29:死闘、決着!
スキン「オレ様が勝ったら一日中連れ回してやる!」
ユーリ「負けたら逆に俺に付き合え!」
数万人の観客(((なんでオレたちはデートの約束を見せつけられてるんだろう……)))
「「オラァァアアアーーーーーーーーッ!」」
大炎上する街の中、俺とスキンヘッドの一騎打ちが始まった。
相手に向かって全力で駆け出し、共に拳をぶつけ合う!
「吹き飛びやがれスキンヘッドッ!」
「なにぃッ!?」
最初の打ち合いに勝利したのは俺だった。全ての衝撃を無効化する【神殺しの拳】に加え、一万人以上のプレイヤーを虐殺したことで獲得した【魔王の波動】が発動。筋力値ゼロなど関係ないとばかりに、スキンヘッドの身体を弾き飛ばした。
ヤツはどうにか足を地面につけるも、そのままズザザザザッと何メートルも後退させられる。そうして拳を抑えながら、俺に対して引き攣った笑みを浮かべた。
「かぁ~~~腕いッてぇ! おいユーリ、どういう衝撃してやがんだよ!? 『パワーグラップラー』のジョブのオレ様が吹き飛ばされるとか、オメェ筋力値ゼロとか絶対に嘘だろ!」
「さっき習得した【魔王の波動】っていうスキルの効果だ。俺は気分的に勇者なのになぁ」
「オメェみたいな勇者がいるかッ!」
失礼なことを言いながら再突撃してくるスキンヘッド。パワーグラップラーというジョブの技なのか、拳からオーラを放ち始めた。
いいぜ、だったらこっちもサモナーとして戦ってやる!
「現れろ、ゴブ太郎! ウル太郎! チュン太郎!」
『ゴブゥーッ!』
『ワォーンッ!』
『ピギャーッ!』
周囲に展開された召喚陣より、三体のボスモンスターが現れる。
その身体からは邪悪極まる漆黒の波動が放たれていた。スキル【魔王の眷属】の効果で常時ステータスが上昇状態にあるのだ。
これだけでも十分脅威だろうが、まだだッ!
「アーツ発動! 『ハイパーパワーバースト』、『ハイパーディフェンスバースト』、『ハイパーマジックバースト』、『ハイパーラックバースト』、『ハイパースピードバースト』!」
『『『グガギャァアアアーーーーーーーーッ!』』』
強化されたボスモンスターたちの全ステータスを、さらに三倍にまで押し上げる!
狂ったような雄叫びを上げる使い魔ども。彼らは棍棒を、牙を、炎翼を滾らせ、一斉にスキンヘッドへと襲い掛かった。
その光景を前に、実況役のナビィが悲鳴を上げる。
『よっ、容赦というものがまったくなーーーーーーーーいッ!? 魔王ユーリ、奇跡の生還を遂げた勇者を躊躇なくぶっ殺そうとしていますッ! うわーんっ、この人イベントを終わらせる気だよぉおおおっ!?』
だから魔王じゃないっつの!
あのちび妖精、あとで指でグリグリしてやると誓いつつ、スキンヘッドのほうを見る。
するとヤツは困ったような笑みを浮かべ、
「ったく。ボスモンスターを仲間にするなんざ、本当に魔王やってんなぁユーリ。
……いいぜ、だったらオレ様も全力全開だッ! 血の一滴までオメェのために絞り尽くしてやらぁああああッ!」
その瞬間、スキンヘッドの全身より赤き光が迸った。剥き出しとなっている筋肉が紅蓮に染まっていき、まるで熱された刀のように火花を放ち始める!
「アーツ発動ッ! 『決死の覚悟』ォオオオーーーッ!」
ガンッと大地を踏みしめた瞬間、ヤツは赤い稲妻となって駆け出した!
ゴブリンキングの懐へと超音速で潜り込み、強烈なアッパーを突き出して空へと射出。そのままファイヤーバードにぶつけ、二体同時にダウンさせる。
さらにヤツに油断はない。その隙に背後から噛み付こうとしてたウルフキングを、振り向かないまま裏拳を放って何十メートルも吹き飛ばしたのだ……!
