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二人の初めてのデート編です。何話か続きます。
楽しんでいただけたら、嬉しいです!
___一週間後
「おはようございます!旦那様。今日はお休みなんですね。」
「ああ。……まさか忘れてたのか?来週一緒に水族館にいこうと言ったじゃないか。」
あんなに喜んでいたのに…と少し残念になる。毎日仕事を詰めて今日を休みにしたのが馬鹿みたいだ。
少し落胆したのが顔に出たのだろうか。彼女が慌てて手を振る。
「いえ!本当に行ってくれるなんて…嬉しくて。」
「…君は私を、妻との約束も守らない薄情な男だと思っているのか?…ほら、早く着替えてきなさい、澄歌。今日は、私の運転で行くから。」
「はい!急いで準備しますね。」
彼女は笑顔になると、部屋へと駆けて行った。
(全く、なんでこんなに消極的なのか……)
いや、そうではない。なんだか期待をするという事に拒否感があるみたいだ。
喜んでいる顔はとても素直なのに。
……一歩近づいてくれたと思ったら、すぐに何歩も下がってしまう。
「お待たせしました!…この服装、変じゃないですか?」
「いや、かわいいと思うよ。でも寒くないかい?」
「大丈夫です!」
彼女は、紺のスカートに白いセーター、それに、灰色のケーブルニットカーディガンを着ていた。足元が寒そうだなと思ったが、ストッキングを穿いているからそれほどでもないのだという。
「さ、乗って。そんなに遠いところじゃないけど、早く行かないと混むらしいから。」
「は、はい。」
彼女の手を引いて助手席へと連れて行く。これくらいのエスコートは最低限のマナーとして身につけているので、今更恥ずかしくなったりしない。
ただ、彼女の後ろに回った時、こういったことに慣れていないらしい彼女の顔が、赤く染まっていて……少しドキッとしてしまった。
「じゃあ、行こうか。」
「あ、屋敷の皆さんから色々もらってきました。行くまでの間に食べてくれって。」
彼女がカバンから色々なお菓子を取り出す。飴やらチョコやら……ラインナップを見るに、若いメイドたちが渡したのだろう
実際、車を発進させると、門の近くで彼女付きのメイドたちが手を振っていたり、隣の同僚と黄色い悲鳴をあげている。……これはただ単に夫婦仲が冷えないようにしているだけなのだが、何を期待しているのだろう。
「何が良いですか?そこの方にもまだ…あ。」
「何か変なものでも入っていたか?」
彼女の手がお菓子袋をさぐる音が止まる。目線を前から動かせないので、何が入っているのか分からない。
「えっと、変なものといえば変なものなんですが。その、私が昨日作った…クッキーが。」
「澄香が作った…どこが変なんだ?」
言いたくなかったのか少し黙った後、彼女は躊躇いながらも口を開いた。
「…実は私、お菓子作るのが苦手で。旦那様に食べていただこうと思って作ったんですが……やっぱり失敗しちゃったんです。もう、後でこっそり一人で片付けようと思ってたのに…!」
「いや、それがいい。」
「え、良いんですか?まっ黒こげですよ!?クッキーが良いなら市販のもありますよ。ほら!」
「いや君のがいい。」
彼女が押し黙る。渡すか、握りつぶすか逡巡しているのだろう。
「…ほんとに良いんですね?責任取りませんよ。」
「ああ。」
「はい、あーん。」
彼女がクッキーを口元に持ってくる。驚いたが、素直に口をあけると焼け焦げた何かが口の中に入れられる。…確かに苦い。
「や、やっぱり、美味しくなかったでしょう!?だからいやだったのに……。」
彼女は俺が渋い顔をしたのを見てやっぱり渡したことを後悔したらしい。若干責めるような声音になっている。
ふと、俺はちょっとした悪戯を思いついた。
クッキーの残りごと離れていく彼女の指にを、軽く噛んでみた。
「きゃっ!旦那様、なにをっ?早く離してください!」
「ああ、すまん間違えた。」
「もう!」
じゃれあいながら、車を走らせる。しばらくすると彼女が小さなあくびをした。
「すいません。少し眠っていいですか?昨日の夜あんまり眠れなくって…。」
「ああ、いいぞ。」
しばらくすると、隣からかすかな寝息が聞こえてきた。
(…ひょっとしたら、本当は昨日の夜から楽しみにしてくれていたんだろうか。)
もしそうだとしたら、とても嬉しいと素直に思った。
お読み頂きありがとうございました。
澄歌さんの服装はかわいいのか……作者にセンスがないので分かりません。…オシャレだと、信じてる!
次回から、本当にデート開始です。