彼と彼女と花の名前2
早速遅れ気味ですいません…!(ー ー;)
タイトルは他におもいつかなかったので、とりあえずこのままにしたいと思います。
話が中々進まず、申し訳ありませんが、お付き合い頂ければ嬉しいです。
「おー、来てくれたのか!」
「……勝手にされたとはいえ、約束を破るのは主義じゃないだけだ。」
次の日約束の場所に行くと、二人が待っていた。皇須がパッと顔を明るくする。
「でも、来てくれて嬉しいよ。ちょっと強引だったが、誘って良かった。花壇は体育館の裏なんだ。昔の園芸部が使っていたらしくてな。」
校舎から陰になっているので、全然気づかなかった。たどり着いて眺めると日当たりは良さそうだ。
「って、何もまだ植えてないのか?」
「いや、この間始めたばかりだから、まだ芽が少しさか出てないんだ。」
目を凝らしてよく見ると、確かに小さな双葉が出ている所もあった。
「何の種だ?」
「花の種。」
「…いや、だから何の花の種。」
「たくさん植えたからな…琴衣?」
「私が植えたのは覚えてるけど、樹さんのは『育つまでのお楽しみ♡』とか言ってたから知らない。」
「まあとにかく、何かの花だ!咲いたら分かる!」
…ものすごく不安だが、とりあえず毒花でないだろう。
「毎日の仕事は、基本的に朝と放課後に水をあげればいい。週に二回くらい集まって作業する。それで、育ったら食べる。」
「…何で花を食べるんだ?」
「あ、言ってなかったか。氷海君がもし入ってくれたら、芋を育ててもらおうと思ってるんだ。」
「はっ!芋⁉︎」
「秋になったら、焼き芋仕放題だぞ。けど、俺と琴衣は花と野菜の育て方しか知らない。」
「俺だって知らないぞ!」
「でも、残りはタネ芋しかないぞ。大丈夫、主な担当はってことだから。」
…まあ、芋なら育てるのが特別難しいことは無いだろう。
「というか、俺はまだ入ると決めているわけでは無いぞ。」
「分かってるよ。とりあえず今日はこっちの世話を手伝ってくれ。」
そう言うと、彼は軍手をつけて雑草をプチプチと抜き始めた。ふと見ると、叶栄も自分の花壇に向かって黙々と作業している。渋々俺も置いてあった軍手をつけてよこに並んだ。
「…それにしても、何でこんなことしてるんだ?」
「ん?何だ?」
「いや、どうして、いきなり園芸部なんて始めたのかと思って。」
「まぁ最初はただの思いつきだったんだが…ちょっとやりたいことがあってな。」
そう言いながらも、彼は目線は手元を見たまま、作業を続けている。
「それより、氷海君のことを知りたい。昨日も本を読んでいたが、好きなのか?」
「ああ…人並みには。」
「昨日読んでたのは何だ?」
「あまり有名では無いんだが…大原省夜という詩人の詩集で…。」
「大原省夜⁉︎君、彼が好きなのか⁉︎俺も好きなんだ!」
「あ、ああ。でも、実を言うと、昨日読んでいたのともう一冊読んだことがあるだけなんだ。…他の作品は見つからなくて。」
「それならうちのお爺様が持ってるぞ。…よし、今週末に遊びに来い。お爺様に貸してもらうから、読んでいけ。」
「…!いいのか?」
「もちろんだ。まさか、あの人を知ってる人がいるとは思わなかった!」
彼は嬉しそうな顔になると、矢継ぎ早に質問してきた。
「どの詩が好きだ?俺は『夕の影』なんかが好きなんだが。」
「あれは昼の名残の明るさと、近づく夜の闇の対比が素晴らしいよな。俺は、『夢十夜』みたいな幻想的なものが印象深い。」
「そうか…!」
夢中で話をしながらも、二人とも手は止めない。いつの間にか、雑草の山が二人の脇に、こんもりと積もっていた。
隣の皇須と話しながら、土の触っていると、指先に奇妙な感触のものがあたった。不思議に思い、そっと土から出してみた。すると…
「うわぁっ、ミミズか!」
「おお、引いたか。」
指先で動くミミズに、驚き遠ざけようとしている俺とは違い、皇須は顔を寄せるとひょいっと俺の手からつまみ出すあげた。
「よ、よく触れるな。」
「まぁ最初は俺も嫌だったけど、ミミズがいるのはいい土な証拠らしいし。今では、合格印をもらえたみたいで嬉しいぐらいだな。」
そういいながら、彼は土の上にミミズを戻した。そこが、今作業中のとは別の花壇だったのは、まだ慣れていない俺への気遣いだろうか。
「それにしても、君があんな驚くなんて。びっくりしたよ。」
そう言われて、先程思わず叫び声をあげてしまったのを思い出し、顔が赤くなった。
(いつもなら、こんな初対面に近い奴の前で、あんな醜態を晒すことはないのに…!)
「てっきりどんなことがあっても、『それが?』みたいな顔してると思った。」
「…それは、見苦しいところをお見せして申し訳ない。」
くすくすと笑いながら言う彼に、少しムッとして、つい皮肉気になってしまった。
「いや、ずっと澄ましてるのなんかより、俺はそういう方がずっと好きだな。」
…そう言って破顔した彼に、俺はなんだか体の力が抜けてしまった。
(…こいつには絶対に勝てないな。)
簡単に『好き』なんていう奴は、いままで嫌いだった。上っ面で言っている気がして。
けれど、彼はなんの衒いもなく、そう思ったから言った、そんな感じがした。
お読みいただきありがとうございました!
*このあとも話に出てくる栽培についてのことは、この話の中だけということでお願い致しますm(__)m