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1章[明けない夜はそもそも夜が無い]


 旅に出る前にまずは簡単にこの世界の地理を教えてもらった。

 地図はあるにはあるが曖昧な所が多くあくまで目安程度にという話であった。

 

 まず初めにこの世界の地図には人間の住むとされる大陸と魔族が住むとされる魔界に色分けされていた。

 魔界は世界の中心ルナ=タバト大陸と永久凍土に覆われているとされる極地の北東部にドデカく広がっていた。

 元の世界で例えるならユーラシア大陸の様なものだと思えばしっくりきた、何故かというとヤハテウス大陸は丁度日本や中国の位置この世界における極東部にある大陸であったからだ。

 魔界を中心に、ヤハテウスが極東にそして極西にヤハテウスを遥かに凌ぐ大きな大陸にも何故か人類の住む色が塗られている。

 

 【神聖タカマガハラ大帝国】人類のラストフロンティアであり人間界最大最強最高の英知を集めた超大国なのだそうだが詳しい事は分からないという。

 ヤハテウスの隣には魔界が広がっている関係上、陸より圧倒的に危険な海路を生き延びた遭難したタカマガハラの船乗りや敵の捕虜、人と共に暮らす事を決めた魔物からの口伝いの情報しか存在しないからだそうだ。


 「噂程度の話ですわ、魔王軍が意図的に流している偽の情報という話も聞きますし、ライラさんの話より信憑性が薄いですね」


 さりげなく真紅さんがライラに毒づいたな、本人は気が付いてないし聞かなかったことにしよう。


 そして本題、今ボク達がいるのが極東ヤハテウス大陸にある東の国コラークで首都はキサロク、ボク達が今いるのは割と最近出来たキサロクの副都心を兼ねた宿場町ジンハルそして目的地であるホウライはコラークよりさらに北東、ヤハテウス大陸の端っこで魔界との緩衝地を挟む国境沿いにあるという。

 

 ――そのホウライへの道のりはなんてことない……と思っていた時期もありましたよ、それには当然理由がある。


 この冒険自体は駆け出し勇者ばかりの言ってみれば最初の村からのスタートで安全である事。

 更に核心をついた言い方をすればヤハテウス大陸自体が平和そのもの、ホウライへ向かう道の殆んどが整備された道路であって、夜間さえ気を付ければ魔物との戦闘が起きる事は殆んど無い、流石は魔界から離れた東の果てであり、最も安全な地域だと言われているだけの事はある。


 そのため例え、この旅の最中にヤハテウス大陸極西にある、最前線の城塞都市が戦闘準備に入ったという風の噂も、通りかかった町のカジノでお金を殆んど失おうが、そもそもそれが真紅さんの給料と勇者への教会からの虎の子の補助金であろうが、そのお金で装備と食料を買う予定であったという事を今更思い出そうが、そんな事は別にどうでもいい話にすぎない。

 ……いや、後半は関係ある。



 ――話を戻そう。

 

 ボクがホウライへと向かう道のりの中で特に神経をすり減らしたのが夜だった。


 基本的に道なりに進んでいけば、危険な夜には旅先の宿にありつけ、駆け出し勇者価格で泊まれるし、この旅には一見何の問題も無いはずだった。


 ――そう毎晩、一部屋、一つのベッドに女の子二人と一緒に寝るという事以外は。


 ここで二人の女性について改めておさらいしておこう、まずは一人目、真紅さんはスタイルのいいセクシーな神官さんで少し変わり者。

 困ったのが背丈がボクより大きい真紅さんが一緒の狭いベッドで寝るとなると、丁度ボクの目線のすぐ先にたわわに実ったはちきれんばかりの果実がパジャマ越しにその姿を現す事。

 その時点でボクにとっては大きな問題だ。


 「……んっ」


 そのため少しでも動かれるとポヨンと柔らかいものがボクの顔に当たるわけであって、ヤバい非常にヤバい、美少年ショタに転生したせいなのか心まで少年に戻っている今のボクはそれだけで爆発しそうだ。

 

 ナニがとは言わないが。


 シャンプーの匂いなのかほのかに甘い香りも広がってきて鼻腔をくすぐり頭がくらくらする、しかしソレを寝返って回避することは出来ない。

 何故なら背中側はガッチリともう一人の女性、ライラに抱き枕の様に抱きつかれているからだ。

 ボクに敵前逃亡は許されていないというのか!!


