是にて一人の人間の人生は終わり、始まる
未熟者ですが評価感想を頂けると幸いです。
俺は思う、空虚とは何かと。
俺は思う、なぜ人は自分の心の奥底にある永劫に満たされぬ器を満たそうとする事が正しいと信じるのかを。
俺は思う、器を満たしたその先に何があるというのかと。
何も無い。
全てを得ようと、全てを満たした状況に飽いてしまえば、結局そこに広がるのは空虚である
それでも人は自身の器に水を注ぎ続ける、そうしないと壊れてしまうから。
そして俺は思う、厨二病を発症している時が己の心を満たし一番輝きを放っている時だと。
「……って恥ずかしいわ!!!!!!!! ……あれ? ここは?」
――その男、名を彷徨アキ24歳、職業不詳自称、夢追人つまりはただの無職、最近になってその事実に焦りを感じているせいか近々動画配信で稼ぐ予定を立てている平凡な屑。
世間からすればただのいい年した寄生虫であり社会のゴミと言われても差し支えないだろう。
これはそんな俺が、知らない天井をベッドから眺めているところから物語は静かに始まりを告げる。
――とは言っても、そうだなぁ……この清潔そうな白のベッド、横に備え付けてあるテレビ、腕に繋がっている点滴、考える余地は殆んど無いか。
これは病院だな。
辺りを確認する。
病室の出入り口付近の壁に掛けられていた飾り気のないシンプルな丸時計は3時を指している。
……家から外出した時間を考えると大体5時間以上経過しているのか?
いや違うな、テレビの隣に置いてあるカレンダーが十二月になっている事にも気が付いた。
俺に確かな記憶があったのは十一月の三十日。
だとすれば数日、下手すれば数週間は経っているのかも?
――だが正直今問題なのはそんな事ではない、そもそもこの病院に運ばれる直前の記憶が俺の頭からすっぽり抜けてやがること……。
「……確か俺は自宅警備の雇用主から月毎に貰う僅かな収入(お小遣い5000円)をコツコツと貯めて予約しておいた男の娘エロゲとコスプレ衣装とお尻をアハーンうふーんな道具を買って、ワクワクしながら帰っているときに…………突如藪から現れたイノシシに激突され、その衝撃で道路にすごい勢いで飛び出し、そこに偶然通りがかったトラックに轢かれて吹っ飛ばされ、たまたまそこにあったドブ川に顔から突っ込んだまでは覚えているのだが……一体なぜ病院に?」
独り言が自然と声に出るのは俺の悪い癖だな。
そこに全く聞き覚えの無いしゃがれ声のツッコみが入る。
「いや、それじゃろ!!!! 今言ったよな原因!!!」
この病室には俺一人とばかり思っていたのだが……どうやら隣のベッドで俺の独り言に聞き耳を立てた不届き者がいたようだ。
そこに目を向けると今にも死にそうな特に語る事のないモブ顔ツルっ禿げ、ついでに無駄に偉そうな長く立派な髭を持つジジイが…………いいや、無視することにした。
(俺はコミュ力高くねぇからな、こういうのは聞こえないフリするに限る)
(いやちょっと待てよ……俺の最も重要な誰にも知られてはならないトップシークレットについて聞かれてしまった……殺すか)
何故か所見である筈なのに殺意がすごく湧くこのジジイに対し口封じの鉄拳を喰らわそうと上体を起こした時に突如体に刺す様な激痛が走る。
先程までぼんやりと考え事をしていたので全く気が付かなかったが、俺の体には全身の至る所に包帯が巻かれており体はほぼ動かせない様に固定された状態であった。
重傷人である。
幸い感覚自体は全身あちこちの痛みからも確認できるし身体欠損なんて事には、なって無さそうなのが僅かな救いか。
「――あんたここに来てから数日間は眠りこけておったし、まだ無理に動かん方がええぞ」
ジジイのその言葉と自身の体の痛みにより、俺は先程の激情に身を任せ見ず知らずのジジイに殴りかかろうとする犯罪行為を実行しようとした事を恥ずかしく感じる程度の冷静さを取り戻す……
俺が常軌を逸した行動を取ろうとしていた事をひそかに反省し、黙り込んでいるとは露知らずに目が覚め怪我の重大さに気が付きションボリしていた雰囲気を醸し出していた風に見えていたのかジジイは俺を励まそうと優しく語りかけてきた。
「まぁなに、そんな怪我を負うような事故で命が助かっただけ良いってもんじゃ、それにこれからリハビリを頑張っていけば完治する見込みも充分にあるじゃろ、これから頑張る事じゃの……はようエロゲとやらをプレイできるようにな」
冗談を交え、茶化しつつも俺を励ますモブジジイに俺は――。
「――ふざんけんじゃねぇ!!ボケ、カス、入れ歯野郎!! やっぱ殴っとくべきだった!!」
キレた。
やっちゃった。
咄嗟に暴言が出た、ジジイが思っていたであろう反応と違う、その言葉に入れ歯を口から勢いよく吐き出し衝撃を受けている、いやお前!本当に入れ歯かよ!!
