プロローグ
「…これでよしっ、と。」
山の中、花を供え、手を合わせる人影が一つ
少年の名は清水 境哉
中学三年生、普段なら家で勉強をしているのだが、彼がこの場所にいるのにはある理由がある
「どこにいるんだよ、一稀。」
彼の幼馴染、土屋 一稀は三年前、下校途中に行方不明となった
もちろん警察は動いた、何ヶ月も捜索した、しかし手掛かりとなる物は殆ど見つからなかった
唯一見つかったのは崖の近くに落ちていた彼女の物と見られるオレンジ色の髪留めだけである
境哉は毎年ここを訪れ、彼女が好きだったダリアの花を供えていた
「…もうこんな時間か。」
辺りはもう暗くなり始めている
「来年もまた来るからな、じゃあな」
境哉は家に向かって歩きだした
、とその時、
「ドンッ!」
「…えっ、」
境哉は、頭の回転が速い
自分の現在の状況を一瞬で整理した
[誰かに押された]
[崖から落ちる]
しかし
「なっ!?」
対処する術を持ち合わせていなかった
「うわああぁぁぁ!!」
境哉は勢いよく崖から落ちていった
いつのまにか、その様子を見下ろす人影が一つ
その影は崖に向かって静かに、ただ一言、
「いらっしゃい、旅人さん」
影は宙に浮き、ゆっくりと崖の下に降りていった