 二人目のライラは変わったネクロマンサーの少女(?)であり普段は強気な姿を多く見せているが、夜が怖いのか毎晩こうやってボクに抱きついてきて寝ている。

 真紅さん程ではないにしても立派な胸を持っているライラに抱きつかれていると背中にはっきりとその感触が伝わってくる。

 その二人の大活躍のおかげ? でボクの頭は毎晩暴走寸前であり、眠れるはずもなく不眠の日々が続いていたのだ。

 

 てなわけでホウライへの道中の記憶は強烈な眠気で掻き消され、ほとんど残ってないのである。

 さらにはホウライ国境に着いた際には睡眠不足のボクに絶望を味わせる事実が判明した。

 

 「なん……だと!!」


 ――ホウライは夜が無い国とは比喩でもなんでもない。


 本当に太陽が沈まないのだ! いや正しくは【日が沈んだ後に日が昇ってくる】ライラ曰くこれはとある事情があるそうなのだが……。

 

 しかしここで一つの救われたことがある。

 夜が無いこの国の寝室はどこも地下にあるのが一般的だそうで、ホウライ国境沿いの宿屋も寝室は地下に設けられていた。

 ボクはこの話を聞いて心底ホッとした、ボクは明るいところじゃ絶対に寝られないタイプであるからだ。

 ただしもちろんベッドは三人で一つだ。

 流石にこの頃になるとドキドキよりも眠気の方が圧倒的に強く、三人一緒のベッドであろうがお構いなしにいつの間にか爆睡していたため、この辺りから記憶は鮮明に残っている。

 一つ補足するとパーティのお金を取り扱っているのは真紅さんで、毎回一つの部屋に泊まるのも節約のためだという、それにしてもわざと狭い部屋を選んでいる気もしない事もないが……。


 そんな辛く苦しい旅を乗り越えようやくホウライに辿り着いたのである!

 旅の道中に魔物はいたけど人間と共存している種族が主であり、戦闘に巻き込まれることは一切無かった。

 正直そこは刺激不足だと言わざるを得ない。


 ――ホウライの町並みは純和風といっても過言ではない、というよりまんま平安時代の日本だという印象を受けた。


 それは都の前の宿場や村でもそして、都に着いて特に大きく感じた。

 ホウライの都は格子状に整備された道に多少異世界風にアレンジされている和風建築がずらっと並んでおり、平安京の異世界版という感じだ、西洋風の建築が多かったジンハルとはまるで違い、ある意味新鮮であった。

 しかしそこは異世界、和風な街並みにミスマッチな鎧騎士や魔物なんかも当たり前の様に闊歩しているのが日本人として気になってしょうがない。

 (……迷惑防止条例に引っかかりそうな件)

 

 「こっちよ」

 

 ホウライが故郷であるライラは都に着くとすぐに歩き始めボク達を目的の場所に先導してくれていた。


 ――ライラはただひたすら広い一本道を曲がることなく歩き続ける……というよりこれは明らかにホウライの都で一番大きいであろう前に見える立派なお城へと歩を進めているような……。


 どこに向かっているのか若干不安になったのでボクはライラに聞くことにした。


 「ライラ、君を知っている人を探しにホウライに来たんだよね? 一体これどこに向かっているの?」


 ライラは、はっきりと目の前のお城を指差し、こう答えた。


 「フフフフフ、もちろん、そのつもりよ今から【古い付き合い】の、あのお城の城主でありこの国を治める輝夜に逢いに行くわよ!!」


 「……は?」

 

 ボクは驚いて言葉に詰まった。


 いやいやその話が本当ならこのライラという少女、遥か昔の英雄の子孫であり、一国の主の知り合いって……かなりとんでもない人なのでは? その話にボク以上に驚いているのは真紅さんだ。