正直ジジイに対し怒っているのではない。
俺はこの状況にキレている。
「まず第一に俺は病院が嫌いだ!エロゲのようなどエロな女医さんなんて存在しないし、基本的に病室のベッドで寝ている奴の平均年齢も高すぎてなんか気が滅入る、メシもまずい!てかこの状況トイレにも気軽に行けない、夜のアレなんてご法度だ!!おまけにせっかく買ったエロゲは数か月はお預け焦らしプレイもいいとこだ、さらにさらに今この場にソレが無いとなると親が回収したんだろうなぁ!!どんな顔して今後両親と顔合わすんだよ!!ここはこの世の地獄かよ畜生……」
日頃の自分を遥かに凌駕する程の饒舌なオタク特有の早口で嘆く。
というか日頃は口なんかほぼ開かんが。
「――こんな事なら……こんな状態でも生き延びるくらいなら……いっそ死んで異世界転生して美少年になるかもしくはハーレムを作りたい……」
――俺は失意と絶望の中、自由が利かぬ不自由な体で唯一稼働する頭を下げボソッと呟く。
しかしこの一言により病室に流れる空気が突如として変わるのを肌で感じる。
何かが起きるそんな感覚。
「なるほど、ふむ……少年、その願いは真の事かの?」
――隣のジジイの声? は? え? まさかそんな訳ね、どうしたん? いきなり。
横に目をやるとジジイが光り輝いていた、いや、頭じゃなくて全身が、いやいやいやいくらなんでも展開が急すぎませんかこれ。
俺とは比べ物にならない割れた腹筋と太い腕を自慢したかったのであろうか、ジジイはいつの間にか半裸になっているし、もう訳が分からないよ。
天使の輪っかみたいなのも頭上に見えた、それに何故か宝石が散りばめられ金の装飾が施された危なそうな槍も握っている。
コスプレにしては少々クオリティが高すぎる、それに眼光の鋭さが増したような気もするのは気のせいなのだろうか、例えるならスロットの神みたいなジジイとだけいっておこう。
「おいおいマジかよ……夢でも見ているのかジジイが発光してる……」
突然の変態の変身に度肝を抜かれた俺に対し、圧倒的威圧感を放つコスプレジジイが意外にも気さくに話しかけてきた。
「おっほんお前さんからその話題を切り出してくれて助かったわい、やはりお主はそういう物に憧れていたのじゃな……実はのぉ、すご~く急な話で悪いんじゃが現在30名程、転生募集しておる異世界があるんじゃよ、実を言うとなワシはお前さんをスカウトしにここに来たわけじゃでな……物語の導入……ゴホン……もとい! 異世界転生なんてこれくらいの勢いでええんじゃよ、なぁ行きたいじゃろ異世界!!」
そう言うとジジイはせっせと俺がこの世で6番目くらいに嫌いな【紙】を手渡してきた。
震えはあるが多少は動かせる左手でその紙を貰い内容を確認する。
――紙とはつまり求人票だ……! 無職にとっては地獄の片道切符にしか見えぬ紙、いや社会人にとってもか。
求人票にはこう書かれてあった。
【急募!!すぐできる異世界転生!!即日OK!!】
現在ヤハテウス大陸では異世界勇者を急募しております、お仕事内容は魔王を倒し世界を救う事、以上。
転生場所:ヤハテウス大陸始まりの村、もしくは希望者の方(死にたがり)限定、終焉の大地及び魔王城1万キロ手前まで案内できます。
※その他特記事項
住み込み:あるわけないでしょ
給料:自分で稼いでね
週休:自分で決めてね
福利厚生:無し
初心者でも簡単なお仕事 (もある)!職場内の雰囲気も〇(比較的)!安心して異世界転生できます。
詳しくは女神フレア、又は雷神ゼウス竹山さん迄
――求人票に目を通し、病室のベッドに付けられていた名札に目をやる、そこには竹山と明記されており光り輝くジジイがニコニコとこちらを見ている、なるほど~やけにパチパチと閃光が走っていると思ったけど雷神だったのかぁ……。
「ってな訳ないだろ!!!!!!!!」
手に持っていた求人票を放り投げて思ったことを口に出した。
いやまずこれ、明らかにブラック企業……ッ!駄目こんな所に応募しちゃ駄目……こういう甘言に騙されて俺は就職というものがトラウマになり夢を追うことにしたのだ……!! 何の夢を追うかはいまだ未定だが、いや一生夢を追い続けるだろうが。
そもそもどうみてもこれは宗教勧誘……俺が世間に疎くなっているわずか数年の間にジジイが発光するのは日常になっていることも否めない……ジジイ発光のバーゲンセール……ッ。
昔見ていた漫画なんかも主人公がパチパチ発光するのに十数年要したがそれ以降はポンポン発光するキャラクターが増えていった記憶がある!
