174:最終決戦、VS『暁の女神ペンドラゴン』!
「待ちくたびれたよ、ユーリくん。本当に……本当にね」
これまで天の高みにいた女、ペンドラゴン。
されど彼女の姿は無傷ではなかった。
ところどころに火傷の跡があり、美しかった白き鎧には黒い煤が付いている。
「その有り様は……あぁ、まさかお前」
「うん。キミのように飛んでくれる使い魔はいないからね、だからコイツを使わせてもらったよ」
そう言ってペンドラゴンは異空間より、何本かの剣を取り出した。
それらからは赤黒いオーラが滲み出ており、いかにも危険そうだ。
俺はその武装の数々に見覚えがあった。
「爆発武器、だな。なるほど、そいつをブースター代わりにしたわけか。……つかそれって俺が天狗仙人のところに行くときに使った手じゃねーかよ」
「そうそう。愛しいキミの動向はあの手この手でチェックしているからね。堂々とパクらせてもらったよ」
悪戯っぽく笑うペンドラゴン。彼女は宇宙空間を悠々と漂いながら、成層圏外に浮いた星屑に触れていった。
「ユーリくん、キミはいいセンスをしているよ。特に生産職をセカンドジョブにした選択は素晴らしかった。それも真似させてもらったさ」
「へぇ、お前もバトルメイカーに?」
俺の言葉に、ペンドラゴンは首を横に振った。
それと同時にひときわ大きな星屑に触れ――凶暴な笑みを口元に張り付ける……!
「いいやッ、私が選んだのは『クラフトマスター』! 普通ならば本当に戦闘には使えない、生産職の正統上位職さ!」
次の瞬間、彼女が触れていた星屑が変貌を果たす。
白き魔力に包まれるや、巨大な岩石から巨大な槍へと姿を変えたのだ。
その根元へと強烈な蹴りを加えるペンドラゴン。すると無重力空間であるがために、巨大槍は蹴られた勢いをそのままに俺に向かって飛んできたッ!
咄嗟に地を蹴って避けようとするも、足場とすべき地面がない……!
「ッ、宇宙空間で動くには――コレだ!」
俺は足元に半透明の力場を生み出し、その上を跳ねて攻撃を回避した。
特殊行動アーツ発動『虚空蹴り』。アリスに挑む時にも使った技だ。空中で二段ジャンプを可能とするアーツなんだが、宇宙でのバトルはこれを多用することになりそうだ。
「ちっ、いきなりやってくれるぜ。宇宙から放ちまくった槍の正体は、形をいじった星屑だったってわけか」
「その通りだとも。生産系正統上位職『クラフトマスター』ともなれば、一度精製したモノを高速成形できる能力もあるからね。地球を攻撃するのに便利だと思ったよ」
「いや、どんな発想してんだよ……」
普通は『売り物たくさん作れそうだな~』くらいしか思わないだろその能力。
どうしたら『宇宙に上がって槍型隕石作って落としまくれるじゃん』ってなるんだよ。こえーよ。
「ははっ……流石はVR界最古のプレイヤーだな。発想のスケールがちげーや」
「む、その最『古』って部分はやめたまえ。歳を感じる。……あぁそれと、ここは宇宙空間という設定だからね。そろそろ……」
「えっ?」
ペンドラゴンが言いさした刹那、何とも言えない不快感が身体の底から湧き上がった。
それと共に目の前にメッセージが表示される。
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・無酸素空間での滞在時間が一分を超えました!
有酸素空間に復帰にしない限り、毎秒1ダメージが発生します!
・スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】発動! 致命傷よりHP1で生存!