 真紅さんは先程のライラの話に、空いた口が塞がっていない様子でツッコむ事すら出来ないでいるようだ。

 ていうか脳がショートしたのか石の様に固まってるし……。


 ライラはそんな事お構いなしに駆け足で城の前までたどり着くと、巨大な城門を警護しているウサ耳の生えた上半身裸で筋肉モリモリの気味悪い門番に接近していき、親しげに話しかけている。

 

 「おーい! 真紅さんーおーい! 」

 

 ――ボクは門の手前で驚きのあまり固まっていた真紅さんの肩を揺すって目を覚ましていた。


 真紅さんがはっと我に返った時、前にいたライラはというとこちらを手招きして城門の中へと進んでいく。

 

 「早く来ないと置いてくわよ~」


 「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 ボクはまだ意識がはっきりとしていない真紅さんの手を引っ張って急いでライラに着いていく。

 

 城門の内部はという日本庭園が延々と広がっており石畳の一本道、左右には枯山水と様々な園芸用の木が植えられている。

 庭園の姿は春夏秋冬の順番で城に向かって並んでおり、四季が全て詰まっている庭園など向こうの世界ではとても考えられない光景だ。

 四季の庭園を抜けると都の道からも見えていた大きな城に辿り着いた。

 ここでいう城は天守を持たない古いタイプのお城で、大きなお屋敷といった方がもしかしたら正しいのかもしれない。


 「凄すぎる……まさに豪邸だ」

 

 「お待ちしておりましたライラ様御一行ですね、城主がお待ちです、どうぞこちらへ」

 

 お屋敷の手前にはこの場にとても似つかわないウサ耳の生えたメイド服を着た可憐な女性が二人立っており、ボク達が到着するのを見ると軽く一礼し、メイドさん達はボク達を城主のいる部屋へと案内を始めた。

 ボクはメイドさんを見た時内心、少しだけドキドキしていたそりゃそうだ場所や状況はともあれ可愛すぎるウサ耳メイドさんなんて滅多に見れるもんじゃないこの目に焼き付けておかねば。

 

 途中の廊下で真紅さんはライラに声をかけた。


 「ライラさんあなたまさか本当に女王輝夜の知り合いとは……大勇者シャゼルの子孫の話並みの衝撃ですよ、もう私何が何やら」


 一国の城主に会う緊張でカチカチになっている真紅さんとは対照的に腕を頭に回してリラックスしながら廊下を歩いているライラがドヤ顔で返答する。


 「ケケケケ……やっとお堅い神官の真紅さんも私の偉大さに気が付いてくれたかしら……カカカ……もちろんわざわざここに来たのはその為だけじゃない、彷徨に……いや勇者にこの世界の本当の使命についても教えてあげないと……だしね」


 ライラはチラッと後ろにいたボクの方を振り返りそう述べた。

 メイドさん達が見事な竹林の絵が描かれた金箔のが貼られた豪華なふすまの前で止まり、一礼してからそのふすまを開けた。



 ――いよいよホウライの城主輝夜との対面だ、いったいどんな人なのだろう?

 やっぱり十二単を身に纏っているかぐや姫の様なお姫様がいるのかな?

 

 


 結論を言うとボクの予想は裏切られた、ふすまを開けた先の上段の間にいた女性は黒髪のロングおさげという古典的なかぐや姫の様な特徴はあったものおさげの所々に赤いメッシュが入っており、何より問題なのはその格好だ。


 どうみても紺色のスクール水着!? ご丁寧にかぐやとぱっつんぱっつんな胸元にデカデカと名前が入っている、そして謎の白いマント!そんな少女が和菓子を寝転がって食べながらボク達を迎え入れたのであった。


 「あら、ライラ久し振りね! ほんとここんとこ毎日暑くってイライラしちゃうわよね」

 

 そう言うと少女はグラスに注がれていた飲み物を一飲みし扇子を扇ぎ始めた。

 この少女が本当に千五百年以上君臨する国のトップなの……??。

 

 

 

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