100:鬼ごっこだよ、キリカちゃん!
「――待たんかいボケェッ!」
「誰が待つかオラー!」
刺客プレイヤーの一人である『修羅道のキリカ』と再会してから数分後。
俺と彼女は『初心者の街』を舞台に、何でもありの鬼ごっこに興じていた。
煉瓦の家の屋根の上をピョンピョンと駆け、鬼役であるキリカから逃げていく。
「にしても偶然だったなぁキリカ。まさかお前も、新しく実装されたっていう『特殊行動系アーツ』を習いに来てたとは」
「フンッ、アンタに負けっぱなしは嫌やからなぁ!」
鼻を鳴らしながら飛びかかってくるキリカ。伸ばしてきたその手を寸前で回避し、路地裏に着地して再び走る。
そう――なんで俺たちが鬼ごっこをしているのかというと、全ては『特殊行動系アーツ』を習得するためだ。
近接職のみ習得可能で、MPを消費することですごくジャンプしたり高速でステップを踏んだりと、移動や回避に役立つ小技が使えるようになるらしい(※ザンソードが教えてくれた。アイツなんかすごく優しいな)。
ちなみに俺のジョブである『サモナー』や『クラフトメイカー』は本来ならば近接職と認定はされないのだが、『クラフトメイカー』の進化系である『バトルメイカー』は選んだ武器の種別によって近接職・遠距離職などの判定を受けるらしく、今や剣も使えるようになった俺は習得条件をクリアできましたってわけだ。やったぜ。
「にしても面白い試練だよなぁ。まさか鬼ごっことは」
アイテムをくれてやればいい他の習得試験とは違い、『特殊行動系アーツ』のそれはミニゲームに近い。
師匠NPCのところに習得希望者が50人集まった段階でゲームスタート。
半分が鬼役で半分が逃げ役となり、15分以内に全員が捕まれば鬼の勝利で、1人でも逃げ切れば逃走者グループの勝利って感じだ。
んで、勝った側のプレイヤーたちのみアーツを習得できるってわけだな。
「ちなみに試練の最中はスキルやアーツの使用が不可。さらには全員の敏捷値が100に固定されるから、距離が縮めづらくて逃走者側のほうがちょっと有利だったりする……はずなんだが……」
「「「待てーッ!」」」
……後ろをちらりと見れば、何人ものプレイヤーたちが俺を追いかけてきていた。
こうなったのも全部キリカのせいだ。
俺以外の逃走者たちはほとんどあの花魁人斬り女に捕まってしまった。
「アイツ、めちゃくちゃアバターの操作が上手いんだよなぁ。全員おんなじ敏捷値のはずなのに、動きに無駄がなさすぎてさぁ……」
ボヤきながら横合いから飛びかかってきた鬼役プレイヤーをひらりと避ける。
さらに路地裏においてあったゴミ箱を後ろ脚で蹴り飛ばしてやると、背後の連中が「うわぁっ!?」と叫びながら足を取られてすっころんだ。
その隙に猛ダッシュして距離を稼ぐ。
「ブレスキをやり始めてからずっとバトルしまくってたからなー。俺もそこそこは動けるんだが、やっぱりスキンヘッドやペンドラゴンみたいにはいかないんだよなぁ……」
今後の課題の一つだな。
まぁ基本は弓使いでサモナーな俺が長く近接職をやってきた連中と動きで張り合おうってのはおかしな話だが、必殺スキル【武装結界】の弾数が激減したせいで、今後は近距離戦に持ち込まれることも多いだろう。
そう見越して、剣技なんかを学んだり今回の『特殊行動系アーツ』習得に励んでいるってわけだ。
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・アーツ習得試験終了まであと一分です!
残り逃走者:あと一名。
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「おっと、いよいよ大詰めか。ていうか俺以外捕まっちまったのかよっ!?」
分刻みで現れるメッセージを見て顔を歪める。
つまり今の俺は、25人から追われてるってわけだ。
……なんか俺、いつもたくさんのプレイヤーに狙われてるよな。
「うーん、このまま逃げ切れればいいんだが……」
そう呟きながら裏路地を曲がる。
だが、その先には――。
「悪いなぁ。通せんぼやでぇ、ユーリはん!」
「げっ、キリカ……!?」
コイツ、先回りしてやがった……!
