16:龍の昼飯コリンちゃん!
「あひぃいいいい死ぬーーーーーーーー!?」
俺が駆けつけた先にはとんでもない光景が広がっていた。
スカート丈の短い和服を着た小さなネコミミの女の子が、無数の蔦によって四肢を拘束されていたのだ。
泣き喚きながら手にした短刀を振り回そうとしているが、手首をがっちりと締め付けられていて脱出できそうにない。
『ウガァァァアアッ!』
和服の少女を吊るし上げていたのは、ドラゴンと花が融合したような巨大な植物モンスターだった。
ヤツは粘液まみれの口をバックリと開け、彼女を食べようと顔を近づける!
「わー!? お願いですから食べないでぇーーーッ!」
おっと、こりゃピンチだな!
俺は急いで四本の矢を弓につがえ、彼女の四肢を縛っている蔦に射出した!
狙いをたがわず蔦はちぎれ、和服の女の子は地に放り出された。彼女が地面に落ちる直前、とっさに俺は近づいて小さな身体を受け止める。
「よっと。怪我はないか?」
「あッ、ありがとうございます……!」
うぐぐ……筋力値ゼロじゃ数秒も抱えてられないな。俺は目を白黒とさせている女の子を地に下ろし、植物のドラゴンを睨み上げる。
視界の端にモンスター説明が表示された。
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レアモンスター:ドラゴンプラント
竜の死体を捕食した植物モンスターがその力を取り込んだ存在。
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『ウガーーーーーーーッ!』
咆哮を上げるドラゴンプラント。食事を邪魔されたことに怒ったのか、俺に対して何本もの蔦を放ってきた。
「あ、危ないですよっ!? 逃げましょう!」
それに対して和服の子が悲鳴じみた声を上げるが、
「まぁ見てろって。――いくぞ、お前たち!」
『キシャァアアアアアッ!』
ポン太郎ファミリーズを高速で射出し、迫りくる蔦を撃墜! 最後に放ったポン太郎が竜の頭にぶっ刺さる!
『ウガガァアアアッ!?』
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スキル【ジャイアントキリング】発動! ダメージアップッ!
スキル【致命の一撃】発動! ダメージアップッ!
スキル【アブソリュートゼロ】発動! ダメージ倍増ッ!
クリティカルヒット! 弱点箇所への攻撃により、ダメージ激増ッ!
スキル【非情なる死神】発動! クリティカルダメージさらにアップ!
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数々のダメージアップスキルにより絶叫を上げるドラゴンプラント。
それとは別に、後ろで震えていた女の子も叫び声を出す。
「ってぶぇえぇぇええええッ!? クソ命中率と言われる矢を、迫りくる蔦に全部当てたッ!? そのうえ一発でドラゴンプラントに大ダメージを与えたッ!?
ちょっとアナタ、いったいどんな弓を使って……ってそれ『初心者の弓』じゃないですかッ!? なんでそんなの使ってんですか!?」
「ああ、俺筋力値ゼロだからこれしか装備できないんだよ」
「筋力値ゼロッ!?」
ギャーギャー騒ぐネコミミ和服の子。そんな彼女を横目に、俺はドラゴンプラントにトドメを刺すべくポン太郎たちを集結させる。
「いくぞお前たちッ! 『パワーバースト』、『スピードバースト』、『ハイパーパワーバースト』、『ハイパースピードバースト』!」
MPが上昇したことで可能になった強化アーツのてんこ盛りを行う!
バチバチと漆黒に輝く無数の矢たち。俺はそれらを弓につがえ、
「これでッ、終わりだーーーーッ!」
『ウガァアーーーーーーーッ!?』
ドラゴン目掛けて一斉射出! 限界まで強化されたポン太郎たちはヤツの頭を吹き飛ばし、その巨体を突き倒した!
ズシィイイインッと森に轟音が響くのと同時に、俺の目の前にメッセージさんが表示される。
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レアモンスター:ドラゴンプラントを討伐しました!
ユーリとポン太郎たちとコリンは経験値を手に入れた!
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コリンだって? ……ああ、和服のちっちゃい女の子の名前か。俺が助ける前に多少なりともダメージを与えて、戦闘に参加していた扱いになってたってことか。
彼女のほうを見ると、ドラゴンが消えていく姿を見ながらわなわなと震えていた。
「ふっ、ふぁぁあぁぁ……!? ステータスの高いレアモンスターを初心者の弓で倒しちゃうなんてありえない……!
い、一体何がどうなってるんですか! 矢がバチバチと黒く光ってレーザーみたいに飛んでいくアーツなんて、『アーチャー』のジョブにありましたっけ!?」
「いや、俺『サモナー』だから」
「さっ、サモナーッ!? あのモンスターを捕まえるのがすんごいダルい上に、モンスターを召喚するとパーティー枠を食べちゃうから最初から普通のジョブを選んでプレイヤーと組んだほうが強いと言われる、あの!?」
……めっちゃ早口で喋ってゼェゼェと息切れ気味になるコリン。口ぶりからして、かなりこのゲームに詳しいらしい。
「コリン、もしかしてお前ってβテスターだったのか? ……変なことを聞くが、攻略サイトに初心者を騙すようなガセを書いたことはあるか?」
「えっ、確かにβテスターですけど、そんなことをした覚えは……」
「あ~そっかそっか、急に悪かったな! もしもそういうヤツを知ってたら教えてくれ、殺しにいくから」
「殺しにいくからッ!? いったいその人たちにどんな恨みがッ!?」
ネコミミをビクーンッと跳ねさせるコリン。なんだ、付けてるんじゃなくて生えてるのか! すごいな!
「すまんコリン、そのネコミミ触ってもいいか……?」
「ってダメですよ!? これ現実の耳よりも敏感なんですからっ!」
バッと頭を抱えるようにネコミミを隠した。ちぇっ、やっぱりダメだったか~。
「色々と聞きたいこともありますが……とにかくありがとうございました、ユーリさん。危うく死ぬところでしたよ……」
「気にすんなって。それよりもどうして一人でこんなところに? 他の仲間はいないのか?」
膝に手をついて目線を合わせながら話してやる。すると彼女は大きな瞳をキラキラと光らせ、
「ふっふっふっ! それはもちろん、このダンジョンのソロ攻略を狙ってですよ! 昨日、ユーリさんという人が最速ソロ攻略を達成したでしょう!? わたしもβテスターとして、それに続くために…………って、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?
もももももっ、もしかして昨日のユーリさんって……!?」
「ああ、それ俺のことだな」
「ファアアアアアッ!? サモナーで弓使いでついでに筋力ゼロだっていうのに、ソロで攻略しちゃったんですかッ!?」
「おうっ! さらに言うなら幸運値以外のステータスは全部ゼロだぞ!」
「って幸運値極振りィッ!? そ……そんな頭のおかしいステータスの人に、わたしってば先を越されちゃったなんてぇ……ふぇえぇぇえぇぇぇぇ~……!」
魂の抜けていくような声を上げ、真っ白になって固まってしまうコリンであった。
お~い生き返れ~?
コリンちゃんの名前の由来は、食べたら食感がコリンコリンしそうだからコリンちゃんです。
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