倒した二人とメイド長
俺は夜の空を掛けてアーク伯爵邸に戻る。そして静かに扉を開けて中に入るとそこにはメイド長がいた。
「どうやら無事に帰って来られたようですね、良かった」
どうやら物凄く心配されていたようだ。
「心配をかけて申し訳ありません。すみませんが今からサリバンさんに話しておきたい事があるのですが大丈夫でしょうか?」
「そうですね…。分かりました、私も一緒に行きましょう。それと貴女が屋敷を出る時に居た二人だけど…。」
言葉に詰まるメイド長に、嫌な想像をする俺。
「あの二人に何かあったのですか?」
「そうね、あったと言えばあったのかしらね。貴女がやった事と関係があるし話すわね」
なんか物凄く不安になってきたぞ。
「貴女が気絶させた二人だけど…。気絶から目覚めたら記憶を失っていたの」
良かった。もしかしたら、目覚めた途端にマリアメイド長に襲いかかったのかと思ってたから。しかし記憶を失うとはどの間くらいの事だろう?
「メイド長、記憶を失った。とおっしゃいましたが、どの位の間の記憶が無いのですか?」
「それは…、屋敷に来てから今日までの記憶がすっぽり抜けているのです。それとあの二人はあのぶ…アーク伯爵が連れて来られた二人です。ですので身元が不明だったのですが…」
「身元がわかったのですか?」
「その通りです。あの二人はランクD冒険者のアヤとマヤと言うそうです」
ランクDだって?まさかと思うがそんな事は無いよな?
「申し訳ないのですが、二人と話をする事は出来ますか?」
「それは大丈夫です。今、二人は待機室にいます。意識もはっきりしているので大丈夫だと思います。それとこれを」
メイド長がポケットから何かを取り出し俺に見せる、これはブレスレットだが二つに割れていた。
「これは?」
「これは、あの二人、アヤとマヤの腕に付いていただあろうものです。どうやら貴女の攻撃を受けた際に壊れてしまったようですが」
え?俺は顎辺りにスタンガンを当てただけなんだがな。まさか倒れた衝撃げきで壊れたのか?そんなに脆い物にも見えないしな。なんなんだろうか、このブレスレットは?考える俺。
そして、俺の疑問に答えたのはメアリーだった。
『あ、そのブレスレットは魔道具ね』
(ん?魔道具って?)
『魔道具は魔法師、又は魔法使いと呼ばれる人が作る道具の事よ。まあ、魔力量によって作れる魔道具の質も変わってくるけどね』
(へ〜。で、このブレスレットの魔道具の効果って分かるのか?)
『それは簡単よ。カルロス、サリバンにも使った透視眼を使えばいいわ。それで付与してある魔法が見えるはずだから」
(分かった。透視眼)
メアリーの言った通りに透視眼」を使用してブレスレットを見る。ブレスレットに文字が見える、その文字を読むと操作と書かれていた。
(メアリー、ブレスレットの魔法の効果は文字の通りの効果だと思っていいんだよな?)
『そうね、その通りよ。でもまさか操作とはね。この魔法は禁呪魔法なのよ』
(禁呪魔法ってメアリーが使ったやつだよな)
『う、そ、そうよ。まあ、私が使ったのは時空の魂ていう奴だけど。まあ、今はいいのよ。それよりも操作は邪な心の持ち主にしか使えないと魔法書に書いてあったのを覚えているの。だとすると使える奴は限られる、今一番疑わしいのはアイツね』
(ああ、宮廷魔導師のアルバン。アイツだな)
そう、宮廷魔導師アルバン。今回の依頼の黒幕だと思われる奴だ。まだ、証拠は無いが彼等は限りなく黒である。それに彼等が話していた内容に利用できるところもあったしな。
あとはギルドと連携してやれば大丈夫だろう。
「それでは私はアヤとマヤに話を聞いて来ます。サリバンさんには後ほど伺うとお伝えして下さい」
「分かりました。それでは私は奥様の部屋行きますので」
そういうとマリアメイド長は階段を上がっていった。俺はメイド長を見送ってから玄関の横にあるメイドの待機室に入るとメイド服を着た顔のよく似た女性が二人いた。
「貴女は?」
「私はメアリー、貴女達はアヤとマヤよね?メイド長から聞いているわ」
「髪の短い方がアヤで長い方がマヤです。貴女もここの屋敷のメイドさんですか?」
「今はそうね、数日前まではただの魔法使いだったわね」
「へ〜、メアリーさんて魔法使いだったんですかマヤも魔法を使えるんですよ」
無言で頷くマヤ
「それは凄いですね、話は変わりますがアヤさんとマヤさんはもしかしてライさんの依頼を受けた覚えはないですか?」
俺の言ったことに驚く二人、どうやら心当たりがあるらしい。
「メアリーさん、どうしてギルド長の名前を知っているですか?それに依頼って…」
「私もライさんからの依頼を受けているんですよ」
「そうだったんですか!だとするとメアリーさんも冒険者なのですか!」
「そうですね、私は先日冒険者登録したばかりですよ」
「え、それなのにギルド長から依頼されたんですか?」
「そうですね、ギルドランクの試験で少し騒ぎになりまして…」
「騒ぎってなんですか?」
「レッサーデーモンを一人で倒したからだと思います…」
俺が試験の最後に倒した敵の名前を出すと二人の顔色が徐々に赤みを帯びてきたと思ったらアヤが
「お姉様と呼ばせてください!」
何故か尊敬されているようだ。それはマヤも同じで俺の事をキラキラとした眼見つめている。
『お姉様ね、悪くないわ!』
(メアリーは黙っててくれ)
『いいじゃないのよ!少しは浮かれたって』
(今は俺が話してるから少し黙ってくれ!)