きっとそうだ、このジジイは変な力が目覚めたのだ、筋肉もムキムキだしスーパー日本人にでもなったのをきっかけに変な宗教を始めたのに過ぎない。
「――あの……そろそろ答えを聞いてもいい?」
宗教インチキジジイが困り顔で俺に訊ねてきた。
「そんなのお断りに決まっているだろ!!俺は騙されたりせんぞ決してな!!人を騙すにもこれは――」
俺がインチキ宗教家ジジイにはっきりとノーを突き付けようとしたまさにその時、病室に漂う消毒とよく分からない線香臭とは全く違う、何処かのオサレな国の上品なフローラルの香りのような、いい香りと共におよそ病院には似つかぬ恰好の美しい一人の女性が入り口からこちらへとゆっくり向かってきた。
その女性は美しい、ただただ美しかった。
どんな人間であろうと彼女を見れば皆、時が止まったように魅入ってしまう事であろう。
見惚れるとはこういう事なのかとその時初めて理解した。
成人女性よりは高いであろう背丈に肩にかかるさらさらな赤髪、凄く母性を感じさせるような顔立ちに赤の混じった金色だが何故か柔らかな印象を与える瞳、目を引く豊満な胸、それを強調するかのような白一色で特に凝った装飾などは無い布っきれを纏っただけの様なえちえちな衣装、八対の純白の羽根にジジイと同じく頭上に輪っか。
病室で起こっている異常事態、ここはコスプレ会場だったのですか?
そんな些細な事が気にならないくらい俺はその女性の美しさに見惚れていた。
アホ丸出しなスケベな顔を浮かべている俺とは対照的に冷静な面持ちで鋭い眼光を向けていたジジイがその女性に声をかける。
「――フレア聴いておったのじゃろう……駄目じゃ、話にならん、残念ながらこの者は異世界には行かんぞ――」
いや待てジジイ! 考えが変わった!
駄目、思考がごちゃちゃだ、フレアと呼ばれた女性、求人票に確かに書かれていた名前、フレア、異世界転生、彼女が女神? 今、この瞬間、ここで口を挟まないとビッグチャンスを逃してしまう……この出会いが無かった事になる、何故かそんな考えが突如脳裏に浮かんだ。
「……ならしょうがな――」
――ただ今の俺に在った感情は一つ、何でもいいこの女性が口を開ききる前に何か話しかけなくちゃ、と。
「お……◇◇……◇……ウ」
ん? なんだこの声、直接頭に聞こえてきたような……いや、今はそんな事どうでもいい。
詐欺師だったとしても上等ッ! 直感を信じろ! 想いを、願いを今ここにぶつけろおおおおおおお!!!!!!
