33:邪悪ユーザーユーリちゃん!
前回のあらすじ:運営はやべーやつを本気にさせました。
「――はぁー……はぁー……見えてきた。見えてきたぞぉ……運営に復讐するための新スタイルが……!」
修練場の中央にて、俺はにやりと笑みを浮かべた。目の前には何百体ものボロボロになった訓練用カカシが山みたいに積みあがっていた。
修練場は便利なところだ。注文すれば何体でもモブを出してくれるし、それに受付にて一般の修練場を利用するか『個別修練場』を利用するかを選択もできる。
俺が利用している後者は戦い方を秘密で磨きたいって人専用だな。逆に前者は他人と見比べながら基礎訓練を積む用って感じか。なんか新たに五万人以上の新規ユーザーが増えたって話だし、アドバイスでもするために見に行くのもいいかもな。弓使いにパンチ教えるとか。
ま、それは置いといて。
「……やっぱり俺の戦闘スタイルは、攻めて攻めて攻めまくるものじゃないとな。火力が落ちて連続で致命傷を耐えられなくなったからって防御に回るのは駄目すぎる」
そう、男だったら攻撃あるのみだ。相手から攻撃される前にぶっ殺せば相手は攻撃してこなくなるわけだからコレが最強の防御法なのだ。
というわけでダメージアップ系のスキルをいくつか見てたんだが、どうもしっくりこない。そもそもダメージ補正を10倍までにされたわけだしな。
そうして苦悩すること小一時間――俺が頼ったのは攻略サイトだった。
俺のことを騙してくれた忌々しいこのサイトだが、それでも有用性はハンパない。
ところどころの感想欄に書かれている『サモナー・弓・幸運値極振り、アップデートでクソチートからゴミに逆戻り!大勝利~!』というコメントにギリギリと奥歯を噛み締めながら、『最強限定スキルランキング』というページを見ていった。
汎用性が高いモノが並んだ上位陣のほうからスクロールしていき、やがて用途が限定されすぎる最下位のほうに辿り着いたところで……俺は見つけたのだった。この状況を打開してくれるような『クソスキル』を!
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サモナー限定スキル【武装結界】 取得イベントポイント:150(極大)
・HPが一割以下の時、自分の周囲に武器を瞬時に召喚する。
ただし召喚した武器は三秒でアイテムボックスに戻る。
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俺が獲得した限定スキルはこいつだ。
三万ポイント近く獲得してる俺にはよくわからないが、一般的なプレイヤーにとっては発動できる状況が限られるスキルでイベントポイント150ってのはかなりキツいのだろう。それだけの数、プレイヤーを倒さないといけないんだからな。
「サモナーしか使えない【武装結界】。これは普通に使えばかなり微妙なスキルだよなぁ」
試しに運営の想定通りに使ってみる。すると足元に召喚陣が現れて、初心者の弓がバビョンと飛び出してすぐ消えた。
敵の攻撃に合わせてガードに使えってことだな。
幅の広い大剣を装備してるプレイヤーなら有用だろうが……俺がキャラ作成時に選択した装備は、『弓』だ。細くて軽くて、とても防御になんて使えない。
ゆえに最初は俺もクソスキルだと思ったのだが、ここでふと考え付いた。
『そういえばこのゲームって、最初に選択した武器類以外を扱ったらどうなるんだろうか』と。
そこで剣を一本購入して、手に取ってみたら――面白いことにスポーンッと手から飛び出したのだ。
強く握っても無意味だった。絶対に装備させないという意志の強さで、適当な方向に飛び出していった。
その結果にふむと頷きながら、今度は【武装結界】によって足元に剣を出してみる。
……するとそれも俺の目の前で盾になるようなこともなく、ロケットみたいに上に飛んでいったのだった。
これを見て俺は思いついた。『じゃあ剣を足元から生やすのではなく、俺の後ろから横向きに出したらどうなるか』と。
すると面白い結果が得られた。まるで剣が射出されるように前に飛んでいったのだ。
ただしシステムで弾かれた結果だからか、飛んで行った剣は訓練用カカシに当たることなく地に墜ちる。まぁこれはしょうがないと俺は思った。
だが……『それなら弾き飛ぶ剣で相手を驚かせたところで、ポン太郎たちを射出すればいい』と考え、弓を手にした状態で剣を飛ばしたときだ。
そこで愉快すぎる現象が起きた。なんと【魔弾の射手】の効果がいきなり発動。投擲・射出したアイテムにホーミング能力を加えるこのスキルによって、雑に飛んで行ったはずの剣が訓練用カカシにグサリと突き刺さったのだ!
