幽霊の妹
「そう言えばさぁ、私たちと一緒に隠れてたあの女の人、なんだったの?」
「そんな人居たの!?」
次の日。私と志希はまた幽鬼の探偵事務所に来ていた。
今度は完っ全に暇つぶしと言うやつである。
私には見えていたが、志希には見えていなかったようだ。ならあの人も霊か。
「……あぁ、アイツ? ……アイツは、僕の……」
幽鬼はそこで口ごもる。言いたくなきゃ言わなくてもいいけど、と私が言うと、幽鬼は「いや言うよ」と言って、こちらをまっすぐ見つめた。
「アイツは僕の妹の、鹿跳幽香だ」
「死因は産道通過時の頭部損傷………つまり、産まれる前にアイツは死んでる。まぁ、平たく言うとことの『死産』っつーやつだ」
「ちょ、ちょっと待って!? どういうこと!? それだったら大人の女の人の姿なんて……」
しているわけが無い。死んだら成長は止まるはずだ。化けて出たとしても、それは胎児の姿だろう。
そんな中、志希はと言うと、血まみれで産まれてきた胎児を想像してしまったのか、青い顔で震えている。
「すいません……ちょっと……トイレ借りても……いいですか……」
幽鬼が許可を出すと、志希はトイレへと駆け出す。彼女はグロやらホラーやらに全く耐性がないくせに、想像力だけは人一倍豊かなのだ。だから、彼女は夏とかにやる怪談会とかには絶対誘われない。そもそも誘われても行かない。
しばらくして、洗面所で口をすすいだのか、口元をハンカチで拭いながら志希が戻ってきた。青い顔はそのままだが、心無しかすこしスッキリした表情を見せている。
まぁ、吐いたよね。そりゃあ吐いたよね。
「そ、それで……話の続きを……」
「うん、無理だったら帰ってくれて全然構わないからね?」
無理に話の続きを促す志希に、幽鬼は爆速でフォローを入れる。そこまで言うなら続けるけど、と言い、幽鬼は座っていたソファから身を乗り出して振り返り、「幽香」と彼女を呼んだ。
すると奥から、ご丁寧にドアを開け、恥ずかしそうに頭をかきながら、彼女はやってきた。
「兄がお世話になっております、鹿跳幽香と申します……」
幽霊の癖に顔を真っ赤にしながら、幽香は頭をぺこりと下げた。
「ねねねねねねぇ、なんで今ドア開いたの!?」
「帰っていいからね志希」
「質問に答えてよ!!!!」
志希は泣きながら私の体をぐわんぐわん揺する。この子一周まわってホラー得意になったんじゃなかろうか。ばっちり声を張れている。
「今そこのドアは幽香さんが開けた。幽香さんは今幽鬼の隣に座ってるよ」
「オマエ、幽香はさん付けなのに僕は呼び捨てなんだな」
私の紹介に幽鬼は呆れ返る。なんで。
「お兄ちゃん、あの子、もしかして私の事見えてない?」
「あぁ、黒部クンは霊が見えないからな」
「……どうやって自己紹介しようかな……」
あの、幽香さん、悩むところって、そこ?