ふう、メアリーは一度調子に乗ると大変だからな。こういう時は直ぐに黙らせるに限る、あとあと更にヒートアップしてくるからな。
さて、話を戻して
「呼び方は好きにして構わないよ。あと、二人にお願いしたい事があるのだけれどいいかしら?」
「何なりと申しつけくださいお姉様!」
「わ、わかったわ。それでは二人にお願いします。二人は今からギルドに向かって貰います、ギルドなら二十四時間空いているでしょ?それでギルドに着いたらライに説明して欲しいの、違法人身売買関わってるのはアーク伯爵、ガラン公爵、それに宮廷魔導師のアルバンだって事を」
「たった数日でここまで突き止めたんですか!流石お姉様です」
うんうんとマヤも頷く
「それと私は囮になってワザと捕まるつもりだとライに伝えてください」
「ダメです!お姉様が囮なんてダメですよ!」
「いえ、これは私しか出来ない役目なのだから貴女達はさっき私が言った事をライに伝えてもらえば大丈夫だから、ね?」
「わ、分かりました。ギルド長に伝えます」
「お願いね?私はアーク伯爵夫人に話があるから二人は直ぐにギルドに向かって下さい。それとこれを」
俺は壊れたブレスレットを二人に渡す。
「これは?」
「これは貴女達を操っていたブレスレットです。操作の魔法が付与されたものです。今は壊れているので効果は無いですが…ちゃんとライさんに届けて下さい」
「 分かりました」と言って二人揃ってメイド服のまま屋敷を後にするアヤとマヤ、着替えなくても良かったのか?とも思ったがもう出た後だし無理か。
俺は二人を見送ってからサリバンに会いに行く。
サリバンの部屋に着くとマリアメイド長が部屋の入り口に立っていた。
「奥様は中におります。アメリーさんが来ることは伝えてありますので入っても大丈夫ですよ」
「そうですか、分かりました。ではメイド長もご一緒にお話を聞いて貰ってもよろしいでしょうか?」
「私がですか?」
「はい、貴女にも聞いて貰いたい話なのです」
「分かりました、それではご一緒しましょう」
そう、マリアメイド長にも話さなければならない事がある。それはサリバンさんにも無関係では無いので二人一緒に話しをするのがいいと思い言ったのだ。ただしほとんどが俺の想像だが…
そして二人一緒部屋に入る。
「来たわね、マリアから聞いているわ。あらマリアも一緒なの?」
「はい、夜遅くにすみませんが私の話を聞いていただきたいと思いまして、マリアメイド長が一緒の方が都合が良いのでここで話を聞いて貰おうと思った次第です」
サリバンは何か気付いたように
「そう」
と一言だけ呟いた。
俺はアヤとマヤに話したことを全て話した。アーク伯爵、ガラン公爵、アルバン宮廷魔導師の事、ブレスレット事、そして俺が囮になる事も全て…。
俺が話し終わるまでサリバンとマリアメイド長は静かに俺の話を聞いていた。
「以上がアヤとマヤに話した内容です」
「そう、まさか宮廷魔導師まで出てくるとは思わなかったわ」
「そうですね奥様、アルバン宮廷魔導師を知ってある人からすると信じられない話ですね」
俺の話を聞き終わり空気が重くなった部屋。 だが俺はまだ二人に話していないことがあった。これは俺の想像でしか無いが的外れでは無いはずだ。
「すみませんが、私にはまだ話していない事があります」
「何ですか?」
「この話は私の想像でしか無いのですが…」
「どうしたの?続けて話してもらってもいいのよ?」
俺は一回深呼吸すると意を決して言う
「マリアメイド長、貴女はアーク伯爵が人身売買をやっていた事を昔から知っていたんじゃないですか?」
俺の言葉に部屋の中の空気が一層重くなっていった。