134:おえぇええぇえええぇええ、だよ! ユーリちゃん!
――隠し高難易度エリア『ヴォーティガン王の呪い島』。
そこは暗黒植物系モンスターの宝庫だった。
かつて仲間にした『ドラゴンプラント』のような、捕食植物に幻獣を掛け合わせたような珍妙な怪物たちが多数現れ、俺とヤリーオとクルッテルオを襲撃してきた。
逃げることは難しい。なにせ島の特殊ルールにより、向こうはこちらよりもレベルが大きく高い上に、逆にこっちは全ステータスが半分になっているのだから。
さてさてとなれば――
「――二倍の気合いで避けまくって、二倍激しく攻撃すればいいってなぁッ! 特殊行動アーツ『八艘飛び』ッ!」
『ゴガァアアアッ!?』
跳躍強化の技を使用し、モンスターの群れの間を飛びまわる!
迫りくる牙や爪を連続回避。八回目のジャンプ中にクルリと回りながら弓矢を出現させると、敵連中めがけて一気に射出! わずかな隙に攻めて攻めて攻めまくって、暗黒植物どもを殲滅していくッ!
「わはははははっ! いいなぁここッ、大戦前のいい修行場になるぜ! お前らも楽しんでいこうぜ~!」
「「って楽しめるかーッ!?」」
――などと叫びつつ、ヤリーオとクルッテルオも奮闘していた。
「くそっ、弓使いの師匠に動きで負けてられるかッ! アーツ発動『瞬間強化』ッ、からの『バニシングスピアー』ッ!」
万能ジョブ『ブレイブランサー』のヤリーオは、種々様々なアーツで欠けたステータスをどうにかカバー。場合によっては投擲攻撃も行い、堅実にピンチを跳ね除けている。
対して隠密格闘ジョブ『ビーストライザー』のクルッテルオもすごいぜ。
「アーツ発動『立体駆動』! そしてッ、連続『烈蹴撃』!」
こっちはめちゃくちゃトリッキーだ。あちこちの木々を駆け上がったり跳ねたりしながら敵を翻弄。そこから弾丸のような素早い飛び蹴りをかましまくり、回避と攻撃を両立させていた。
「流石はトッププレイヤーコンビだな。俺も負けてられないぜッ!」
なにせ今日の俺は師匠だからなっ! 弟子たちにカッコいいところを見せてやらねば!
俺はスキル【武装結界】によってポン一族が宿った七本の武具を展開。さらに三本のポン矢を握って、敵に構えると――!
「新必殺技発動ッ、『暴龍撃』三十連打ァアアアーーーッ!」
魔龍の群れを召喚し、敵を一気に滅ぼしていくのだった――!
◆ ◇ ◆
「――ぐぁーっ疲れたっすー! てかマジであの技なんなんすか師匠!? あの竜がいっぱい出るやつ!」
「『暴龍撃』三十連打のことか? まず『暴龍撃』ってのは隠し条件を満たすと天狗仙人が教えてくれる技で、それを隠し条件で弓矢以外の武器でも撃てるようにして、隠し条件で進化させたポン太郎たちを三体に分身させながら放つんだよ」
「なによそれ、隠し条件のオンパレードじゃないの……」
一通りの戦闘を終えた後、俺たち三人は焚火を囲いながら休憩していた。
ちなみに場所は島の奥地にあった古城の前だ。ここに近づくほどにモンスターがわんさか出てきたんだが、いざ城の前まで来ると襲撃がピタリと止んでしまった。
「あるんすよねーダンジョンには。モンスターがほとんど出なくなる場所が。そういうところを指して、『セーフティスポット』って呼んでるんスけど……」
「そういうのは大抵、さらに強いモンスターが出るエリアへの境目にあったりするのよねぇ。たぶんこの城の中はもっと地獄かもだわ……」
うんざりした表情のヤリーオとクルッテルオ。
ここに至るまでの戦闘ですっかりお疲れらしい。まっ、島に来るまでにドンブラコもしたからな。
「よーし。じゃああとじっくり三分休んだら、城の中に出発だ~!」
「「って三分だけーっ!?」」
何やら不満げな様子の二人。
いや当たり前だろ。大戦まで時間もわずかなんだから、一分一秒も無駄に出来ないっての。
「まったくお前ら、スキンヘッドを見習えよ。あいつなんてここ数日、ブレスキ世界の最上級エリアを放浪してずっと戦い続けてたらしいぜ? ボスの初討伐も何度もしたってベッドで聞いたぜ?」
「「ベッドでッ!?」」
「? そうだが?」
って驚くのはそこなのかよ。ボス初討伐しまくってた件に驚いてやれよ。
――ちなみにブレスキでは、初めてボスを狩ったプレイヤーの名前がワールドメッセージで流される機能があったりする。俺のところにもきっと流されていたのだろう。
だがしかし。スキンヘッドの本名が、ラインハルト……なんとかかんとかだったせいで、まっっったく気付いてなかったわけだ。
「ったく、何がラインハルトだっつの。だってアイツ見た目蛮族じゃん? そんな貴公子みたいな名前結びつくかよ」
「……下半身も蛮族だったんすか?」
「は?」
よくわからんことを言うヤリーオに首をかしげる。
まぁとにかく休憩はここらで終了だ。この島は敵も強いけど経験値もウマいし、引き続き暴れてやるとしますか。
そうして俺たちが立ち上がった……その時。
「――すごいわねぇユーリちゃん。激流に飲まれることで時速百キロを維持しながら海に飛び出し、その条件で渦潮に飲まれることでしか到達できない隠しエリアを見つけるなんて。アタシも調査してたのに、僅差で負けたわぁ……!」
「ッ、お前は!?」
振り向けばそこには、全身ピンクのイケメン眼鏡野郎・マーリンが立っていたのだ。
ついでに、彼の横には……、
「おぇえぇぇぇええぇええ……なにあのルート……ぎもちわるいよぉ……!」
――かつて俺を襲ってきたゴスロリ銀髪少女・アリスが、涙目でふらふらしていたのだった……!
大丈夫?