154:またいつか
「げほぉっ!?」
ここまでざっと三秒以内。コリンが呻きながら地に落ちた瞬間、一気に時間が動き始めたように感じた。
また、彼女と同時にシルも地面に足を着く。されど力が入らないらしい。ヨタヨタと後退した後、その場で尻餅を付いてしまった。
「え……えぇ……?」
訳が分からないといった表情で、シルは倒れる相棒を見た。
コリンのほうも光の粒子となりながら、「なんでぇ……?」と俺を見上げて呟く。
「答えは簡単だ。――戻ってこい、弓」
命じた瞬間、コリンの側に落ちていた弓が手に戻る。
その光景に少女たちは呆気にとられた。
「弓使いの専用スキル【ちゃんと使ってッ!】ってやつだ。アホみたいな名前通り、弓が自動で帰ってくるんだよ。そして」
『キシャッー!』
弓が震えて奇声を上げた。憑依している可愛い使い魔、ポン十一郎によるものだ。
「モンスターの宿った武器は多少自由に動けるからな。スキルで弓が戻ってくるまでの軌道を、少しは操れるってわけさ」
これが俺の策の全てだ。
ここまで語り終えたところで、コリンがドン引きの表情でこちらを見た。
「えぇぇぇ……。ライトニングウルフを出汁にして襲うタイミングを計った挙句、なんですかそれぇ……? つまりアナタは、その弓さんを含めて『二対三』の状況を作っていたと?」
「まぁそうなるな」
これで捨てたのが剣や槍だったら、二人はもっと警戒しただろう。
しかし放り投げたのは所詮、弓。矢さえなければ何もできない補助具だ。そんなものより『キメラティック・ライトニングウルフ』の単語に注意が行くのは無理もない。
「うぅ……じゃあ、ウルフを出すときに釣られてなかったら勝ちでした?」
「そしたら素早さ極振りウルフが出るだけだろ」
「そんなっー!?」
どうあがいてもクソッ! とコリンは地面を強く叩いた。
死亡状態になったことで能力共有も解けたらしい。ネコミミ忍者の小さな拳は、地面をぺしりと叩くに終わった。
それを最後に身体が崩れる。光になって天へと昇る。
「くっそぉ……本当にイヤなやつですよ、ユーリさんは……! 次こそはっ、次こそはぶっ殺してやりますからねぇ……!」
「おう、また全力でやり合おうぜ」
ニッと笑ってコリンを見送る。
本当にお前は最高の敵だったよ。また戦ったり遊んだりしよう。
「……さて、と」
俺はシルへと向き直った。
真っ赤な瞳が恨めしげにこちらを睨む。
相変わらずバッチバチな奴だぜ。出会った時を思い出すよ。
「くそぉ……アンタが勝ったのって、運ゲーによるものじゃないの……!」
「というと?」
「ッ、もしもアタシたちが前と上からじゃなくっ! 最初みたいに左右から攻めてたら、勝ってたってことよっ! そしたらアンタ、馬鹿みたいに空振りパンチして終わっていたじゃない……!」
負け惜しみ、とも言いきれる言葉だった。誰かが聞けば『素直に敗北を認めろよ』と眉を顰めたかもしれない。
だけど俺は気にしない。負け惜しみのセリフが出るってことは、それだけ悔しかったってことだ。
悔しいってことは、本気で勝ちたかったってことなんだ。
だから真っ向から論破してやる。口でも勝つのはこの俺だ。
「運ゲーじゃないさ。――お前らって、俺のことを評価してくれているだろう? そんな俺に対し、二度も同じように攻めてくるとは思わなかった。ソレを読み切っただけのことだ」
「うぅっ……!?」
シルの瞳から涙が零れた。もはや屁理屈も吐けないといった様子だ。
彼女は「クソッ、クソッ、アホ魔王っ、馬鹿ユーリ! 顔はよくても性格邪悪でしかも彼氏はツルッパゲ!」と、やけくそになって叫び散らした(いや邪悪じゃねえし彼氏いねえよ)。
「まだ、負けてないわ……。コリンが死んでも、アタシがいる……!」
涙を拭い飛ばすシル。
彼女の闘志は決して折れてはいなかった。
赤らんだ顔が、過去最高に美しい。
「それで、どうする?」
「決まっているわよ。殺すわ、ユーリ。アタシの戦いはこれからよッ!」
宣誓と共に、一気にシルは駆け出した。
俺は決して逃げはしない。彼女の瞳を見つめ続ける。
「ウォオオオオオオオオオーーーーーーーーッ!」
街へと響く、少女の咆哮。
真っ直ぐに大剣を握り締め、ひたすら彼女は駆け抜ける。
前へ、前へ、前へ前へ前へ。俺に向かって進み続け――そして。
「ぁ……っ」
そして……シルは死亡した。
俺に斬りかかる直前で、その手から大剣が取り落とされる。
彼女の足が動かなくなり、俺の胸へと倒れ込んだ。
「くっ……そぉ……!」
一筋の涙が再び零れる。
彼女の全身は今や、黒剣の数々によって刺し貫かれていた。
俺の相棒、マーくんが呼び出した『リビング・ウェポン』の群れだ。
今のシルはパワーだけのプレイヤー。超高速化能力を失った今、彼女を滅多刺しにすることなど、魔の軍勢からすれば造作もなかった。
「悪かったな、シル。出来れば俺自身の手で殺してやりたかったが……」
しかし、それは彼女を舐めたことになる。
だから最後まで容赦なく、シルを謀殺し尽くした。使えるモノをきっちり使って、手すら汚さず他殺した。
そんな俺に対し、元副官の少女は「ホントに最悪っ……邪悪の化身っ、戦闘狂……顔は100点、中身0点……顔だけ……顔……!」と、好き勝手に罵りまくり……、
「でも……ありがとうね、ユーリ。最後まで手を抜かないでくれて……」
ふっと、最期に笑顔を浮かべた。
舞い散る光の粒子の中で、シルは俺を強く見つめる。
「心の底から最悪で、でも大好きな魔王様。アタシを殺したんだから、誰にも負けずに頑張ってよね?」
「わかっているさ。お前のボスは、無敵だよ」
そうして数瞬――彼女が光と消えるまで、俺たちは強く抱き締め合った。
またいつか。今度はコリンのヤツも誘って、ギルドで一緒に暴れようと誓いながら――。
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