糧
お久しぶりです!!!お待たせしました!!!
………え、待ってない?
「んー、変なとこは特には見当たらねーなー……。原因不明の外傷とかの報告はないんだっけ?」
「ない……な。全員体調不良やら不幸な事故やらだな」
「その事故が『不幸な』だけなら良かったんだけどな」
幽鬼、そのジョークは今は笑えない。ブラックすぎる。ブラックペッパーよりもブラック。何言ってんだ私。
「んじゃー…見た目で特にわかんねーのも当然か……」
「なんでだ?」
「物理で攻撃してくるわけじゃなさそーだからだよ。物理で攻撃できたら、神社自体がクソほどボロボロになっててもおかしかねーだろ?」
「たしかに」
幽鬼の言葉に、滝は頷く。
「できるけどしてる可能性もなくはないけどな。……よっと」
幽鬼がそう言いながら靴を脱ぎ、本堂に足をかけるやいなや。
「待て!!」
と、滝が叫んだ。
「うおびっくりした。んだよ。靴脱いだろ」
「いやその事なんだけどさ。お祓いやら祈願やらなんやらで本堂に入った人間ほど被害がデカいんだ。アンタだってどうなるかわかんねえから…」
滝が俯きながら言うが、幽鬼はいつもの飄々とした顔を崩さず、
「ああ、そゆこと」
と軽く手を打った。吹き出しの中で電球が光るあのポーズ。
「なら本堂調べる手間が省けた。騒動の原因が本堂以外ありえなくなったからな」
幽鬼はニヤリと笑う。
「計画どお」
「それ以上はアウトだと思う」
「んで? 被害はいつ頃からなんだよ」
渾身のネタを私に遮られて不機嫌な幽鬼は、帰り道で滝に尋ねる。
「うーん……最初の被害はいつだったかな。特に覚えちゃいねえよ」
「なら結構前だな。となるとかなり厄介」
幽鬼は顎に手を当て考える仕草をする。別に何も考えちゃいないだろうけど。
ところで、なぜ期間が長いと厄介なんだ?
「ん? あぁ、霊っつのは一種の思念体でなー。他人の想いが霊を生み出すこともありゃ本人の思念が霊として分離することもある。悪霊っつのが本人の恨みを行動原理としてんのはそーゆーこった」
霊の基本原理を、指を指揮棒のように振りながら幽鬼は語る。
「で、今回のケースだが、まー思念体っつーことは、生まれてからでも他人の思念に生者よりも影響を受けるワケだ」
まぁそうなるか。
「「「「ってことは」」」」
ここで私たち4人は気づく。たしかに事件が長引いたら不味い。そりゃあ幽鬼も早期決着を仕掛けるはずだ。
「お、察しいーなオマエら。簡単な話だ。『この神社への悪評』がそのまま霊の糧になる。糧を食い続けた霊は成長し続けるってワケだ。だから厄介」
当人が覚えていないほど前からの事件だ。今回はなかなか面倒そうな事件になりそうだ。