白の父親
おしさしぶりです
……………待った?()
「っても今回の霊がどんなもんかわからん以上は手の出しよーがねー。どんな行動原理で動いてるかすら分からんしな」
ここの神社の悪い噂も聞ーた事ねーしなー。と腕を組む幽鬼。滝も、こんな事は一族初めてらしいしなと頷く。
「……今回はわからんことが多すぎる。しゃーねーけど警察の手借りるしかねーか……」
幽鬼は苦虫を噛み潰したような顔でつぶやく。
「アンタにしてはやけに渋るね?」
「僕だって渋る事くらいあるわ。……まー、警察にいー思い出があんまりねーだけだ」
私はその意味がわからなかった。
だから聞こうとしたが、幽鬼はその話を続けるつもりはないらしく、んな話やめだやめだ、と言って帽子を被り直した。
だから私は、ソレは聞かなかったことにした。
「……んで、天木クンにひとつ頼みがあるんだが」
「私のお父さんに話通せって事ね? 言われなくても分かってるよ」
「そーゆー事。察しが良くて助かるねー」
どうやら警察が嫌いな幽鬼も、古くからの友人は頼るようだ。とりあえず、今日帰ったらお父さんに話してみようか。珍しく、今日は帰ってくるし。
「─────って言うことらしいよ、お父さん」
「……なるほど。俺もあの神社の悪い噂は聞かないが……。まぁ、他でもない鹿跳の頼みだ。少しくらいは手を貸してやるさ」
お父さんは顎髭をさすりながら深く腰かけたソファから立ち上がる。短く刈った髪に手入れが成された無精髭、そしてスーツを着てジャケットを肩に乗せたその出で立ちは、まさに刑事といった風貌である。いやまぁ刑事なんだけど。
「お父さん、あの神社知ってるの?」
「うん? あぁ、俺も一応"そういう"課の人間だからな。そういう類とのツテはあんのさ。っつっても俺はアイツみてえに霊が見えたりはしねえけどな」
そう。お父さんは霊感がこれっぽっちもないのだ。そんなお父さんが『超常現象究明課』なるものに配属されたのもかなりの謎だが、そこはまぁ幽鬼の知り合いと言うだけで割と説明がつくだろう。
問題は、なぜそんな人間から私が生まれたのか、という話だ。まだ、私が霊を見ることができるというのは、幽鬼と志希、そして滝と綾にしか話してないんだけれど。どこかで霊と触れ合っている、というのも幽鬼の経歴的に考えたが、そんな霊知らない。
「まぁ、なんだ。俺もそういう情報は集めようと思えば入ってくる。期待せずに待っててくれって鹿跳の奴に伝えといてくれや」
そう言い残すとお父さんは、大きな欠伸をしながら寝室へと向かってしまった。
まぁ当然だが、今日は特に収穫は無さそうだ。
明日幽鬼の事務所に行って伝えておこう。全く、幽鬼も携帯のひとつやふたつ持っててくれればいいものを。
そう思いながら、私は階段を登り、自室へ向かう。
「おいで、クロ」
ベッドに腰掛けて、私は飼っている黒猫の名を呼ぶ。
クロは「んなー」と鳴き、私の膝の上に飛び乗る。そしてすぐに丸くなって寝息を立ててしまった。
ほんとに、猫って可愛いなぁ。