母体
「「「ねぇ、私、綺麗?」」」
「うーるっせーな!! 僕に聞くな!! ファッション誌の編集長にでも聞いてこい!!!」
少女が飛ばすオフィス内の雑貨を避けながら、僕は少しづつ少女に接近する。地面を蹴りつつ、確実に。
そして、目と鼻の先にたどり着く。あとは、刀を振り抜くだけ。なのだが。
「なんで当たんねーんだよ!!」
図体に似合ってすばしっこい。どんな奴であれ、子供は意外と身体能力が高いのだ。こりゃー、引きこもりには厳しい。
と、そこで少女は少し僕から距離をとる。
ポルターガイストがそもそも遠隔攻撃だから、適正距離を保とうとしたのか? ならば近づくだけだが。
と、1歩踏み込んだところで気がついた。
変な音がする。何かが溶けるような。
僕は何気なく下を見る。
床が、溶けて煙を上げていた。
「なんだこれ!?」
僕は慌てて飛び退く。
そして、遅ればせながら気づいた。声が重なって聞こえた事の理由に。
アイツは『独り』では無いのだ。アイツの『中』に毒殺された人間でもいるのか……。じゃあポルターガイストはなんだ?
考えれば考えるほど分からない。いくら僕でも、霊について分かっていることが少なすぎるのだ。霊って群れるもんなのか? いや、人間が群れるしその精神存在と言っても過言ではない霊が群れるのも無理ないか。
今のところ、ポルターガイストと毒による攻撃を認知している。
この霊、中々手の内を見せてこない。うざい。
「「「フフフ、楽しい、楽しいね?」」」
「うっせー!! なんも楽しかねーわ!! とっとと成仏して死ね!!!」
とりあえず暴言を吐きまくるが、霊は顔色ひとつ変えない。
まずい。話が通じない。あの霊は既に正気を失っているみたいだ。これはかなりまずい。
「うかうかしてらんねー……その首落とさせて貰いますよっと!!! っと、その前にひとつ検証でも」
僕は少女に向かってもう一度駆け出す。少女は僕に対し『ポルターガイスト』で反撃する。
間違いない。母体になってる少女の能力はポルターガイストだ。だから目撃情報にもポルターガイストしかなかったんだ。ようやく合点がいった。そりゃあ、『使いやすい方』を使ってくるわな。
僕が言うんだ。後付けの能力なんて、使いづらいに決まってる。
「「「遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ」」」
少女は次々と雑貨を飛ばす。僕はそれを間一髪で躱す。そして、ついにその時が来た。
「…………ビンゴ」
あの時少女が1度退いたのも、『手元にある雑貨しか』飛ばさねーのも、ある仮説が立証されればこちらも合点がいく。
弾切れだ。
少女は雑貨を飛ばせなくなっていた。
「オマエ、毒は吐きづらいよなぁ……!」
僕の仮説通り、少女は慌てて口をふくらませ、毒を溜める。あのクソ放火魔程の発生じゃない。これなら確実に斬り殺せる。
「これで終わりだ!!!」
僕は少女の頭目掛けて、刀を振り下ろした。