スキル【執念】――
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「んげぇ!? ダメージ設定あるのかよっ!?」
予想はしていたが、これはきつい。
ゲームだけあって本当に酸欠にさせないだけ優しいとも言えるが、俺はHP1のプレイヤーだ。常に死に続けているに等しい。レベル百近くまで幸運値に振り続けてこなければ、食いしばりスキルをすぐに不発して終わっていた。
「……ちなみにペンドラゴン。お前はこの無酸素空間で、二時間以上もどう耐えてきたんだよ?」
「フッ、回復薬のガブ飲みに決まってるだろう?」
「キメ顔で言うんじゃねえ」
すげー地味だしシュールだなぁオイ。宇宙からの攻撃は驚かされたが、ダメージの耐え方は普通なのかよ。
“にしても……みんなが楽しくイベントする中、ひとりぼっちで回復薬をグビグビ飲み続けるペンドラゴンか”
なんかその姿を想像したら、うん……。
「……おいこらユーリくん。なんだ、その生暖かい目は。何が言いたい?」
「いやぁ別に。ただやっぱり、お前はゲームのボスなんかじゃなくて、れっきとした一人のプレイヤーなんだなぁって思ってさ」
ジト目で睨んでくる彼女に、思わず笑みがこぼれてしまう。
そう。最初にペンドラゴンに出会った時は、なんだコイツはと思ったものだ。
常に微笑を張り付けながら無茶苦茶な暴力を振るってきて、まさに暴龍のような存在だった。
だけど違う。
「凛としているようにも見えて、アホなことをやる時もある。『孤高の天才』って感じだけど、喫茶店で俺に吐露したみたいに……悩みを抱えてる。そう考えると、お前ってわりと普通の人間だよなぁ」
「っ……私が、普通の人間だと?」
「あぁそうさ」
一瞬のためらいなく頷いた。
オンラインゲームってのは不思議なものだ。傍目には無茶苦茶で凶悪なゲームキャラにしか思えないヤツでも、中身は現実を生きる人間だ。ふとした拍子に、ごくごく普通な人格が垣間見える時だってある。
俺は持ち前の負けん気でペンドラゴンの脅威に立ち向かい続けた結果、彼女のそんな一面を知ることが出来た。
「ペンドラゴン。お前、俺が駆けつけた瞬間にパァって救われた顔をしてたぜ? アレはラスボスの顔っていうより、勇者が助けに来た時のさらわれたお姫様って感じだったな」
「お、おひめさまって……!」
「照れんなよ。……お前、不安だったんだろ? 宇宙に上がって隕石攻撃なんて滅茶苦茶な策を思いついたはいいけど、それで俺が死んだらどうしよう。仮に生きてても同じ戦場まで上がってこれなかったらどうしよう。他の連中みたいに、心が折れちゃったらどうしようってな」
「それは……」
「俺は違う」
改めて、きっぱりと言い切ってやる。
もう二度と、コイツがくだらない不安を抱えないように。
「俺は無敵だ。俺は最強のユーリ様だ。いくらお前が死ぬほど頭よくて常に本気で容赦なくて凶悪で凶暴で美人で強かろうが、俺はお前から絶対に逃げない」
「っ!」
「だから全力で来いよ。お前の全てを食い尽くしてやる」
「っっっ!?」
俺の宣言に、ペンドラゴンは両手で口元を押さえながら震え始めた。
「ユ、ユーリ、くん……! キミはどこまで、私を喜ばせるつもりなんだ……!?」
「はっ、俺はただ絶対に負けねーって言ってるだけだよ。さぁ、そろそろやろうぜ?」
「ッ、あぁっ!」
俺と彼女が構えたその時、宇宙空間に巨大なモニターが出現した。
それと同時に上がる歓声。俺とペンドラゴンは驚きながらそちらを見る。
「これは……」
『――さぁ、いよいよイベントもこれでラストッ! 負け組転送エリアより、ナビィが失礼しちゃいま~す!』
画面いっぱいに小さな顔を映し込むナビィ。どうやらこれはアイツの仕業らしい。
ナビィが『みなさん、二人に声援を!』と言いながら退くと、そこには何十万人ものプレイヤーたちが……!
『負けんじゃねーぞユーリー!』『やってやれっ、おぬしは無敵だ!』『魔王殿よっ、死んだ我らの分もっ』『オレたちの分もっ!』『おっおっおっお!』『そいつにブチこんでやれーっ!』
宇宙に轟くみんなの声。スキンヘッドやザンソードなど、顔見知りからそうでない連中までもが、全力で俺を応援してくれた。
さらに、
『頑張りなさい、ペンドラゴン!』『アンタがボスや、ケジメつけぇやっ!』『頑張りなさいペンドラゴンちゃん、力づくで押し倒すのよッ!』『わたしたちが出来なかったユーリさんの打倒っ』『アンタがやってみせなさい!』
ペンドラゴンへの声援も負けてはいない。
アリスやキリカを始めとした者たちが、孤高だった女王にエールを送る。
二人ぼっちの戦場が、みんなの熱意で満たされていく……!