……思わぬ抜け穴を発見してしまった。弓を装備した状態でモノを飛ばすと、それは『射出攻撃』だとシステムが認識するらしい。
システムに弾かれた結果ではなく俺の攻撃として扱われ、幸運値極振りによりダメージアップ系スキルが発動しまくった。
その瞬間、俺は思ったね。これは面白いことが出来るぞって!
そうして今に至る。
俺は試行錯誤の末に、失った火力と手数を取り戻す手段を勝ち取ったのだった。
「出てこい、訓練用ゴブリンキングども!」
『ゴブゴブーッ!』
目の前に現れる十体のゴブリンキングども。偽物の存在だがステータスは本物と変わらない。
やつらは棍棒を振り上げると、俺に向かって襲い掛かってきた。
スキル【執念】が弱体化してしまったため、二撃当たれば俺は死んでしまうが、
「一掃してやる。スキル【武装結界】発動!」
その瞬間、俺の背後から曼荼羅のように無数の召喚陣が出現した。
そこから一斉射出される、超重量の『魔剣』や『魔槍』たち。それを受けたゴブリンキングは次々と身体を貫かれていき、さらには火傷や猛毒などの状態異常を起こして消滅していった。
どの武器にもリビング・ウェポンは宿っていないが、それでもご覧の有り様だ。
「完成したな……」
これが俺の考え付いた新たな力の利用法である。
モンスターを召喚できる数には限りがあるからな。射出される武器全部にはポン太郎たちを宿せない。
そうなると『武器の威力にリビング・ウェポンの筋力値を足す』という特性は使えないので、相手に与えるダメージは低くなってしまうのだ。
だがそれならば、
「弾き飛ばすのはシステムの力なんだから、武器の重量なんて関係ないんだ。だったら死ぬほど重い武器や状態異常効果のある高級武器を飛ばしまくればいいって話だ」
全て俺の『矢』にするために、イベントポイントを使用して高性能限定武器を買いまくった。
さらに幸運値極振りの効果でレアアイテムは山ほど持っていたため、それらを売りまくって街中の武器屋から最高級武装を何本も集めてきた。
その結果がこれだ。物量によって敵をぶっ殺す、『サモナー・弓・幸運値極振り』の新スタイルだ。
俺は掴み取った成果を前に、力強く「よしッ!」と叫んだ。
「ははっ! 持ち運べるアイテムは五十個までだからなぁ。無限の物量で圧し潰せるってわけじゃないが、これで戦えるようになったな!
まだまだ課題も残ってるけど、これで前に進める」
俺は目の前にメニューウィンドウを表示させる。
そこには運営からの告知で、『一週間後にバトルイベント:ギルド大戦争開催! 無数のギルドを本拠地ごと特殊空間に召喚し、ギルドホームがぶっ壊れるまで潰し合ってもらいます!』と書かれていた。
この前のイベントで数万人を殺し合わせたことといい、本当にここの運営はやることが大胆だ。ぶっちゃけ雑ともいうが、悔しいことに俺好みなセンスだぜ。
「さて……これに出るにはギルドの本拠地が必要になるわけか。優勝賞品で『ギルドホーム建設権利』はもらってたんだったな」
だが、それとは別で『土地』が必要になるとギルドシステムの説明には書かれていた。
クエストで手に入れるなり購入するなりしないといけないそうだ。そこからさらに高額な『ギルドホーム建設権利』を買い取り、その地をホームと設定することで、様々なギルド限定システムが使えるようになるんだとか。
俺はメニューウィンドウを消し、一つの決意をする。
「土地だったらどんな大きさでもいいんだよな? ――よし、それなら『街』を手に入れてみますかぁ!」
無茶苦茶なことを言っている自覚はあるが、男だったら目標はデカくなければいけないッ!
ちょっとヤクザ映画が好きなだけでとっても優しい俺の爺さん(金融業者経営)は言っていたよ。
『無理なんて言葉を信じちゃいけない。「無理無理」言ってる人間でも、絞り出せば色々出るものだ』って。きっと気合と根性がいっぱい詰まってるってことだろう。
そう、無理な目標でもそれが叶うまで頑張ったら、無理な目標は『無理な目標』じゃなくなるんだから無理っていう概念はこの世から消失するんだ! 人間なんでも出来るんだ!
全ては気合と根性だ! それさえあればきっと何とかなるだろう!
「邪悪な運営に立ち向かう勇者として、みんなに恥ずかしくないようにデカい家に住まないとな! よーし、最低でもお城くらい手に入れてみますかー!」
それで次のギルドイベントでもいっぱい活躍するんだ。そうしてイベントポイントを大量に手に入れて、限定アイテムと交換しまくって売りさばいて金持ちになって、リアルマネートレードで運営から大金を奪い取って苦しめるんだッ! がんばるぞッ!
俺はウキウキと胸を弾ませながら、修練場を後にしていった。
・やべー運営vsやべーユーザー、ファイトッ!
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