「ちょっと待ったフレアさん!!!!俺異世界に行きたいです!!!!そんで魔王をぶち殺したら結婚してくれええええええええええええ!!!!あっ!もちろん一夫多妻制だから他の子とも結婚するけど!!!そして最後に俺を女装が似合う美少年にしてくれえええええ」
「……あっ……」
――場が凍る、当たり前だろうが、初対面の女性にいきなり求婚した挙句、訳の分からない願望を口にするという、誰が見ても異常者としか思えない言動だ。
自分でもよく分からなかった、なぜこんな事を口走ったのだろうかと、穴があったら永眠したい気分だよ全く。
とは言いつつも心のどこかではこれで良かったのだと思っている自分もいたりするのがもどかしい。
「……正解」
「えっ、どういう……」
急に恥ずかしさが込み上げ涙目になりかけている俺とは対照的に少し驚いた表情を見せていたフレアさんの顔が正解の言葉と共に慈愛あふれた笑顔へと変わっていく。
「あらあら随分と面白いわね貴方、記憶消去を本能的に察して願いを口にしたというのかしら、中々大したものね、私達の見込み通りかもね、取り敢えずその超直感は大事にしなさいな、あとコンマ数秒の違いであなたの運命が大きく変わっていたものね……【運命をねじ伏せる力】その片鱗かしら」
ベッドの前の見舞い用の椅子にフレアさんは静かに腰掛けながら上機嫌でそう語る。
椅子に座って足を組んだフレアさんの官能的な衣装からちらりと見える生足太ももに目と頭が集中していたせいでその話はよく聞き取れなかったが、まぁいいっか。
「そこのジジイが言っていたように異世界転生は勢いとはいっても、契約は契約ねぇ、しかしまぁ結婚は置いといてもずいぶんと珍しい願いね、大抵は異世界転生といえばチート能力とか伝説の武器だかを要求する強欲インチキチート人間が多い中、自身についての願望は容姿についてのみだなんて……気に入ったわ! 女神フレアその願い聞き届けましょう」
――あ……しまった!確かに!俺はなんて馬鹿な願いをッ!待て、いや違うある訳ないだろ!異世界転生なんていう本当にそういうどこぞの小説みたいなそんな事――。
ジジイが発光した辺りから頭が変になっているのか俺は……
「そうね!まず死因を決めましょう!トラックで轢かれるなんてテンプレ丸出しの馬鹿じゃない? 何処かのおじいさんはテンプレ通り、貴方の事をトラックで轢き殺そうとして失敗してたみたいだけど??」
フレアさんは勝手に話を進めつつ、ジジイを睨みながらそう言うと、ジジイはゆっくりとフレアさんから目を反らした。
――なるほど何にせよ俺の身に起こった事故はこいつの所為であるという事は判明したな、やはり俺の殴っとくべきという直感は当たりか。
理解できない出来事に流されまくっている俺は質問することで少しお茶を濁し、冷静になる時間を取る事にした。
恐らく俺の勘と知識でいくと彼らはほぼ間違いなく別世界の存在だろう。
ハッキリ言って普通の人間にこの二人ほどの圧倒的な存在感は出せないであろう、それは認める。
しかしここはあくまで現実。
インチキ宗教家が流行りものに乗っかり勧誘してきている可能性も拭いきれていないのは事実。
実際にカルト宗教の教祖には人を引き付ける天性の才能があるものだ、この存在感はそういう類のものなのかもしれないしね。
転生するための修行だって言って高額な布施を要求したりされたら堪ないしな?
一度落ち着こう、ゆっくりと深呼吸をして。
「先程は変な事を口走ってすまない、それで聞きたいのだがなんで俺なんかを異世界転生させようとするわけよ? まだあんた等を本当に本物の転生の神様だとか認めてるわけじゃないからさ、一応な? それに自慢じゃないが金なら無いぞ」
――内心俺には特別な力が宿ってるとかそういうものを期待しながら質問してみた、実を言うと先程から疑いの目も向けていると言いつつも心の中は異世界転生への道が拓けた事による期待でワクワクが止まらないのが本音だ。
そうじゃなきゃこんな話には食い付かないさ。
落ち着いてこの話が本当に嘘じゃないのかを見極める。
俺の質問にフレアさんは少し考え答えた。
「不純な動機を持ち異世界事情に詳しく、その手のゲームや小説などの知識があり、この次元の現代社会的には不必要な人材それらを満たしつつ丈夫で健康な体、最低限の頭脳を持ち合わせているからかしら、意外と希少なのよこういう人、あとはその他諸々――選考の基準は【神毎に】色々とあるわ」
――確かにいざ探すとなると異世界物オタで社会から抹消されても問題ない存在、意外といないものなのかな? 難しい事は考えず俺は異世界転生者適性が高いって事か……ポジティブに受け止めておこう、社会的に不必要は聞かなかったことにして……。
俺はもう一つ気になった事を質問してみた。
「現代社会から消えてもいい存在を転生させるのは理解できる、しかし何故この世界の異世界物の知識がいるんだ? あくまでそれはこの世界の人間の空想の話に過ぎない訳だし転生した世界でその情報が通じるとは思えないのだが?」
