173:天の果て
「行くぞ、ウル太郎」
『アォオオーーーーーンッ!』
呼び出した使い魔の背に跨り、『始まりの街』を駆け抜ける。
もはや街並みは変わり果てていた。
戦火によって焼かれ、砕け、あらゆる建物が崩れ去っていた。
あぁ、だけど。
「ははっ、どこもかしこも懐かしいなぁ……!」
過ぎ去っていく風景に笑みがこぼれる。
胸に感じる思い出は、何も色褪せてはいなかった。
「あそこの路地は、キリカと追いかけっこをしたところだな。あっちの崩れたボロ小屋は、グリムが前に使ってたやつか」
どこも本当に印象深い。
戦いに明け暮れてきたはずの俺なのに、いつの間にか、たくさんの人たちとの思い出があった。
「そこの修練場では、コリンとシルとバトルをしたことがあった。あっちの広場では、ザンソードと一緒に絶滅大戦の開催前イベントを見たっけな。アイツずっと俺の手を握ってきやがって」
過去を振り返りながら前に進む。
この街で、この地で、このゲームで、俺は愉快な連中と巡り会うことが出来た。
おかげで今の俺は、どんな不幸にも負けない心を手に出来ていた。
「あぁ、あの残骸の山はたぶん、俺に特注の装備をくれたフランソワーズの店で――そしてあそこの噴水は、スキンヘッドと初めて出会った場所か」
親友の存在に感謝しながら、ついに俺は始まりの場所を通り抜ける。
さぁ、『女神の霊樹ユグドラシル』まであと少しだ。壁のように反り立った太い根元はすぐそこだ。
気合いを入れろ、『魔王ユーリ』。俺の戦いを見てくれている全ての者に、熱い勇姿を見せつけてやれ。
もしもかつての俺みたいにヘコんでるヤツがいるんなら、そいつの心にも付けてやるぜ。戦友達からもらった負けん気の炎をなぁッ!
「やるぞウル太郎っ、ユグドラシル目掛けて突っ込め!」
『アオオオオオンッ!』
視界がグンッと加速する。最強クラスまで育て上げたウルフキングの猛ダッシュにより、あっという間に『女神の霊樹ユグドラシル』は目の前となった。
そしていよいよ、木の根元に突っ込みそうになったところで――、
「ウル太郎退却! 今度はお前だ、チュン太郎ッ!」
『ピギャァーッ!』
俺はウル太郎の背よりジャンプすると、空中でチュン太郎を呼び出して飛び乗った。
モンスターの飛行制限となる十メートルの高さまで一気に翔ける。
「そんで最後は、ゴブ太郎!」
『ゴブゥーッ!』
最高到達点に至ったところでチュン太郎を退却。代わりに空中でゴブ太郎を呼び出すと、その大きな手の上に乗った。
ゴブ太郎は俺の意思を汲み、砲丸投げをするかのように肩を逸らすと……、
『ゴッッッブゥーーーーーーーッ!』
自慢のパワーをフルに発揮し、俺を空へと投げ飛ばした――!
ボスモンスターたちの奮闘により、上空百メートル近くまでたどり着く。
「さぁ、こっからはマーくん! お前に任せたぜっ!」
『ッッッ~!』
憑依モンスターのマーくんに脚部の動きの全てを委ねる。
落下し始める直前で霊樹の樹皮に足先をかけるマーくん。かつて『ギガンティック・ドラゴンプラント』を登頂した経験を思い出し、細かな木のくぼみを足掛かりとしながら空に向かって駆けていく。
「いくぞペンドラゴン、お前のいる戦場へッ!」
雲の向こう側。成層圏を突き抜けたその先を睨み付ける。
これまでの戦いでよくわかった。VRゲームは本当に自由だ。
発想を実現するためのステータスやスキルなどが揃っていれば、何だって出来る。数値さえ揃ったのなら後は気合いの問題だ。
“……ペンドラゴンのヤツも、こうして空まで駆け上ったんだろうな”
森のように茂った枝葉の間を駆け抜けながら考える。
マーくんによってステータスと操作テクを補ってもらっている俺と違い、ペンドラゴンは単身独りで、宇宙を目指していったのだろう。
たぶん、ひとかけらでも不安はあったはずだ。もしも足を滑らせて地面に堕ちたら、アイツだろうと助からない。何も出来ずにイベント終了だ。そんな最悪の未来もあったはずだ。
――そうなる恐怖を押し殺し、彼女は俺と最高の一戦をするために、天壌の舞台にまで上がってくれたんだ。
だったら俺も応えなくちゃ、だよなぁ!
