試験終了
二階席が騒がしい、どうやら出てきたCランクの魔物に驚いているようだ。鉄格子から出てきた魔物は狼を巨大化させたようなヤツだが尻尾は二本ある、中々の迫力ある。
「ソニックウルフ、Cランク試験開始します!」
ライが叫ぶ、と同時にソニックウルフが向かってくる。速さがゴブリンと段違いなお陰で俺との距離が縮まる。俺は落ち着いて愛銃を構えるが、ソニックウルフが脅威を感じ取ったのか射線上から外れる。どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「ようやく骨のあるやつが出てきたか、メアリー、ちょっと本気で行くぞ」
『了解。あれね』
「そう、アレだよ」
『いくわよ、身体強化!(フィジカルアップ)』
見た目の変化は無いが身体能力が上がるメアリーの魔法だ。
三年間の特訓で体の主導権をメアリーに渡さなくても魔法が使えるようになった、お陰で並大抵の敵は倒せてしまう。
俺がメインでメアリーが補助、俺の方が戦闘経験はあるので自然と今の形になった。
そしてソニックウルフに突っ込む。さっきまでとは比べ物にならないスピードの為か二階席から、「何だあの速さ!」「まさか身体強化?いやそんな訳が…」
「嘘だろ!」など様々な声が聞こえてきたが今は戦闘中、無視して集中する。身体強化した事によってソニックウルフよりも速さで上回る事が出来た。そしてその速度のままソニックウルフの顔を掠めるように通る。
「バァーン!バァーン!」
二発の銃声が響く。俺はソニックウルフの正面に立つ。ソニックウルフは動かない、いや、動けない。すれ違いざまに頭に二発撃ち込んだからだ、俺が思った通り脳の位置は狼と同じ位置だったようだ。
俺は一息ついて中央へ戻る。その間、二階が更に騒がしくなってきたが気にしないようにしよう。
これでCランクのCランクにはなった。あと一回勝てばBランクだ。
準備が出来たので再び手を挙げる。
すると、ライが
「メアリーさん、Bランクの相手はレッサーデーモンですがよろしいですか?」
ライの言葉に二階席から「マジか!」「普通はパーティで倒すヤツだぞ」「一人じゃ無理だよ」などの驚きの声が上がっている。俺も悪魔とは戦ったことがないのでメアリーに聞いてみる。
(メアリー、レッサーデーモンて強いのか?)
『そうね、私も戦った事はないけど聞いた話では物理攻撃は効かないらしいわ』
(と、すると今度はアレかな?)
『そうね、アレでいいと思うわ』
よし!対策は出来たな、ライに「大丈夫」と返事をするとライは真剣な顔付きになり。
「それでは最終試験開始します!」
ライが 高らかに宣言すると鉄格子が開くのではなく、鉄格子の何もない空間から黒に靄が現れその中からレッサーデーモンが出てきた。その姿はまさに悪魔だった。黒い羽、頭に付いた二本の角が付いていた。しかし、レッサーの名の通り悪魔の中では下の下なのだろう、一メートルくらいの大きさしかない。
俺は試しに残っている弾を全弾レッサーデーモンに撃ち込む。全弾命中!するが悪魔がニッコリと笑う、やはり効いていないようだ。
なら今度はアレを試すとしよう。
(メアリー、準備はいいか?)
『いつでもいいわよ!』
(よし、それじゃあ左手だけ任せるぞ!)