「これは……負けられないじゃねーか……!」
「あぁ……まったくもって、同感だ……っ!」
俺たちは心から笑い合った。
ああ、こんなに幸せなことがあるか。たくさんの人々に祝福されながら、最大の敵と全力でぶつかることが出来るなんて。
本当に、このゲームに出会えてよかったよ。そしてみんなに会えてよかった!
『あ、ちなみに現在、生き残っているプレイヤーはユーリさんとペンドラゴン様だけとなっています!
いや~地上での決戦も熱かったですよぉ。最後はグリムさんが爆発武器を山ほど抱えて、女神側のみなさんに爆殺テロ攻撃を仕掛けて。まだ小さい子なのに、ユーリさんの部下になったせいで頭が……』
「っておいナビィッ、頭がなんだテメェ!? 俺に似て勇敢になったとか言えやッ!」
失礼なAIだなぁチクショウッ! このゲームを始めてから最初に出会った存在だが、アイツはやっぱり気に食わねーな! 今度機会があったらモチモチのほっぺグニグニしてわからせてやるっ!
「あのチビ妖精がぁ~……!」
「ははははっ。まぁつまり、本当の意味でコレが最終決戦ということか。――それでユーリよ、キミに勝算はあるのかな?」
白き刃を抜くペンドラゴン。彼女の状態は万全に等しかった。鎧こそ多少傷付いていれど、これまで高みの見物に徹してきたわけだからな。使用制限のある強力スキルやアーツは全て残っているだろうし、気力だって十分だろう。
……対して俺はボロボロだ。こうしている間にも環境ダメージで死にかけ続けている上、地上で激戦を繰り広げた分、疲労だって蓄積している。最上級の使い魔たちもみんな死んでしまった。
あぁ、だけど。
「舐めるなよ、ペンドラゴン。お前のためにちゃんと手札は残してきたさ」
俺は両腕を十字架のように広げた。
そして、右手には剣を執り、左手は強く握り締めて鉄拳を作り上げる。
さぁ、準備は整った。今こそ発動しろ――!
「最終スキル・二重発動、【豪剣修羅】【剛拳羅刹】!」
その瞬間、身体の奥底から二色の闘気が湧き上がった。
剣を持つ右側からは蒼きオーラが、拳を握った左側からは赤きオーラが鬼火の如く揺らめき立つ。
「ッ、ユーリ……それは……!」
変貌を遂げた俺の姿に、ペンドラゴンが目を見開いた。
「あぁ、これこそお前を倒すために取っておいた二つの切り札だ」
スキル【豪剣修羅】と【剛拳羅刹】。それは先日、三番目の限定スキルに何を選ぼうか悩んでいたところ、ザンソードとスキンヘッドが勧めてきたものだ。
最終的に俺は、戦っていない魔物にも経験値を分配するスキル【魔の統率者】を外したことで、どちらも取得したのだった。
「これらの効果は、剣士と闘士の最上級スキル【剣の極み】と【拳の極み】と同じモノだ。刃か拳で攻撃するたび、俺のMPは回復する。――さらに」
「ッ!?」
再びペンドラゴンは驚愕する。彼女の金色の双眼に、蒼き翼と赤き翼が映り込んだ。
それは、俺の身体から湧き上がった闘気が爆発的に膨れ上がったモノだった。
「さらに――使用者のHPが1の時、二つのスキルは覚醒を果たす。MPの回復効果から、MPの『全回復』効果へと強化されるんだよ……!」
もはや、俺のMPが尽きることはなくなった。剣がわずかにでも掠めれば全快するため、攻めれば攻めるほどさらに攻め込むことが出来る。
加えて、こちらが攻め手に出られないほどの圧倒的な攻勢に相手が出たとしても、【神殺しの拳】によって一度でも攻撃を弾くことが出来れば、俺のMPはマックスとなる。そこから全力での反撃が可能になるわけだ。
「どうだ、ペンドラゴン。今の俺は、最終決戦の相手には不足か?」
「っ、いいや――十分以上だッ、魔王ユーリィッ!」
虚空を蹴り、こちらへと翔けるペンドラゴン。
かくしてついに、幕引きとなる大決戦が始まったのだった――!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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