現場検証
「さーて、とりあえずまずは現場検証かな」
そう言うと、幽鬼は黄色いテープの貼られた不審火の現場の中に堂々と入っていく。いいのか。キープアウトって書いてあるけど。
「あ、いいのいいの。バレなきゃ犯罪じゃないから」
オイ。発言が探偵のそれじゃない。ふざけてるのかコイツ。
幽鬼はしばらく現場を某小学生名探偵のようにうろちょろすると、また黄色いテープをくぐって出てきた。
「うーん、不思議なんだよね、これ」
「不審火なんだから不思議で当たり前じゃないの?」
私の言葉に、幽鬼は違う違う、と首を振る。
「そうじゃないんだよなー。フラッシュオーバー起きてるのかな」
そう呟くと、幽鬼は依頼書をペラペラめくり、目当ての情報を探す。少しして、あぁ、あった、と呟いて、それをしばらく眺めた。そして、依頼書を閉じると、顔を上げ、
「そんじゃー、次の現場行くか」
と、歩き出した。
次の現場も、また酷い有様だった。まっ黒焦げという言葉が正しく当てはまる。ここでも幽鬼は当然のように黄色いテープをくぐって現場に入り、黄色いテープをくぐって現場からでてきた。
「いやぁ、不思議なんだよなー」
またも幽鬼は依頼書をめくりながらいう。
いい加減何が不思議なのか教えて欲しいもんだけど。
声に出てしまったのか、幽鬼はあぁ、というと説明を始めた。
「火災にはフラッシュオーバーっていう現象があってねー、全焼前に爆発的に火災が進んだり、黒煙が割れた窓ガラスから思いっきり出たりすることがある。それがフラッシュオーバーだ。今回、というか今見た2件は、フラッシュオーバーらしきものはあっても、その後すぐに鎮火されてるんだ。だから全焼してるのはむしろ不自然なんだよ。しかも、フラッシュオーバー発生も妙に早すぎるし」
何を言っているのかさっぱりわからん。
「それに、そこまで燃焼時間が短いなら木が完全に炭になってるのもまたおかしな話。木って意外と耐火性高くてね、燃え尽きるまでには意外と時間かかるんだ」
ぜんっぜんわからん。
「まぁ簡単に言うと、『人間が起こした火災にしては火力が高すぎる』って話よ」
そう言うと、幽鬼は気だるげな顔で帽子を目深に被り直す。
「めんどくせーがどーやら、ここは僕の出番らしいや」
「オマエらはこの辺に隠れとけよ。不審火は夜に来るって話だし、黒部クンの場合、家近いから不安だしな。オマエらがいる場所さえ分かってればそこ守り抜けばオマエらに被害はねーからな」
私と志希はこくりと頷く。
「よーし、聞き分けのいい子達ですねー。………後は夜まで待つだけか。不審火の出処は割とランダムだし……今日出会って叩き潰せればいいんだけど」
この探偵、発言がいちいち不穏である。