そう、メアリーに言う。三年間の特訓で体の一部だけなら時間制限無しでメアリーに主導権を返す事が出来るようになった。
ちなみに体の主導権を渡せる時間も伸びている。
メアリーに左手を任せ、スキル《銃火器生成》を発動させる。そして俺はメアリーに任せている左手にマガジンを生成すると、
『よし!きたわね。スキル《魔法付与》!』
メアリーがスキルを発動させる。マガジンに魔法が付与される。付与された魔法は『爆裂』、火の魔法だ。この魔法は銃弾と相性か が良く簡単に付与出来るが使い所が難しい。 何故なら…
「よし、これでリロードしてと」
リロードが完了すると同時にレッサーデーモンが向かってくる。
俺は愛銃を構えるとメアリーに頼んで再び身体強化をかけてもらう。
「全弾持ってけー‼︎」
全力で後ろに下がりながら連射する。最初に打った弾がレッサーデーモンに当たると同時に凄まじい爆発が起こる。特訓中にも試したが一発の威力がグレネードに匹敵する威力がある。余りにも強すぎるので威力調整をしようとも思ったが上手くいかなかったのだ。
凄まじい爆音と共に全ての弾丸が命中する。
煙が充満する、レッサーデーモンな声は聞こえない。
少しすると煙が晴れてきた、レッサーデーモンの姿が確認出来ない。もう少し待たないと煙は完全には晴れない。俺は念の為メアリーに頼んでもう一回スキルを発動させ、リロードする。
そしてリロード完了した時には煙は完全に晴れていた。
そこにレッサーデーモンの姿は無かったかに見えたが、頭と胴体が無いだけで手足は残っていた。
レッサーと言えど悪魔には違いない。消滅するまで気が抜けない。
しかし俺の心配をよそにレッサーデーモンの手足は直ぐに消えていった。
「ふう、これでBランクになりましたよね?」
ライに言うと同時に二階席から野太い大歓声が響いた。
「うおー!マジかよ!やりやがった!」
「あんなに美人で強いとか反則だろ!」
「俺たちのパーティに入ってくれないかな?」
「俺、彼女の為なら死ねる!」
など様々な声が聞こえてくる。このままでは収集がつかなくなると思っていたが。
「静粛に‼︎貴方達は冒険者の先輩でしょ?こんな時は手本を見せて拍手の一つでもしたらどうですか‼︎」
今までとは違うライの怒気が混じった注意に冒険者が一瞬で「シーン」と静まりかえる。
ライの新たな一面を垣間見た瞬間だった。
「これにて試験は終了です。ギャラリーは速やかに退出をお願いします」
ライの言うことに渋々従う二階席の冒険者達。中々退出しない者にはライが睨んで退出を促していた。 だだ睨んだだけで覇気のようなものが出ているようにも見える。
そして、俺とライとドバンだけが残される。
「メアリーさん、これで貴方はBランクです。何故貴女はこれほどの実力があるのですか?何のためにその力をお使いになられるのでしょうか?」
「それは俺も聞きたいな。それだけの力をどこで手に入れたんだ?」
ライとドバンに真剣な顔付きで問われたが、俺はこの世界の戦闘レベルを知らない。この三年間ひたすらに森の中の一軒家で過ごしたからだ。
「え〜と、三年間森の中で特訓して今日初めてゴールディに来たので私の実力がどれくらい凄いのか解ってないです。それと、私が冒険者になった目的は私が知らない知識を知るためです」
こう言う質問には正直に答えるに限る。それに今言ったことさ全て本当の事だし、疑われるような事は言っていないはずだ。王都に来た目的もメアリーの願いを叶える為に冒険者になりにきただけだし問題はないはず。
「どうだ、ライ。今メアリーちゃんが言ったことは本当か?」
「そうですね、今言った事は全てが本当ですね。私のスキル《虚偽の言葉》に反応がありませんので」
どうやら疑いは晴れたようだ。それとは別にライが気になる事を言っていた。
「ライさん、スキルの事聞いてもいいですか?」
「《虚偽の言葉》について知りたいと?いいでしょう。貴女は信用できる人だ。私のスキル《虚偽の言葉》は相手の嘘を見抜けるスキルなんですよ。これのお陰で色々便利がいいんですよ」
「そうだぜ、ライのスキルは貴族、王族ですら恐れているんぜ」