『ッ――ッッ!』
「あぁ、いよいよ頂上だな」
マーくんはしっかりとやり遂げてくれた。
垂直の大樹を駆け上がり、上空数千メートルの高さまで俺の身体を運んでくれた。
最後に一気に加速して、大樹の頂点に辿り着く。
小さくなった『始まりの街』が、雲の真下に垣間見えた。
「ありがとうな、マーくん。幸運値以外クソザコな俺の足になってくれて。おかげでここまで来ることが出来たよ」
足装備に宿った相棒に感謝だ。コイツと出会うことがなければ、俺は狩場に向かうことすら苦労していただろう。
「さぁて、こっからはポン太郎軍団。お前たちに助けてもらおうかな」
『キシャーッ!』
俺の周囲に可愛い連中が現れる。
十一体の意思持つ武器霊。これまでずっと支えてきてくれた自慢の舎弟たちだ。
俺はその中から弓に宿ったポン十一郎を執り、空いた片手にポン太郎の宿った矢を構える。
「頼むぞポン太郎――『暴龍撃』!」
空に向かい、俺はポン太郎を射出した!
アーツの力により登り龍へと変貌するポン太郎。天の果てを目指して翔けていく。
「からのっ、ポン次郎に『スピードバースト』で敏捷値強化! そして『蛇咬撃』だ!」
『キシャ~!』
すかさず次男の宿った矢をつがえると、ポン太郎のお尻に向かって放った。
空中で大蛇と化すポン次郎。速度を速めたことで長男に追いつき、そのお尻にガブリと噛み付く。
「よしいくぜっ!」
かくして、俺の身体は空へと舞い上がった。
天魔流アーツ『蛇咬撃』の応用技だ。放った矢が弓と繋がった状態で蛇のオーラを纏うというこの技。本来ならば当たった敵を自分の下に引きずり寄せるアーツなのだが、こうしてヒモ代わりにして引っ張ってもらうことも出来る。
それを応用した疑似飛行だ。雲海さえも置き去りにして、成層圏へと突入していく。
『キッ、キシャァ……!』
ポン太郎の辛そうな声が上がった。
矢に龍のオーラを纏わせて放つ最大奥義の『暴龍撃』だが、流石に飛距離には限界がある。
それに加えて、ポン太郎は矢でありながら使い魔だ。
ブレスキの一度目のアップデートにより、使い魔の飛行限界は十メートルと定められている。それ以上の高度に至ると、その限界点まで堕ちていってしまうのだ。
飛距離限界と高度限界。その二つの束縛によって、ポン太郎は伸びを失い始めた。このままでは俺も大地に真っ逆さまだ。
『キシャシャァ……!』
“すまねぇ姐さん、これ以上は……!”と焦るポン太郎。
そんな可愛い使い魔に、俺はニッと笑いかけた。
「なぁーに、安心しろよポン太郎。策は思いついた――お前の兄弟たちを、信じてやれ」
俺は片手にポン三郎を執ると、その切っ先を地上のほうに向けた。
さらには【武装結界】によって残るポン太郎軍団七体全てを周囲に展開し、同じく地上に刃を向ける。
そして、
「やるぞお前たちッ! 天魔流奥義『鳳凰撃』――!」
『『『キッシャーーーーーッ!』』』
次瞬、彼らは炎の巨大鳥となり、地上に向かい放たれた。
まるで墜落するイカロスのようだ。されど、ポン太郎軍団のアレは失意の落下ではない。
天壌の戦場に至るための、未来に向かっての天墜だ――!
「うぉおおおー---っ!」
熱い熱波を受けながら、俺の身体は宇宙に向かって加速した。
そう、鳳凰となった舎弟たちをブースター代わりとしたのだ。高熱エネルギー体の落下による対流を推進力に、成層圏を超越していく。
天に瞬く星の海を目指して、空気の壁を一気に突き破っていき――ついに。
「――よぉ、ペンドラゴン。遊びに来たぜ」
「――やぁ、ユーリくん。よく来れたねぇ」
蒼き空を足元に、彼女と軽口を交わし合う。
かくして俺は仲間たちとの絆を胸に、『暁の女神ペンドラゴン』との対峙を果たしたのだった――!
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