139:まさかの正体!
――あれからどれほどの時が経ったか。『魔導王ヴォーティガン』との決戦は熾烈を極めた。
とにかくこの隠しボス、ダメージが通りやがらねえ……!
状態異常攻撃は多少は効くものの、それすら一分と経たずに回復し、耐性まで身に付けちまう。
「なぁマーリン、これは流石におかしくないか……?」
激戦の最中、知識自慢のマーリンに問いかける。
彼も違和感に気付いていたらしく、汗を拭いながらヴォーティガンを睨んだ。
「ええ、おそらくはギミック系のボスでしょうネぇ。何らかの条件をクリアしないと、まともにダメージが入らないって感じの」
『いい加減に死ねぇー-っ!』
容赦なく殴りつけてくるヴォーティガン。
それをどうにか跳ねて避けつつ、俺たちは考察を続ける。
「くっ、ギミック系のボスか……! そういうのは大概、道中に『ボスの無敵化を解除する仕掛け』みたいなのがありそうなもんだが……」
「アハハ……ボス部屋の扉、閉まってるわねぇ……! これは詰みってヤツかしらン?」
「って詰んで堪るかコンチキショーッ!」
猛攻を捌きながら頭を回す。
まず部屋が閉まっているこの状況。確かに詰みにも思えるが、完全に諦めるにはまだ早い。『ボス部屋の中にボスの無敵化を解除する仕掛けがある』というパターンもあるからな。
それにだ。無敵系のボスを倒す手段は、特殊な仕掛けを動かすこと以外にもある。
「……前に教皇を蒸し焼きにしたみたいに、特定の攻撃だけは効く可能性はないか?」
「あらッ、それは確かにあるわね。あとは『戦闘から一定時間経ったらダメージが入るようになる』とか、『特定の部位のみダメージが入る』とか!」
「なるほど……!」
これまでの魔導王との戦いを振り返ってみる。
まず特定の攻撃だけが効くかどうか。――これは否だ。
五人で様々な攻撃をブチ込んできたし、特に俺は色んな属性の武器を飛ばしまくってきたからな。
それでもどれもヴォーティガンには効かなかったことを考えるに、特定の武器や属性の攻撃でダメージが入る説はナシだ。
そしてマーリンの言った『戦闘から一定時間経ったらダメージが入るようになる』説、『特定の部位のみダメージが入る』説も、可能性は低いと考える。
「バトルからそれなりに時間は経ったし、隙あらばアリスが全身に攻撃をブチ込んでくれてるからなぁ」
黒閃の降り注ぐほうに目を向ければ、天上に張り付いたクルッテルオの背より、アリスが無数の魔法陣をヴォーティガンに向けていた。
俺のアドバイスにより、少し前から二人は合体状態で戦っている。
脚は速いけど火力に乏しいクルッテルオと、火力は凄まじいが攻撃中はデメリットで歩行できないというアリス。その二人が合わされば最強移動砲台の完成だ。
クルッテルオは壁や天井も走れる分、俺がおんぶしていた時より恐ろしい。
「アリスッ、どこかに当たった時にダメージが入った感はあるか!?」
「全然よ、ユーリさん! こいつ絶対におかしいわっ!」
私魔力極振りなのにーっと涙目になっているアリスさん。
俺も極振りだからわかるぜ。自分の強みがまったく通じなきゃ、泣きたくもなっちまうよなぁ。
「うし、ともかく方針は決まったな。さっきの三つの説がダメっぽいとなれば……!」
俺はスキル【武装結界】を発動し、ポン太郎たちの宿った武器類を全方位に展開させた。ちょうど、部屋のいろんな場所を狙うようにだ。
その瞬間、ヴォーティガンが両目を見開く。
『ぬぅっ、やめろ貴様!?』
これまでにない反応をする魔導王。一目散に飛びかかってくるが、もう遅いぜッ!
「アーツ発動、『暴龍撃』ッ!」
『キシャシャァアアアアアーーーーーーーッ!』
暴龍となって放たれるポン太郎たち。
その内の一本が空席の玉座に襲いかかった時、『おやおやぁ!?』と悲鳴じみた声が上がった。
それと同時に、ヴォーティガンがその場に崩れ落ちる。まるで、糸を切られた人形かのように。
「……なるほど、そういうことだったか」
部屋のどこかにボスの無敵化を解除するスイッチがある。あるいは、ボスの本体がいると踏んでの攻撃だったが……どうやら後者が当たりだったらしい。
土煙の中より、ソイツは透明化を解除しながら現れた。
関節部からキシキシという音を鳴らしながら。
「流石はイタズラ趣味の王様だな。ソレが本体っていうのは、ちょっと予想がつかねーだろ……」
『――キヒヒヒッ、よくぞ見破りましたねぇ!』
楽しげな笑みが道化のメイクによく似合う。
そう。『魔導王ヴォーティガン』の正体は、最初に挨拶をしてきた少女人形だったのだ……!
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