114:熱き別れ
「――ようシル。元気か?」
「うげっ、なんで追ってくるのよ魔王様……!」
夕暮れの中、嫌そうな顔をしたシルと再会する。
何十分か前に出ていった彼女だが、その姿はすぐに見つけることができた。
ヘルヘイムの外に広がる草原をとぼとぼと歩いていたからな。
「……お前、敏捷値はかなり高かったはずだろ? まだこんなところにいたのかよ」
「っ、うっさいわねぇ! アンタみたいに常時突っ走ったような生き方はしてないのよっ!」
プイッと顔を背けてしまうシル。
ちなみにその服装は、出会った頃の普通の女剣士のものだ。
彼女なりのけじめなのだろう。グリムからもらったエロいけど強い装備を返却し、ギルドのアイテムや金も一切持ち出さずにシルは出ていった。
「フン……ほっとけばいいでしょうが、アタシみたいな恩知らずのことなんて……っ!」
「放っておけるか。……一緒に集まってワイワイやるとか、そういうことはほとんどなかったギルドだけどさ、それでもお前は大事なギルドメンバーだったんだ。見送りくらいさせてくれよ」
そう言って微笑みかけると、シルの肩がビクッと震えた。
そうして押し黙ること数秒……夕暮れの中で彼女は目元を潤ませはじめ……。
「っ……ごめん、なさい……! 急になんの説明もなく、出ていくとか言っちゃって……じゃないと踏ん切りつかなくて……!」
ポロポロと……かつて敵だった少女は、泣きながら俺に頭を下げてきた。
「そりゃ、アナタやグリムと普通に遊んだ思い出なんてほとんどないわよ。なごやかな会話なんて一切ゼロで、いつだって『どうしたら敵を上手くぶっ殺せるか』とか、そんなことしか話してなかったわ……」
「まぁなー……」
俺をぶっ殺そうとする形で出会って、そっから変な教皇に一緒に捕まって暴れまくることになって、ギルドを組んでからは別ギルドとの抗争に向けて時間を費やして……。
ははっ、思い返してみれば血まみれの日々だな。俺たちの思い出は、常に戦場の中にしかない。
ああ、だけど――。
「だけどさぁ……楽しかったわよ、魔王様。まるで悪の組織の一員になったような日々が、アタシにとってはすごく楽しかった。アナタと出会えたというだけで、このゲームを始めてよかったと思えるわ」
「おうよ……俺もだぜ、シル。お前と出会えて本当によかった。何ならもう一度、肩を並べて戦ってみるか?」
「あらあら、お誘いありがとう。でもごめんなさい――ッ!」
泣きながら、笑いながら――シルはその手に大剣を出現させた……!
そして俺に切っ先を向け、出会った頃のような狂気の笑みを口元に浮かべる――!
「魔王様……いいえっ、ユーリッ! アタシはアナタともう一度戦ってみたいっ! アナタと出会って成長した今だからこそ、大好きなアナタに挑みたいのよッ!」
――そう吼え叫ぶシルの表情は、凶悪でありながらとてつもなく美しかった。
血のように赤く鮮烈な夕日が、彼女の髪と瞳によく映えた。
「ハハハハッ……お前、最高だよシルッ! いいぜ、やろうっ! 最高に最凶なバトルをみんなに魅せつけてやろうやッ!」
「ええ、決まりねッ! せいぜいクビを洗って待ってなさいよっ、ユーリ!」
――夕暮れに照らされながら、今度こそシルは走り去っていった。
もう呼び止めたりなんてしないさ。
「あばよ、シル。絶対にぶっ殺してやるからな……ッ!」
どれだけ場所が離れようと、俺たちは戦いの流血で繋がってるんだからな――!
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