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彼と彼女と花の名前5

わかりにくくなってしまい申し訳ないのですが、7月21日に投稿した話が改稿したところ、4話のほうになってしまいました(^^:

そちらをまだお読みになっていただいていない方がいらっしゃしましたら、お手数ですが、そちらから読んでいただけるとありがたいと思います。

ご面倒をおかけし、すいません!

「氷海!ちょっと手伝ってくれ!」

 あの日から二週間、久しぶりに俺の教室に樹が来た。

 あの後、琴衣は樹に直接、婚約解消を伝えに言った。樹の出生は伏せて、自分には結婚できないと。樹は最初納得しなかったようだが、本人の意思を無視することもできず、受け入れた。

 しかし、二人の間にはきまずい雰囲気が流れ、事情を知ってしまった俺もなんとなく触れがたく、自然と避けてしまっていた。

「どうした?」

「悪いが、もう一人手伝いがほしいんだ。とりあえず花壇のところに来てくれ!」

 そういって駆け出した樹の後を慌てて追いかける。樹に続いて俺も花壇にたどり着いた。

「…!これは。」

 花壇を見ると、樹が育てていた名前のわからない花が、すべて咲いていた。ふちが群青色に染められた小さな白い花が、花壇の片隅に可憐にたたずんでいる。

(昨日まではつぼみすらついていなかったのに…!)

 俺が驚いている間に、樹は急いで、しかし丁寧にその花たちを摘み始めた。

「氷海!俺が摘んだ花の茎を、傷つけないようにしっかりひもで結わってくれ!急がないと、萎れてしまうんだ!」

「あ、ああ!」

 俺は近くにあった糸をとって、彼が摘んで置いていく花の根元を次々結んだ。柔らかい茎はなかなかに結びにくかったが、根から慎重に抜いている樹のことを考えると、おざなりにはできなかった。

 花壇に咲いていた花を、すべて処理し終わったのは一時間もした後だった。その間ずっと集中していて、俺も樹も疲れてしまった。

「ああ、氷海…ありがとう。助かった。」

「いや、大したことは…。それより、なんだこの花は?」

「珍しい花でな、蕾をつけてから花がしぼむまで、3,4時間しかないんだ。しかも弱いから、適当に抜いたりそのままにしておくと、すぐしおれてしまう。…でもよかった。これを育てることが園芸部を作った一番の目的だったから。」

 そういうと、彼は優しい手つきで花を纏め始めた。

「…それをどうするんだ?」

「これを持って、もう一度琴衣にプロポーズする。」

「それは……。」

「この前全部聞いたよ。そんな馬鹿みたいな考え方をしている俺の家にも腹が立ったし、何の力も持ってない自分が悔しかった。…でもそれ以上に彼女が言ったことが悲しかった。」

「なんて?」

「『子供のころからの親愛なんかで結婚したら、後悔しますよ。』って…。」

 そう言った彼の顔は見えなかったが、呟く声はとても苦しげだった。

「違うって言いたかった。けど、『ああ、やっぱりそう思ってるんだな。』って思ったら…何も言う気がなくなった。俺は…本当に琴衣が好きなのに。だから、最初からやり直すことにした。」

 そういいつつ、樹は纏めた花を綺麗な透かし紙に包んだ。

「…元々、高校卒業前に、彼女に改めて結婚を申し込もうと思って育ててたんだ。」

「どうしてだ?婚約してるも同然だったんなら、高校卒業の後そのまま結婚するだろう。」

「ああ。でも、それは家と家の結婚だ。少なくとも、琴衣はそう思っただろう。だから、俺はその前に『俺が』本当に彼女を好きだと、伝えたかった。」

「…それで花?」

「ああ…ロマンチストだって笑うなよ。琴衣は高価なものだと受け取ってくれないし、彼女がこの花を好きなんだ。」

「そうなのか?」

「ああ、前に一緒に出掛けた時に、植物園でこの花をずっと見てた。…それで思ったんだ。自分で作って心を込めたもので、彼女に思いを伝えたいって。今まで、自分の力で何かを生み出したことがなかったから。」

「…やっぱり、ロマンチストじゃないか。」

「なっ!…いや、やっぱりそうなのかな…?」

「どちらにしろ、俺は…いいと思う。…おい、そこのリボン歪んでるぞ。ちょっと貸せ。」

「あ、ありがとう。…よしできた!じゃ、じゃあ行ってくるな!」

「おう。」

 ぎゅっと唇を引き結んでずんずんと樹は歩き始めた。手に持った花束にも力が入っている。…たどり着く前に潰れないといいが。

 そんなことを思っていると、彼がピタッと止まり、こちらに戻ってきた。

「や、やっぱり怖くなってきた。よく考えたら、俺振られてる相手にプロポーズしに行くんだよな!?…氷海、頼む!ついてきてくれ!」

「女子か!…大丈夫だから、さっさと行け!…ていうか、ふつうは保証がないまま告白するもんなんだよ!」

 樹はまだウー、と躊躇っていたが背中を(物理的に)押していくと、また自分で歩き出した。

(全く…どうして俺がこんなことを。)

 そんなことを思いながら花壇のところに戻ると……子供がうずくまっていた。

   

お読み頂きありがとうございました。

何回もうるさいですが話の園芸関係の話は、作者の妄想です!

次か、その次の話で完結したいと…思ってはいます(-_-)

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