糸口はどこだ
「……ん、ちゃん!」
なにか声が聞こえる。それと耳の辺りをぺちぺちと叩かれている気がする。
「白ちゃん! もう着くよ! 学校!」
目を覚ますと、志希が私の頭をぺちぺち叩きながら私に声を掛けていた。
「ご、ごめん! 割と本気で寝ちゃってた!」
私は垂れていたヨダレをすすりながら拭……………え。
見れば、志希の肩がちょっと濡れていた。
「……ごめん」
「気にしてないよ、大丈夫大丈夫! さ、降りよ」
………なにかお詫びをした方が良さそうだ。帰りにラーメンでも奢ろうかな。
その日の授業も無事終了───と言いたいところだが、私はちゃんと寝ていたので授業で何やったかわかんない。あとで志希にノート見せてもらおう。やはり持つべきものは友だ。
私と志希は部活には所属していないので、学校の授業を終えたその足で幽鬼の探偵事務所に向かう。ちなみに、滝は剣道部で綾は弓道部らしい。
雑居ビルの、いつもの扉を開ける。いつものベルが鳴る。
「よー。そろそろ来る頃だと思ってたぜ。異変解決までは毎日のように来るしな、オマエ」
見透かされてた。でも今日はお父さんからの伝言もあるし、仕方ないというものだろう。
「お父さんの方でも情報集めてくるから、期待しないで待ってろってさ」
「ハハハ!! さすがはリョージだ、話が分かるなー」
そう言って幽鬼は声高に笑う。あまり見た事のない表情だ。
「アイツが『期待せずに待ってろ』っつーときは大体なんか手がかりがある時だからな。期待しながら待つとするか」
お父さんの性格を把握している辺り、やっぱり幽鬼とお父さんは古くからの知り合いなのだろう。そういえば言ってなかったけど、お父さんの名前は「天木遼二」だ。だから幽鬼も「リョージ」と呼ぶ。まぁどうだっていいか。
「さて、現場見たけど特に何もわかんなかった訳だしなー。こっからどーすっか」
「私もちょっとSNSとかで調べて見たけど、滝が言ってた『健康被害が出た』くらいしか情報はなかったなぁ」
幽鬼はそうかと期待してすらなかったかのように言うと、志希を見た。
「黒部クンもなんもわかんねー感じ?」
「あー、はい……ごめんなさい……」
「………別に謝るこたねーんだけどな……………」
幽鬼はバツが悪そうに頭をかく。この男にも罪悪感という感情はあるらしい。意外だ。
「……なーんか些細な情報でもありゃいいんだがなー」
幽鬼はソファに腰掛けながら、組んだ足を机に乗せる。びっくりするくらい行儀が悪い。アンタ前そこでせんべい食べてたじゃん。そんな私を後目に、幽鬼は「あ」と声を上げる。
「………確証はねーけど………可能性ならあるな………」
幽鬼は何かに気づいたようだ。確証はない?どういう事だ。
「確かめようがねーことだからだよ。ただ、場所が場所だ、神社だからな。可能性なら十二分にある……天木クン」
「ハイハイ分かってるよ。お父さんに伝言でしょ」
「……オマエら親子、変なとこで勘がいーのが気に食わねーんだよな……」
幽鬼は、私にお父さんへの伝言を伝え始めた。