フレアさんは俺の鋭い質問にニヤリと笑みを浮かべ回答した。
「あら【小説は事実なり】よ、この世界に伝わる神話伝承はほぼ全て事実を元に作られたもの、詳しい説明は難しいから省くけど今君がいるこの世界だって昔は神や悪魔、魔物や人間が争い人間が勝利した一つの異世界にすぎないのよ、そして私の君臨する世界は科学ではなく魔法が発展し、人間ではなく僅かに魔族が押している世界、つまりは偶然にもあなた達の言う異世界物に近い状況なのよ」
納得はいく、俺はどちらかというと神様を信じている信心深い人間だったからだ。
俺には物理法則だけで宇宙が、星が、そして生命が生まれたと言われるくらいなら神によって世界が生まれたとする方がまだ納得できる。
そして神がいるとするのならそれに相反する魔の者がいるのも頷けるだろう。
さらに言うと神や悪魔がいる筈であるのにこれらが人間には知覚できない世界、高位の次元の存在であるならばそれは異世界が存在するという証明にも繋がる。
何故なら上位の世界から我々の住まう下位の世界を生み出し干渉出来る存在であれば、別の次元あるいは空間に異世界を作れても何ら疑問は無い。
そして、魔の者がほぼ完全にいない世界で有り余る人間が人間の足りぬ別の世界に供給されるのも、またあり得る事だ。
なぜそうする必要があるのかそれは神のみぞ知るところなのかもな。
「――それよりも死因は決まったかしら? 人を殺すノートで死神に名前を書かれるもよし、拳法家に体の弱点を突かれて爆破四散するもよし、路上でいきなりヒットマンから銃撃されて訳の分からないことを呟いて倒れこむのもよし、よりどりみどりよ」
色々とアウトな死因をウキウキしながら口ずさむフレアさん。
だが甘いな残念ながら俺は違う……ッ! そんな死に方はごめんだ、俺はこの世で一番の死に方をたった今思いついたのだフレアさんを見てな。
一生に一度と言うのなら俺は史上最高に欲に塗れた死に方にするッッ!!!!
言うぞ!!!言うぞ!!絶対言うぞ!!!恐れるな今こそ勇気を示す時だ!!
――しばらく時間を置いて一呼吸、意を決して俺はフレアさんに、こうお願いした。
「おっ……おっぱいで……っ……おっぱいで窒息させてください!!!!!!!!――」
――だ、駄目かっ! 流石にこれは強欲か……いくらなんでも攻めすぎ……ッ!。
でもこれなら失敗は無い。
こいつらが例え万が一億が一詐欺師でもおっぱいという神が作り出した罪深き魔性の果実に俺の肌を触れさせる事が出来るというマリアナ海溝よりも深い平成最後の大作戦なのだ。
「…………なるほどなるほど! もうしょうがない子ですね」
あ? えっ? 通った???? ダメ元だったのに。
それに結構ノリノリ?
――その刹那、俺の瞳に少し赤面した様に見えたフレアさんが一瞬映り、直後に白い衣を身に纏った見事なまでの乳袋が顔に覆いかぶさり目の前が暗くなる。
「――文字通り一生に一度のお願いだから特別よ、そして異世界でまた一生を手に入れなさいな」
――女性特有であろういい香りと柔らかなソレの感触がたまらない、顔に僅かな心臓の鼓動も感じる、もちろん嗅いだ事も触ったことも、ペロペロしたこともない、出来る事なら永遠と味わっていたいその至福は無情にも時間にして数秒と経たずに自分の意識が潰える感覚へと変わる。
深い眠りへと誘われる、その眠りがこの世界での永遠の眠りであるとは思えない、平凡な、いつも通りの眠り。
――こうして俺はこの世界での生涯を終えた、そしてそれは新しい世界での人生の幕開けとも言える。
「逝ったな……あれじゃったな?お主のオネショタ好――」
セクハラジジイに図星をつかれて反射的にビンタをお見舞いすると恨めしそうに頬を抑えながらジジイは病室の窓から飛び降りるというダイナミック退院をしていった。
「もぅ!」
――静かになった病室で魂の抜け殻となった者の体を優しく撫でた。
抜け殻は光に包まれゆっくりとその身を消失していく。
この者はこの世界の人々の記憶からは抹消されるであろう【例外】を除いて。
私はそれを見届け病室を後にする。
彼はこの世には完全にいなくなった、そして次の世界に転生する。
「婚期を逃し続けて数千と一億光年、世界を救った美少年勇者と結婚……ッ!!長年の夢……最高に燃えるじゃない!! 今回こそは!!!!!!!」
――神様ってのも案外くだらない事で悩んでいるのだ。
何故私が婚期を逃し続けたかって? それは未だかつて【あの世界】を救う私の理想の美少年勇者が現れなかったからよ♪
――廻り出した運命。
いや運命は歯車じゃあない、運命とは道。
それも一本道、彷徨アキ、君はどんな道を歩むのかそれは神にすら知り得ない。
運命のみぞ知る道。
最後まで読んでいただきありがとうございます
誤字脱字などありましたらご報告を
評価感想をいただけると次回のモチベーションに繋がると思います
文章が拙いと思った部分は見返して定期的に更新していきます