……おいおい、めちゃくちゃ強いじゃねえかスキンヘッド。
見ればヤツの頭からは、二本の角が生えていた。その変貌っぷりにナビィがワッと声を上げる。
『なっ、なんという強さだーーー! ラインハルト・フォン……長いからスキンヘッドさん! なんと魔王ユーリの使い魔たちを一瞬で片付けてしまった!
あぁ、しかしその代償は大きい。彼の発動した「決死の覚悟」は、徐々にHPを減らしていくことで全ステータスを二倍にする諸刃の剣! さらに額に現れた角は、パワーとスピードを三倍にする代わりに一分後に確実に死ぬレアスキル【鬼神化】の効果でしょう! 発動したが最後、キャンセルはできません!』
ナビィの言葉に驚く。まさにスキンヘッドのやつは、俺のために全てを絞り尽くそうとしてくれていた。
まだ生存者は他にいるというのに。優勝の可能性を、かなぐり捨てて。
「けっ、妖精ちゃんめ。オレ様の奥の手をペラペラ解説するとは悪い子だぜ。……まぁ戦いの最中に説明もなくポックリ死んだら拍子抜けだからなぁ。観客を盛り上げるためには仕方ねーかァ。
んで、どうすんだよユーリ? 一分間逃げ回ったらオメェの勝ちだぜ~?」
挑発的に言ってくるスキンヘッド。だが、彼の瞳には俺に対する熱い信頼の光が宿っていた。
ああ……上等だ! ここで受けなきゃ男じゃないッ!
「ハッ、誰が逃げるか! さぁ、こいよスキンヘッド。お前の全部を受け止めてやる!」
「クハハッ! ああ、オメェならそう言ってくれると思ってたぜぇユーリ! さぁいくぜ、オレ様の生命を全部テメェにブチ込んでやらぁああああッ!」
獰猛な笑みを浮かべ、スキンヘッドは超音速で駆け出した!
ヤツに対してカウンターの拳を繰り出そうとしたが無駄だ。スキンヘッドは圧倒的な速度により、俺が肘を引いた時にはパンチを放っていた!
強烈な拳が俺の胸に炸裂し、一瞬にして何百メートルも吹き飛ばされていく――!
「ぐがッ!? がはッ!」
始まりの街に点在する数多の民家を突き破りながら、俺のHPは何度も何度も削られていく。
そのたびに【執念】が発動し、俺は死にながら生き続けた。
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スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
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くそっ、このままじゃ不味いッ!
背後の民家に強引に拳を叩きつけ、スキル【神殺しの拳】を発動。衝撃を無効化するその効果を応用し、三十軒以上の家をブチ抜いたところで踏みとどまった。
だが気を抜ける余裕なんて一切なかった。不意に影がかかったと思って空を見上げたら、そこには『巨大な塔』を構えたスキンヘッドがいたのだ!
「ガハハハハハッ! HPが半分を切ったことで、筋力アップ系スキル【火事場の馬鹿ヂカラ】発動じゃぁあッ! デカいの一発くらいやがれーーーッ!」
ダメ押しのごとく強化された筋力値により、ヤツはダンクシュートでも決めるように塔を叩きこんできた!
あれは不味すぎる。もしも下敷きになって潰されようものなら、継続ダメージで完全に終わりだ!
だったら今こそ、
「禁断召喚! 現れろ、『キメラティック・マシンゴブリン』ッ!」
禍々しい漆黒の召喚陣が目の前に現れ、そこから錆びたギアを軋らせる人造のゴブリンキングが出現した!
ゴブリンキングの肉と『古代超文明の残骸機械』というレアアイテムを融合させて産み出したモンスターだ。
そのステータスは防御力極振りで、他はゼロ。まさに盾となって死ぬために生まれたような存在だった。
「頼む、俺のために死んでくれ!」
『ゴギガーッ!』
マシンゴブリンは全身の配管からガスを噴出しながら、巨大な塔を受け止めた。
足元がひび割れようが、あちこちのギアが砕けて火花が噴き出そうが、機械仕掛けのゴブリンは動じない。背後の俺を守るために気合と根性を見せてくれた!
ああ、それに応えなくてどうする。俺は壊れていくマシンゴブリンの背中に足をかけ、放たれた塔を逆走する!
