綺麗?
ひっさしぶりー!
うん。間あいてごめんね。
「さー、張り込みやっていきますかねー」
早速社内に入った幽鬼は、ため息混じりにぶーたれる。仕方ない。面倒くさいもん。私だって思う。面倒くさいと。
「にしても僕、咎崎ってどっかで聞いたことある気がすんだよなぁ……なんだっけな?」
オフィスを歩き回る幽鬼は首を捻ると、私たちの方を見る。いや、私たちに聞かれても。
そこで、志希が口を開く。
「私も、聞いたことあるんです。でも、頭の隅に引っかかってるくらいで……。新聞かなにかで読んだような……」
あぁ、それなら私が知らないのも無理ないわ。絶対知らない。
「……オマエ、高校生だろ? 受験にあたって、新聞読むとかしなかったのか? 面接どうしたんだよ」
「? ネットニュースでどうにかなるでしょ、そんなの」
幽鬼は、はーっ、とため息をつくと、時代かねー、とボヤいた。
時代は移ろいゆくものだ。仕方のないものだろう。
「オマエが言うなよ、オマエが。オマエはもーちょい世間に関心っつーもんを持てよ」
「はいはい」
「…………僕、これでもオマエよりは長生きなんだからな?」
どうやら、彼に「自分がだらしない」という自覚はあるようだ。
「……そういえば今回、どんな霊が出た、みたいな目撃情報的なのはないの?」
「ん? 言わなかったか? ポルターガイストだって」
「いやそうじゃなくて。また前の放火魔みたいに、人の形をしたのがいた、みたいなのがないのかなーって」
うまく説明出来ないが、幽鬼は言いたいことを感じ取ってくれたようだ。
「んー、そういうのは特にねーな。霊感が強い奴もいないみたいでさ。フツー霊ってのは見えないもんだし」
確かにそうだ。目撃情報があったら、この探偵にとってはそれはそれで問題なのだ。だって、それは現場が「普通じゃない」現場であることを意味してしまうのだから。
「まぁ別に、天木クンもイレギュラーではあるが、おかしいって言いたいわけじゃーないから、そこは大丈夫だぞ?」
別に言われなくても分かってる。私はただの女子高生だ。
本当に、ただの女子高生なんだ。私は。
「? 大丈夫……? 白ちゃん……?」
志希が私に声をかける。この子ほんとに優しい。可愛い。
と、そんな和やかムードが、ガラスのような音をたてて砕け散った。いや、この比喩を使うのもおかしい話か。だって、このムードがぶち壊された原因は、確かにガラスが割れた音だったから。
「隠れろオマエら!! なにか飛んでくる!!!」
幽鬼が叫び、私たちは咄嗟に近くの物陰に体を隠した。
めんどーだ。また遠距離系か。
火じゃないだけマシだが、何を使ってくるか分からない。
相手が『怪奇現象』であることを、完全に失念していた。
かたや僕の武器は日本刀。卒塔婆よりはいいが、また近接武器。幽香、なんでこのチョイスなんだ?
ん、名前? 焔裂? いや、今そんなことはどーでもいいわ。なんで刀なんだよ。
僕は目の前の少女を睨む。
目の前の少女はニタリと笑う。
「「「私、綺麗?」」」
僕は、咎崎グループがなんなのか、ようやく思い出した。
焔裂。これ、あるゲームの武器が元になってるんですよ。ホラーゲームです。最近このゲームの動画見るのにハマってるんですよねー。もう10年以上前のゲームですけど。あのハードのあのグラフィックじゃないと、あのゲームは作れないと思いますよ。マジで。
そして、咎崎グループ、幽鬼は思い出したみたいです。さーて、何を展開してるんでしょうね。
………整形手術外来では、ありませんよ?