98:涙の卒業式!(師事時間20分)&もう一つの師弟コンビ
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・イベントクリア! 『天狗仙人』に一定以上のダメージを与えました!
隠しイベント限定アーツ・上級天魔流弓術が使用可能になりました!
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「うぅ……なんという威力の一撃じゃあ……!」
ぐったりと横たわる天狗師匠。
俺の『牛王一閃撃』を受け、見事にぶっ飛ばされたのだった。
「くっ……あの技の威力は、弓自体の性能に依存する。だというのに、そんなボロボロの初心者が持つような弓で……!」
「悪いな師匠。俺のボロ弓には憑依モンスターのシャドウ・ウェポンが宿っていてな」
おかげでその筋力値が武器の威力に加算されているってわけだ。
ま、元々は武器にシャドウ・ウェポンの持つ【浮遊】の特性を宿すためだったんだけどな。
弓を手に取らずとも【武装結界】を発動できるようにと思ってのことだったんだが、近接弓術『牛王一閃撃』という弓自体で殴るアーツを獲得したことで、憑依武器としての特性が輝きまくることになったわけだ。
「さらに初期装備の威力や相手へのダメージが上がるスキルを盛り放題だからな。爺さんの一人くらいぶっ飛ばすのもわけないぜ」
「っ、年寄り扱いするでないわァ! くそっ……もうどこにでも行くがよい。こうして完敗した以上、ワシに師匠と名乗る資格はない……」
「ああ、そうだな」
俺は天狗仙人に近づくと、その手を取って無理やり引っ張り起こした。
「ぬぁっ!?」
「俺とアンタはもう師弟じゃない。――こっからは、互いに競い合うライバルだぜ!」
「っ……!?」
肩を震わせる新たなライバル。
歳が離れすぎてるだとかそもそもNPCだとか、そんなことは関係ないさ。
全力でやり合ったんならコイツも俺のダチ公だ!(※同じく年配でNPCの教皇ともやり合ったが、アイツはきもくて嫌いだから別)
「改めてよろしくな、天狗仙人」
「ぬっ、フッ、フンッ!」
俺が微笑みかけると、天狗仙人は気恥ずかしいのかプイッと横を向いてしまった。
だが次の瞬間、俺の目の前にメッセージウィンドウが現れ……、
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・師匠NPC『天狗仙人』の好感度が最大値になりました!
獲得数限定絆素材『天魔の宝珠』を手に入れました!
※絆素材は、主に師匠NPCの好感度を最大まで上げることで手に入れることができるものです。
一人のプレイヤーにつき一つのみ獲得でき、武器・防具の作成や強化に使用することで、その師匠より習ったアーツの消費MPを軽減させる効果などがあります。
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「ほほーう、絆素材とな?」
どこからともなく綺麗な宝珠が舞い降りてくる。
俺がそれを手に取ると、天狗仙人は「なっ、なっ!?」と目に見えて狼狽し始めるのだった。
「ってなんだよ爺さん。アンタ、俺のことそんなに好きだったのか?」
「うッ、うるさいわボケェッ! そんなの何かの間違いじゃぁあああーーーーーーーーッ!」
叫びながら家にドタドタと駆け込んでしまう天狗仙人。
本当に元気な爺さんだ。俺は次に会う時を楽しみにしながら、さらなる強さを求めて去っていくのだった。
◆ ◇ ◆
「……まさか、カルマ値最低で殺し合う関係にならなきゃ起こらない天狗仙人の隠しイベントを解放するとは……!」
「チッ、好かれることでイベント発生ばっかじゃワンパターンかと思って設定したのがアダになったな……!」
「くそぉ! 一般的なプレイヤーと違って、たとえ演技だろうが媚びるような真似はしなさそうだもんなぁユーリちゃんッ!」
――今日も今日とて、運営の者たちは開発室にてぼやいていた。
話題はもちろん稀代の問題児プレイヤー・ユーリについてである。
どんなにアップデートで修正を食らおうがトップであり続ける彼女に対し、もはや運営の者たちはライバル心さえ抱きつつあった。
「はぁ……やっぱりこの前の三連戦だよ。あそこで勝ててたら、ユーリも少しはしょぼくれたかもしれないのになぁ……」
「あぁ、ペンドラゴンさんでさえ仕留めきれなかったとはなぁ」