「いくぞスキンヘッドーッ!」
「なっ、塔を逆走してくるとか何でもありかよオメェは!?」
頂点に立つスキンヘッドがギョっとした表情を浮かべた。
もちろんこんな芸当が出来るのは俺だけの力じゃない。ブーツに宿ったアーマーナイトが、わずかに存在する凹凸を的確に捉えて足場にしてくれているのだ。
『ゴギッ、ガッ……ゴシュジン、ガンバレッ!』
背後から響いてくるマシンゴブリンの声援と、塔に圧し潰される破壊音。
それをしっかりと耳にしながら、俺は再び漆黒の召喚陣を展開させた。
「禁断召喚! 現れろ、『キメラティック・ライトニングウルフ』ッ!」
『ウォオオオオオオオオオオンッ!』
雄叫びを上げながら弾丸のごとく現れたのは、全身から白雷を放つ人造のウルフキングだった。
ウルフキングの肉と『神雷の宿石』というレアアイテムを融合させて産み出したモンスターだ。
そのステータスはマシンゴブリンと同じく、敏捷値極振りで他はゼロ。たった一つの目的のために作り出された鉄砲玉だ。
ライトニングウルフはそれを承知で塔を逆走し、文字通り雷速でスキンヘッドに襲い掛かった。
「チィッ、どきやがれ犬っころが!」
噛み付こうとしていたその顎にアッパーを叩きこむスキンヘッド。
だが、これで目的は達成された。ライトニングウルフの首の骨が折れるのと同時に、スキンヘッドの身体に電流が走った!
「グガガガガガガガガァッッッ!?」
ブスブスと煙を立てながら、スキンヘッドは塔の頂点より落ちていく。その身体はビクビクと震えていた。
これがライトニングウルフの能力だ。触れた敵を『麻痺状態』にする……そのためだけにコイツを作り出したのだった。
俺はいよいよ塔を登りきり、逆に落ちていくスキンヘッドに向かって最後のキマイラを召喚する。
「禁断召喚! 現れろ、『キメラティック・ジェノサイドバード』ッ!」
展開された召喚陣。そこから現れたのは、全身から闇色の炎を放つ悪夢のごときファイヤーバードだった。
ファイヤーバードの肉と『獄炎の宿石』というレアアイテムを融合させて産み出したモンスターだ。
そのステータスは魔力値極振り。こいつの使い方は、ウルフキングよりもさらに単純だった。
「ジェノサイドバード、ヤツに向かって堕ちていけッ!」
『ピギャァアアアアアッ!』
自爆特攻。それが自分の肉すら焦がしてしまうほどに出力特化した、コイツの唯一にして最強の攻撃方法だった。
さらに俺は容赦しない。弓を手にしながら塔から飛び降り、落下していくスキンヘッドに向かってポン太郎たちを射出した!
スキル【闇分身】により、11本の矢は110本にまで増殖する。その光景に実況役のナビィが絶叫を上げた。
『ファッ、ファアアアッ!? 容赦がないにもほどがあるッ! 魔王ユーリ、特攻用に造ったキマイラを叩きこむだけでなく、憑依系モンスターと「弓」の組み合わせによって矢の豪雨を完成させました! それが麻痺状態のスキンヘッドさんに迫るー!』
敵を殺さんと向かって行くジェノサイドバードとポン太郎たち。
だがその集中砲火を受ける直前、スキンヘッドの目がカッと輝いた。全身にみなぎる赤い闘気がさらに膨れ上がり、麻痺状態だというのに動き始めた!
「グハハハハハハハァッ! HP30%以下で状態異常! あぁ、これで条件は満たされた!
スキル発動、【絶命覚悟の暴走特攻】ォオオオオッ!」
その瞬間、スキンヘッドは爆発した!
