毛の女の子だ。
「あらあら、さすがは元トッププレイヤーなだけあるじゃない! 殺す気で放ったのに良い直感をしてるわねぇ!」
「お前の奇襲が雑なだけだろ」
「ッ!? ……ずいぶんと生意気な口を聞くじゃないの。アップデートで戦えなくなったくせにッ!」
表情をしかめながらその手に大剣を再顕現させる赤毛少女。
その切っ先を俺に向けると、獰猛な笑みを浮かべて言い放つ。
「アタシの名前はシル。それなりに名の知れたプレイヤーキル集団のリーダーよ!」
「俺は知らないんだが?」
「っていちいちうるさいわねッ!?」
ギャーギャーと喚くシルとかいう子。そうか、プレイヤーキル集団のリーダーやってんのか。バトルロイヤルのおかげで俺も好きになったぞ、プレイヤーキル。
「チッ……ダンジョンクリアと違ってプレイヤーキルはワールドメッセージで流れないものね。まぁ仕方ないわ。
でもアタシが無名なのも今日までよ。なんたって昨日のアップデートによって、『動画撮影機能』が追加されたんだからね! さぁ、生放送開始よ!」
彼女がペチンと指を鳴らすと、そのかたわらに羽の生えたデカい目玉が姿を現した。目玉は瞳をピカピカと光らせて俺のことを見つめている。
なるほど、そいつが動画撮影係ってことか。ぶっちゃけキモいんですけど。
「フフフッ、アタシだってアンタみたいに有名になってみたいじゃない? だからさっそく動画サイトに『プレイヤーキルチャンネル』っていうのを作ってみたわけよ。アタシが間抜けなプレイヤーをバッサバッサと倒していくところを世間に流して、名を上げてやろうって寸法よ!」
「そうか、それでイベント優勝者の俺を狙ってきたわけか。……いいじゃねぇか、死にたい奴からかかってこいよ……!」
弓を顕現させながらそう言い放つと、周囲のプレイヤーキラーたちがウッと息を飲んだ。
そんな彼らにリーダーのシルが檄を飛ばす。
「ってビビってんじゃないわよアンタたち!? ……今やコイツにイベントの時の力はないわ。グッチャグチャにぶっ殺して、名を上げるための生贄にするのよーーーーッ!」
『おっ、おおぉぉぉおおおおーーーーーーッ!』
彼女の叫びに応え、四方八方から一斉にプレイヤーキラーどもが襲い掛かってきた。
食いしばりのスキル【執念】が弱体化しちまったからな。複数人で連続攻撃をかませば殺せるという判断だろうが、甘い!
「スキル発動、【武装結界】!」
周囲に召喚陣を展開させると、全方位に向かって剣や槍を射出した!
それによって貫かれていくプレイヤーキラーたち。シルは咄嗟にガードしたようだが、不意を打たれて攻撃を受けてしまった者は状態異常に苦しむことになる。
「ぎゃーーーーッ!? か、身体が燃えるッ!?」
「げほっ、ゲホッ!? これは……猛毒状態!?」
悶え苦しむプレイヤーキラーども。
悪いな、俺は幸運値極振りなんだ。『一定確率で相手を状態異常にする』っていう武器の効果を、ほぼ確実に引き出せるんだよ。掠っただけで致命傷だ。
俺は怯んだプレイヤーたちに向かって、漆黒の矢を次々と射出していった。そうして相手に当たった瞬間に命じる。『そこで分身しろ』と。
すると、
「うっ、うぎゃあああああああああッ!?」
「かかっ、身体が裂けるーーーーーッ!?」
体内でポン太郎たちが四方八方に分かれるのと同時に、プレイヤーキラーどもの身体は千切れ飛んで消えていった。
『重度欠損状態』という状態異常が起きたのだ。HPがゼロにならずとも、身体が真っ二つになったりバラバラになったら強制的に死亡してしまうらしい。
まぁ、そんな事態はなかなか起きないらしいのだが……、
「どうだすごいだろう? 試行錯誤した末、思いついた攻撃方法の一つだ。
スキル【魔王の波動】によって俺の攻撃はとてつもない衝撃が発生するんだよ。それと矢の分身する『方向』を操れることに目を付けて、組み合わせてみたらこの結果だ。
そら、次に体内から引き千切られたいやつはどいつだ……?」
「ひっ、ひぃいいいいいッ!?」
顔を真っ青にして飛び上がる生き残りども。彼らは武器を放り捨てると、「なんだよッ、むしろパワーアップしてるじゃねぇか!?」「話が違うぞリーダーッ!」「痛覚制限されてるVRだからって、そんな体験してたまるかッ!」「やっぱりこのひと魔王だぁああああ!」と叫びながら逃走していった。
当然ながら逃がす理由もないので、無防備な背中に矢をブチ込んで爆散させていく。
派手な攻撃で非常に好みだ。いやー辛い環境が人を成長させるってのはホントだなー! つまりは運営が俺を育ててくれたってことだから、恨むならやつらを恨んでくれ! はっはっはっはっは!
「ふぅ……さぁてシル、全員死んだぞ? これでタイマン張れるなぁ……!」
「ひぃっ!? な、なんなのよアンタッ!? 弱体化はどうしたのよッ!?」
「もちろんされてるぞ。ああ、だけどそんなことで諦めるなんて女々しすぎるだろ! 『今日からお前は雑魚決定』と言われたら、それに大人しく従うのか? 馬鹿を言え、それに反逆するのが燃えるんだろうがッ!
俺はどれだけ弱体化されようが止まらないぞ! 止まらないぞッ! 止まらないぞーッ!」
「ひぐぅっ……!? こ、この異常者めぇええええええええッ!」
涙目になりながら突撃してくるシル。いいぞ、ナイス根性だ!
俺は彼女が振るってきた大剣を裏拳で弾き飛ばし、目の前に拳を突き付けた。
【魔王の波動】による黒い烈風が炸裂し、シルの紅い髪をざわりとなびかせる。
「悪いがこれで決着だ。文句があるならまだやるぞ?」
「っ……!?」
ガクガクと震えながら「ま……まいり、ました……!」とシルは呟いた。
彼女を生かしたのは他でもない。たしかコイツ、自分のチャンネルで生放送をしてるって言ってたからな。戦いに勝った勇者の権限で、ちょっとチャンネルを略奪させてもらおう。
俺は彼女の横で浮遊していた撮影用の目玉を掴み取り、カメラに向かって言い放つ。
「見てるか運営、そして俺が無力になったと思っているプレイヤーども。
アップデートの結果、俺はこの通り強くなったぞ……! 俺は何度だって蘇り、何度だってトップの座を掴み続けてやる。だからお前ら、喧嘩を売るのなら覚悟しておけよ……!」
その言葉を最後に、目玉をデコピンで弾き飛ばす。
こうして俺は(他人のチャンネルを勝手に乗っ取り)、運営をはじめとしたライバルたちに向かって宣戦布告をかましたのだった――!
シル「フフフッ、アタシだってアンタみたいに有名になってみたいじゃない?」
・シルちゃん、『ボコボコに負けて魔王様にチャンネルを奪い取られた女』として有名になりました――!
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