101:思いを託せッ、キリカちゃん!
「ユーリはんっ、次は真剣勝負で勝ったるからなぁ……ッ! むぐむぐむぐむぐっ……!」
「おう、バトルならいつでもウェルカムだぜ!」
アーツ習得クエスト後。俺は悔しがるキリカと共に、『初心者の街』に(なぜか)ある中華屋でマーボーをバクバクしていた。
ちなみに誘ってきたのはキリカのほうだ。こいつ曰く“ブレスキはムカつくくらいに味覚再現機能がエグくて料理が美味しいけど、お店で一人で食べるのはちょっと恥ずかしいねん……”とのこと。
まぁ花魁姿で中華屋でマーボー食ってたら特に浮きそうだしなぁ。
「ん~っ、やっぱりブレスキオンラインのご飯は美味やねぇ……! 『戦国六道オンライン』なんて、なんか土の味がする握り飯くらいしか食べ物がなかったからなぁ……」
「ははっ、ある意味戦国末期の時代を忠実に再現してるかもだな。ところでキリカ、実はちょうど聞きたいことがあったんだけどさ。お前のアバターって、『異世界からの襲撃者イベント』用に運営が作ったやつなんだよなぁ?」
「そうやけど、それがどしたん?」
「いやお前、『特殊行動系アーツ』を覚えようとしてたじゃんかよ。そうやって追加でアーツやスキルを手に入れることはできるのかなって」
そう問うと、キリカは「あーそれな!」と手を打ち合わせて頷いた。
「普通に出来るみたいやで? だってウチらのアバター、基本的にはアンタらのアバターと変わらへんからなぁ。高レベルアバターを作って、そこにちょっとだけ別ゲーっぽい技やらを盛ったら完成って感じや」
「マジかよ……」
あっけらかんと言うキリカだが、俺はその真実にかなりの衝撃を受けていた。というか運営連中にドン引きだ。
だってよく考えてみろ。一から十まで特別仕様なイベント用のアバターで、最初に披露した性能からずっと変わらないんなら、時間をかければ誰でも討伐可能だろう。
戦闘がヘタな者だろうが、伝聞や実戦でデータを集めていけば勝てる可能性は十分にある。
だがしかし、中のプレイヤーの自由意思によって、無軌道にスキルやアーツを覚えて成長していくアバターとなれば……。
「それ……めちゃくちゃ攻略しづらいだろうが……ッ! スキンヘッドやザンソードみたいなガチのトップ層はともかく、『バトルセンスは普通だけど頑張ってレベル50になりました』っていう大半の連中は、イベント中に殺され放題になるかもだぞ……!」
少しはまともになってきたかと思いきや、相変わらずアレなところがある運営だ。
なんでいつも炎上寸前のギリギリな仕様にしやがるんだよ。下手をすれば大量のプレイヤーが辞めかねない事態だろうに……。
「本当にあいつらは……」
まさかの衝撃のシステムに、思わず溜め息を吐いてしまう。
――だがそこで、キリカはマーボーをガツガツとかき込みながら「気にすることはあらへんわ」と言い切ってきた。
「キリカ……?」
「何も問題はあらへんよ。――だってこの世界には、ゴミ職業と最弱武器とクソステータスで最強になった、アンタって人がおるやないか……!
たとえ運営がどぎつい試練を持ってこようが、アンタが笑いながら攻略したればいい。どんな『不可能』も楽しんで『可能』に出来るヤツがいれば、それだけで希望が持てるもんや。そうすりゃみんな辞めへんよっ……!」
そう語るキリカの口調には、確かな熱が込められていた。
つい先日会った時には、この『ブレイドスキル・オンライン』をヌルゲーと嘲っていたのに。
刺客として呼ばれただけの彼女にとっては、別にこの世界のプレイヤーたちが大量に辞めようがどうでもいいはずなのに……。
「はぁ……昨日な、『戦国六道オンライン』のサービス終了が決まったわ。きっついゲーム難易度で引退者を続出させてきたあのゲームも、いよいよ年貢の納め時やと」
「っ、サービス終了ってマジかよ……!? じゃあお前、帰る場所が……」
「ははっ……まぁそんなわけやから、ついつい似合わんことを言ってもうたわ。あぁ、今になって思うねん……。“もしもあの世界に、ブレスキを盛り立てたユーリはんみたいな人がいたら、どうなってたんやろう”ってな」
寂しさと悔しさの入り混じった表情で、キリカはお冷を一気に飲み干す。
そしてグラスを机にダンッと置き、赤らんで目で言ってくる。
「だからアンタッ、絶対に負けんなや……ッ! なんか裏でコソコソやっとるペンドラゴンのヤツにはもちろん、ウチを含めた他の刺客たちにも、笑いながら絶対に勝ちぃやッ!」
敵でありながら、それでも俺に「負けるな」と彼女は言い放つ。
その言葉に、俺は「もちろんだ」と頷いた。
「お前の想い、受け取ったぜ。これからも勝って勝って勝ちまくってやる。だから今度戦場で会った時は、全力で襲って来いよな?」
「フッ……そんなん言われるまでもないわ! もしもアンタが負けた時には、ウチがこの世界のトップになってやるからなっ!」
「おうっ、負けねーぞキリカ!」
共に闘志を向け合いながら、俺たちはニッと笑い合うのだった。
――と、その時だ。俺の目の前にウィンドウが表示されて……!
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・フレンドのグリム様よりメッセージが届きました。
『敬愛する魔王殿よっ、新装備がもうすぐ出来るぞっ! 至急、ギルドにきてくれー!』
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3巻にはキリカちゃんのイラストもあるのでネットからでもご購入を!
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