悪意の贖罪
間あいてすんません(笑)
……笑ってる場合じゃないっすね
「終わらないよ?」
振り下ろされた幽鬼の刀は、確かに少女の体を切り裂いた。はずだった。
のだが、少女の頭に刀が当たる寸前、霊が1人、分離していたようだ。
「お兄ちゃん!!! 後ろ!!!!」
幽香が叫ぶ。えっ、と振り向こうとした幽鬼の体が宙に浮く。
1人の───いや、単位が合ってるかは分からないが───霊が、幽鬼の首根っこを掴んで締め上げていた。華奢なのに、怪力な霊だ。
いや、見た目でわかる事でもないか。霊の能力は、"願い"で決まるんだったな。
それが、本人のものであれ、他人のものであれ。
っと、冷静に分析してる場合じゃない。
「どうしよ……どうしようどうしようどうしよう、お兄ちゃんが、武器の交換も出来ないし新しく作ることも出来ないよ………」
幽香が青い顔で震える。幽霊も恐怖を感じることはあるのだろうか?
「何がどうなってるの…? 幽霊は倒したんじゃないの…?」
不安そうな顔で、志希が私の腕に縋り付く。
「……………………!」
幽鬼は首を締められているせいで、声を上げることが出来ないようだ。ただただもがいている。
何も出来ない。
無謀と分かりながらも、私が辺りを見回した時、近くにハサミが転がっているのが見えた。
さっき飛んできたものだ。私はそれを拾い上げる。
「う、う、あ……」
外せば幽鬼はただでは済まない。しかし、このまま何もしないままでは、全滅だ。
「うわああああああああああああああああああああ!!」
私は霊目掛けて、全力でハサミを投げつけた。
ハサミが霊に突き刺さる。霊は苦悶の声を上げ、幽鬼をその手から落とす。
「………助かった!」
幽鬼は着地と同時に刀を振り抜き、霊に牽制をかけながら1度距離をとった。
「………さて………」
どうしたものか。あの手でもう一度掴まれたらもう僕は死ぬだろう。こんな時、機銃でもあれば、と思うが、そんなこと思ったところで無駄だ。
あの怪力は、恐らく死亡時の"願い"によるものだろう。自身の身体能力に変化を与えている辺り、自身の願いだろうか。まぁ、そんなことどうだっていいが。
「……オマエ、"騙された"クチか?」
霊の動きがピタリと止まる。
「図星かよ。騙されたクセに八つ当たりで僕を殺すだと? メーワクにも程がある。八つ当たりの矛先は"この会社"だけにしてもらえるか?」
「うるさい……」
おっと、会話可能な霊が居たとは。言葉を話せる霊は居ても、会話が可能な霊とは珍しい。
「私は"此処"に殺されたんだ!! 復讐だって、していいハズだ!!! それに肩入れするアンタを殺すだけ……そこになんの問題がある!!!」
「うっせー。殺すことに問題があるっつってんだよ」
頭に血が上ったせいで懐がお留守になった霊に向かって駆け出す。
「僕は受け取った金の分働くだけだ。これでも探偵だからな」
「金、金、金、金……その言葉はもう聞き飽きた!!!」
怒り狂った霊が繰り出すお粗末なパンチを、僕は体を捻って避ける。
「世の中、金が全てなんだよ」
僕は刀を振り抜き、霊の頸を斬り落とした。
「……ねぇ、幽鬼。咎崎って、もしかして……」
全てが終わり、オフィスから出た幽鬼に、私は声をかける。
「あぁ、オマエらの察してる通り……っつーよりも、ネットで噂になってる通り、っつった方がいいか。嘘偽りの健康食品やらでぼろ儲けした、悪徳企業だよ」
私は言葉を失った。"金を貰ってるから"そんな企業に手を貸すのか? この男は。
「そんな理由で、こんな企業を残しておくの…? これからも被害者が出るかもしれないのに!」
「……結果は誰にも分かんねーよ。この事件で改心するかもしんねーだろ。………まぁ、金が全てだ、とは言ったが、僕にも人の情ってモンが無いわけじゃねー」
そう言って事務所とは逆方向に歩き出す幽鬼の手には、中身の入った試験管が1本と、薬剤が入った瓶がいくつか握られていた。
「そこに悪意がありゃ、人だろうが霊だろうが、叩き潰す。……方法が、違うだけでな」
数日後の新聞に、咎崎の一味が載っていたのは、言うまでもない。