「ドバン、貴方は本当に嘘がつけないのですね。言わなくていい事までベラベラと…」
ライが何やら愚痴っているが、二人は知り合いのようだ。いや、知り合いと言うより腐れ縁の親友と言った方がいいのではないか?とても仲が良い。
「おい、ライ!嬢ちゃんに頼みたい事があるんじゃねーのか?」
ドバンの問いにライがハッとなる。
「そうでした!詳しいことはギルド長室で話しますので移動しましょう」
別に急いでやる事も無いのでライに付いてギルド長室に移動する。ロビーに戻って行くのかと思ったがここから直接ギルド長室に向かえるようだ。入って来た時と違う扉を通り、少し歩くと扉が見えた。
ライが扉を開くとそこは学校の校長室の様な部屋だった。
「どうぞ、お座りください。ドバンは私の横ですよ」
「別に良いじゃねーかよ。どこに座ろうがよ」
「私がメアリーさんに頼み事をする立場なんですよ!ドバンさんも関係なくは無いのでこっちに座ってください!」
「分かったよ、俺に関係する頼み事ね〜」
二人のやり取りの後、高価そうなソファーに座る。
「さて、メアリーさん。改めて自己紹介をさせていただきます。王都ゴールディ、ギルド長、ライ・ブランシュと言います」
「なら俺もだな、王都一番の鍛冶屋ドバンとは俺の事だ」
話の流れからそうだとは思っていたがライはギルド長だった様だ。ドバンもドバンで王都では有名な鍛冶屋らしい。
「それでは私も、メアリー・オルコットです。それで、私に頼みたい事は何でしょうか?」
するとライは真剣な顔付きで
「それはですね…ある貴族の屋敷に潜入捜査をしてもらいたいのです」
「貴族ですか?」
「そうです。黒い噂が絶えない貴族、アーク伯爵の屋敷に潜入して欲しいのです」
「ちょっとまてよ、アークて言うとあのアークか?」
「そうですよドバン、あのアークです」
どうやら有名な貴族の様だ。しかし話の流れから読み取れる限り、良い貴族では無い様だ。
「それで、報酬はどうなるのでしょうか?」
仕事の依頼を受ける時はまず報酬の内容を確認するのが傭兵のサガだ。報酬内容によっては仕事をキャンセルする場合もあるからだ。
「そうですね…メアリーさん。貴女は貴女が知らない知識を知りたいと仰りましたね」
「そうですね」
「なら、とっておきの情報があります。それは精霊と契約する方法です」
精霊?そんな者がいるのか?いやこの世界は俺のいた世界では無いのだからいてもおかしくはないか。俺が考えていると、メアリーが興奮した様子で
『精霊ですって!存在は確認されてたけど一部の人しか精霊の力を扱えなかったあの精霊!』
(ちょっと落ち着けよメアリー。俺も精霊がいる事に驚いてはいるがそこまで驚く事なのか?)
『驚くも驚くわよ!契約の方法は秘匿とされてたのだから、この依頼、絶対にやり遂げるわよ!』
メアリーがやる気満々だ。どうやら断ると言う選択肢は消えた様だ。
「わかりました。その依頼受けましょう。それで、潜入方法はどうするんですか?」
「ありがとうございます。潜入方法はこちらをご覧になれば分かるかと」
そう言うとライが一枚の紙を差し出してくる。そこにはこの世界の字が書かれているが読めない。
仕方がないのでメアリーに読んでもらう。
『アーク伯爵家、使用人募集、条件は女性でとびっきりの美人である事だってさ』
なるほど今の俺は確かに条件にあてハマるな。だが使用人という事は……
「ここに書かれている様にメアリーさんにはメイドになって潜入していただきます」
ライが関心をつく一言を言う。やはりメイドとして潜入する様だ。俺は全力で拒否したくなったが既に依頼を受けてしまったので後戻りは出来なかった。
「はぁ、わかりました。それで、いつから潜入するんですか?」
「早い方がいいですね…明日にでも潜入してください」
「わかりました。それで、どんな証拠を掴めばいいんですか?」
「それは、人身売買と贈賄の証拠です」
アーク伯爵はどうやら人道に反している様なクズらしい。
服装には問題があるがやるからには全力でやる。それにこういう時に新しいスキルが役に立つ。
そのスキルの名は《八方美人》。