いや正確には、背中から鮮血の混じった爆風を放ちながら空へと向かってきたのだ。
ああ、攻略サイトを覗いてる時に見たことがある。
スキル【絶命覚悟の暴走特攻】。「HP30%以下で状態異常」という限られた状況でしか発動できないスキルだが、一度発動すれば全ての状態異常を回復し、1秒ごとにHPを1%ずつ減らしながら敵に向かって突撃するという、まさに一矢報いるためだけに存在するスキルだった。
「ウオリャァアアアアアアアアッ!」
『ピギャァアアアアアアアッ!?』
命の全てを絞り尽くしたスキンヘッドは化物だった。
向かって来ていたジェノサイドバードの嘴を掴み、背負い投げでもするかのように地面へと音速投下。それによって哀れなジェノサイドバードは大爆発を起こし、広場の隅で「あんな戦いに混ざれるか……!」と震えていたプレイヤーたちを吹き飛ばした。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
『キシャシャシャ~~~~ッ!?』
さらにスキンヘッドは止まらない。迫りくるポン太郎たちを超音速のパンチで蹴散らしながら俺へと向かってくる。
ただでさえアイツはHPを減らしていく『決死の覚悟』を発動しているのだ。もはや十秒ともたない命だろう。
だったら……、
「……いいぜ、来いよスキンヘッドッ! 最後は俺の拳で終わらせてやらぁあああーーーッ!」
「ぬかせぇユーリ! 勝負を決めるのはオレ様の拳だぁああああーーーーッ!」
手にした弓を全力で放り投げ、俺たちは空中で衝突した!
ぶつかり合う拳と拳。もはや【魔王の波動】では、背後より爆風を吹き出すスキンヘッドは止められない。俺たちは空中で何度も何度も殴り合い、死に向かって突き進んでいった。
「勝つのはオレ様だーーー!」
あいつの拳に打たれるたびに、俺のHPは何度もゼロになりかける。
「いいや、勝つのは俺だーーー!」
俺の拳が炸裂するたび、スキンヘッドは確実に死へと近づいていく。
もはやお互いの存在以外わからない。ひたすら拳を振るい、打って打たれる感覚だけが俺たちの全てだった。
「ユーリィイイイッ!」
「スキンヘッドォオオッ!」
そして訪れる最後の時。俺はスキンヘッドの剛拳を掻い潜り、その腹部へと強烈な一発を叩きつけた!
「ガハァァアアッ!?」
血の息を漏らすスキンヘッド。ああ、この瞬間を逃しはしない! 俺は拳を引き絞り、ヤツの顔面へとトドメの一撃を打ち放った!
「これで、終わりだーーーーッ!」
ズパァァァアンッ! という音がスキンヘッドの顔面から響き渡り、ヤツは勢いよく地面へと叩き付けられるのだった……!
その瞬間、盛大なファンファーレと共にメッセージウィンドウが表示される――!
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・おめでとうございますユーリ様!
最後のプレイヤーの討伐に成功しました! バトルロイヤルイベント・第一回目の優勝者はアナタ様です!
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「はぁ、はぁ、やった……のか……!」
最後の数秒間を制したのはこの俺だった……!
だが、もう限界だ。喜びの雄叫びを上げようにも、俺の精神力は尽き果てていた。使い魔の召喚すらままならず、そのまま消えかけていたスキンヘッドの身体の上へと落下する。
ヤツの胸板に当たった瞬間、
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スキル【執念】――発動に失敗しました。
アナタのHPはゼロになりました。
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……ここでまさかの発動失敗。勝者として雄叫びすら上げる間もなく、俺は落下ダメージによって死亡したのだった。
徐々に身体が薄れていく俺に対して、下敷きになったスキンヘッドがガハガハと笑う。
「っておいおい、人の死体の上で死ぬなよ! つーかオレ様があと一発コブシを捻じ込んでたら、勝ってたってことじゃねぇか?」
「ハッ、負け惜しみ言いやがって。……不満があるなら何度だって相手になるぜ、スキンヘッド」
「おうよ。またやろうなぁ、ユーリ……!」
共に身体が消えていく中、ダチ公と一緒にニヤリと笑い合う。
そんな俺たちへと響き渡るナビィや観客たちの大歓声。『どっちもすげぇや!』『最後は滅茶苦茶熱かったぜぇ!』『オレもサモナーになるぜぇッ!』という声に交じって『スキンヘッド爆発しろ!』という謎の罵声(?)まで聞こえてきたが、実際に背中とかが爆発してたから許してやって欲しい。
こうして多くの拍手と声に包まれながら、俺のバトルロイヤルは幕を閉じたのだった――。
「あっ、第二回から第五回まで全部のバトルロイヤルに出るつもりだからよろしくなー」
『『『やめてください魔王様ッ!』』』
観客たちに一斉に止められた。解せぬ……!
・バトルロイヤル編、完!
運営「初イベントが虐殺イベントで終わらずに済んだ……スキンヘッドありがとぉおおおおおおーーー!」
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『運営がんばれ……!』
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