そうして彼らが、ユーリを限界まで追い詰めた夜のことを振り返っていた――その時。
『――それは悪かったね。まさか私も、ああも食い下がられるとは思わなかったよ』
天より響く女の声。
その瞬間、運営の者たちは姿勢を正して立ち上がった。
「そっ、その声は竜胆先輩!? い、一体どこから!?」
『はっはっは。キミたちを驚かせようと思って新しい技術を開発してね。指定の空間座標と通信できるようにしたんだよ。たとえ現地に電話どころか電線さえなかろうが会話できるから、まぁ色々と役に立つかもね?』
「ってサラっとノーベル賞モノの技術を開発しないでくださいよッ!?」
とんでもないことを言う竜胆に、運営の者たちは揃ってドン引きしてしまう。
――だがしかし、正した姿勢は軍人のごとく逸らさない。
天才にして人格破綻者な彼らなのだが、それほどまでに竜胆という女を……自分たちに電子技術を叩き込んでくれた『師』を崇めていた。
「はぁ~。本当にビックリしましたよぉ先輩。――いえ、それとも『暁の女神ペンドラゴン』って呼びましょうか?」
その言葉に、竜胆は『いい歳した女をゲーム名で呼ぶな』と苦笑して返す。
そう。彼女こそVR技術界の大先駆者にして、初代VRMMO作品『ダークネスソウル・オンライン』のトッププレイヤーその人であった。
ゆえに、ユーリに対してスキルやアーツも使わずに圧倒できたのもある意味当然だろう。
彼女こそ、電脳世界に朝焼けを齎した創世の女神であるのだから。
『ククッ……それにしても、あの夜は久々に熱くなってしまったよ。三人がかりで襲ってくれと言われた時は、キミたちクズだなーと思ったんだけどね』
「クズッ!? い、いや、ユーリと一緒にログイン時間最多のザンソードもいたし、襲撃イベント初日の夜はトップ勢から集中的に狙うことに決めてたんすから、別に私怨とか全くないっすよ!? 公平な判断っす! クズじゃないっす!」
『はいはい。まぁアレだね、キミたちもユーリくんにはメラメラさせられてるってことだね?』
「ハッ、ハァーーーッ!? さっきから何言ってんすかッ、オレたちいつでもクールっすから! あんなヤツ、ただの悩みの種っすよ!」
『ハハッ、そうかいそうかい』
ギャーギャーと叫ぶ運営の者たち。
まるで好きな人を当てられた中学生のごとき狼狽ぶりに、竜胆は内心“これのどこがクールだか”と突っ込むのだった。
『まっ、ああいうプレイヤーは大事にしたまえよ。あの手の子は、周囲のプレイヤーたちだけでなく運営も成長させるものだからね』
「はぁ~マジで何言ってんすか? オレたち困らされ放題で、成長どころか生え際が退化してきたんスけどー!?」
『いや、生え際は知らないけど……フフ、そうかそうか自覚なしか。それも面白いかもしれないね』
天才にしてアホな後輩たちの様子にクツクツと笑う竜胆。
ユーリとの見えない激闘を繰り広げながら成長していく彼らを、まるで珍獣でも見るような気分で楽しむことに決めたのだった。
『さてさて。実は私は「ブレイドスキル・オンライン」という世界自体にかなりの魅力を感じていてね。
どっかの運営クンたちが細かいところを管理AIに丸投げして自動作成させた世界観はシンプルながら面白いと思っているよ。ま、どっかの運営クンたちが連発してバトルイベントを開いたせいですっかりPvPゲームの風潮になってしまって、冒険や謎解きをメインにしたプレイヤーは少数なんだけどね』
「な、なんかそう言われるとオレたちアホみたいなんすけど……それで?」
『ああ。プレイヤーたちにもっと世界を知ってもらうためにも――そして何よりユーリくんとの再戦を派手にするためにも、色々と動こうかと思っていてね。
まぁあくまでも一人のプレイヤーとして少し暴れるだけだから、どうか安心してくれたまえ』
「え~……? ま、まぁユーリをギャフンと言わせられるならいいっすけどぉ……」
虚空より笑い声を響かせる竜胆と、どことなく不安を覚える運営チーム。
こうしてユーリが師より新たな力を受け取る中、変人師弟は人知れぬ密会を行うのだった。
竜胆「まぁ、私も昔は運営としてやんちゃだったけどね」
運営「はえ~?」
※ちなみに若い頃の竜胆さんが運営していた『ダークネスソウル・オンライン』は、ブレスキの500倍治安の悪いゲームでした。
https://ncode.syosetu.com/n1613ey/