クソうるせー幽霊
最近間空いちゃってごめんなさい。
てへ。
え、待ってないしキモい? あ、そう……。
また次の日も、私たちは探偵事務所に向かっていた。
三連休なのだ。今日は月曜日。学校職員が研修でいなくなるそうで。らっきー。
「あ、どうも!」
ドアを明けると、幽霊のくせに明るい顔で、幽香が返事をする。
「幽鬼は?」
「お兄ちゃ……兄は今、調査に出てます。というのもですね、昨日の咎崎グループ、でしたっけ? そこのお偉いさんがわざわざお出ましやがってですね」
「日本語ちゃんと喋ろ?」
私と幽香がそんな話をしている中、志希は見えていないせいかまだ幽香が怖いらしく、私にしがみついたまま離れようとしない。一生こうしてたい……じゃない。本っ当に違う。志希の小ぶりだけど形の綺麗な胸が腕に押し付けられててサイコーとか思ってない。これっぽっちも思ってない。柔らかい。
……ん、待てよ。なんか大事なことを聞き逃したような。
「…………って、来たの!? その会長が!?」
「あ、はい。ついさっき」
まじか。来ちゃったのか。なんか意外。
「兄に『アイツらどーせここ来るだろーから出迎えてやってくれ、現場はそこの地図に書き込んどいたから来たいっつったら連れてきてやれ』って言われたんですけどどうします?」
「幽香さんが幽鬼んとこまで案内してくれるみたいだけど、どうする志希?」
「えっ」
まさか自分に振られるとは思っていなかったであろう志希が硬直する。
「私は行くけど」
「行く」
即答された。
「おー、オマエらか」
現場につくなり、幽鬼が私たちに声をかける。
「解決した?」
「するわけねーだろバカにしとんか」
ですよねー。あ、ところで。
「そもそも今回の事件ってどういうのなの?」
「んー……」
私が聞くと、幽鬼は依頼書をパラパラとめくる。
「不可思議現象の調査、まぁつまるところのポルターガイストってやつだな」
ポルターガイスト。私も名前くらいは聞いたことがある。物がひとりでに動いたりするやつだったか。西洋式のお化け屋敷には欠かせない現象だ。だれもいないのにピアノが鳴ったりとかね。
「まー、そんな認識で合ってはいるけど、実際もうちょいアバウトだ。よくわからん事が起きりゃー、それはもーポルターガイストさ。そもそもポルターガイストって言葉自体、ドイツ語の『poltern』と『geist』を掛け合わせた、『クソうるせー幽霊』って意味の造語だしな」
それは知らなかった。ポルターガイストってドイツ語だったのか。いぇーがー。
「そりゃ狩人だろーが。ってかお前がその単語をどこで知ったか大体察しつくぞ」
「てへ。ところでなんか手がかりとかのアテはあるの?」
「棒読みでてへとか一番キツいわ。……手がかりもしょーじき全く。まーた待ち伏せかよ」
幽鬼は帽子をいつものように深くかぶりなすと、大きくため息をついた。