流石は殺伐すぎて過疎ったゲーム『戦国六道オンライン』からの刺客だぜ。行動がいやらしいなオイ。
「……あっ、おい見ろキリカ! 後ろでザンソードが裸踊りしてるぞっ!」
「んな手に引っかかるかい。それにウチが見たいのはアイツの裸やのうてハラワタや」
「お前相変わらず怖いやつだな!?」
……出まかせの嘘を余裕でスルーし、ゆっくりと近づいてくるキリカ。
まるで花魁道中のように艶やかな足取りだが、まったくもって隙がない。
「アンタが転ばかした連中もそのうち追いつくやろ。そうなりゃサンドイッチやねぇ?」
「くそ……」
彼女に追い詰められながら、俺はちらりと『初心者の街』に立つ時計塔の秒針を見た。
鬼ごっこ終了まで、本当にあとわずかだ。
「23、22……チッ。あと20秒ってところでこれかよ……」
「フフ。まぁこんなお遊戯で勝っても嬉しかないけどなぁ~?」
「ハッ、そう言うわりには嬉しそうじゃねーかよ。……なぁ、この調子であと15秒だけお話ししないか?」
「アホ言え、そしたらアンタの勝ちになってまうやろがい」
せっかくの提案をピシャリと却下されたところで、先ほど来た道からドタドタと追手たちが駆けてきた。
さらに上からも「追い詰めたぞ!」という声が。表情を引きつらせながら見上げてみれば、周囲の屋根にはほかの鬼役プレイヤーたちがずらずらと……。
「12秒……11秒……クソッ、あと10秒ってところで全員集合かよぉ……!」
そうして駆け付けたプレイヤーたちへと、キリカは鋭く指示を飛ばす。
「焦って包囲に穴を空けるなや! 上の連中ッ、5人はウチの横に来なッ! ユーリはんに転ばされた連中も、路地いっぱいに広がりながら息を合わせて飛びかかるんやッ! もしも抜かされたら終わりだからねぇ!」
『お、おうよっ!』
有無を言わさぬキリカの命令を聞き、完成度を上げる包囲網。
ゲーム終了まであとわずかというところで、ネズミ一匹さえ逃げれないプレイヤーたちの檻が完成した――!
「ほいッ、完全包囲の出来上がりっと! 残りあと5秒、あとは一気に仕留めるよッ!」
「チクショウッ、こうなったらかかってこいやァーーッ!」
冷や汗をかきながらそう叫んだ瞬間、25名ものプレイヤーたちが一斉に飛びかかってきた!
ああ、もはやどこにも逃げられない。曲がり角で後ろには下がれず、上からも鬼役どもが迫ってきている状況だ。
そうして、無数の手が俺の身体に触れようと伸びてきた――その瞬間、俺は勝ち誇りながら言い放つ。
「悪いなお前ら、俺の勝ちだ」
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・ゲーム終了! 生存者残り1名、逃亡者グループの勝利!
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『はっ、はぁああああッ!?』
表示されたメッセージを前に声を上げる追手たち。
タッチしてもよくなった俺は普通に彼らの手をペシペシはたいて押しのけ、包囲網から脱出するのだった。
「なっ――ちょい待ちやユーリはんッ!? ゲーム終了まであと数秒だけあったはずや! それなのに何でッ、って……ぁ、あああああああぁぁあああああッ!?」
俺を呼び止めたキリカが奇声を上げる。
どうやら言葉の途中で気が付いたらしいな。
「お……思えば残り20秒とか10秒とか言い始めたのって、アンタやんけっ! アンタ、ずらした数字を言いおったなぁーーっ!?」
「おうよ。仮に時計塔の秒針を見られても気付かれにくいよう、ほんの3秒か2秒だけな」
そうタネを明かした瞬間、キリカはガクッ……っとその場に崩れ落ちた。
そして「はぁ~……!」と大きく溜め息を吐き、心底悔しそうな表情で俺を睨んでくる。
「クッソぉ~~~……っ! 見事にハメられたわコンチクショウっ! こっすい罠仕掛けおってー!」
「うるせぇ、狡猾だろうが勝てばいいんだよ」
「んぁっ、今のセリフ亡者度高い……っ!」
なぜか頬を赤らめるキリカ。お前、変なところで好感度が上がるタイプだな……。
まぁそれはともかく、
「お前曰くお遊戯だろうが、そう簡単には負けねーよ」
もう、誰にも負けないって決めたからな……!
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