氷海さん家のお酒事情6
糖度急上昇中(当社比)です。少し長めで、書いていてなかなか恥ずかしかったです…。
先日、ブックマーク登録が300件を超えました。いつもお読み頂きありがとうございます!
今回も少しでも楽しんでいただければ幸いです!
「あ、あの…?碧人さん?」
微動だにしない彼を軽くゆする。しかし、まったく反応がない。
(寝ちゃっ、た…?そ、それとも…怒ってる!?)
「お、起きてください!やっぱり、嫌でしたか!?」
不安になり、さっきよりも少し強めに揺さぶる。すると、かすかに彼が身動ぎした。
「ん…?」
「ああ、良かった!…申し訳ありません。あんなことしなければよかった。そうすれば、楽しんでいただけてたのに…!」
「……?いいや、きみの甘い唇から流れてきたものは……どんな甘露よりも、美味で芳醇だったよ。愛しい人。」
……一瞬、時間が止まった。程よく回っていた酔いが、瞬く間に消え去っていく。
「……え?」
今、普段の彼からはありえないような言葉が聞こえた気がする。
「碧人さん…ですよね?」
「当たり前だろう。君の夫は私以外にいるのか…?」
といいつつも、どんどん近づいてくる彼は、いつもとは別人のようだ。とりあえず冷静になろうと少し離れると、すかさず距離を詰めてきて、そのしなやかな腕に、強く抱きしめられる。
「どうして離れていくんだ?」
「えっと…その…!」
「私は君と、一瞬たりとも離れていたくないのに……。」
(…ほ、本当に、誰……!)
酒のせいか、少しかすれた低い声で彼が私の耳元にそっと囁いた。その吐息が耳に当たる感触と、艶めいた声に、顔が一瞬で真っ赤になる。酔いが戻ってきたかのように、頭がくらくらする。
いつもは、こんなこと絶対にない。確かに普段から彼は格好いい人だが、それは誠実さとか、真面目さによるものが多い。
……つまり、まちがっても、こんなに倒れそうな色気を出す人ではなかった。
いつもと様子が少し違うだけなのに…それをすこし、怖いと思ってしまっている自分がいる。
(それにしても、さっきまで全然酔ってなかったようでだったのに…!)
「澄歌。」
「は、はい…っん!」
優しく呼びかけられて、つい顔ををあげると、彼が唇を重ねてきた。
「お返し。…ん、仕返しか?…まあいいか。」
そういうと、また彼は顔を近づけてくる。急展開に、脳みそがついていけない。
「やっぱり君の唇は何よりも甘いな…。」
(…!も、もうだめ!)
部屋に漂うアルコールの香りと、なによりもこの艶めいた空気に堪えられなくなり、ソファから立ち上がる。酩酊気分など、とうの昔にどこかへと吹き飛んだ。
「…澄歌?どこへ?」
ドアへと近づいていく私に、彼が不思議そうに尋ねてきた。
「あ、あの!お水をお持ちしますね!よく考えたら、この部屋に置いておくのを忘れていました。台所からとってきますので、少々お待ちを……。」
「いかないでくれ。」
気が付くと、すぐ後ろに彼が立っていた。開けようとしていたドアノブを、私の手ごと留められる。
「もう、どこにも行かないでくれ。君がいないこの家なんて、私には考えられないんだ。」
(碧人さん…もしかして、この前のこと?…あれは、私が悪かったのに…。)
背後から、ぎゅっと抱き込まれる。…その温かさは、いつもと変わらない。
「…愛してる。」
…切なそうにつぶやかれた言葉に、胸の中で、何かがストンっと落ちた。
(ああ…馬鹿でした、私。)
自分で始めたことなのに、彼の様子がいつもと違うことに怖がってしまった。
…でも、やっぱり碧人さんは私に優しくて、私はそんな彼が大好きなのだ。
私の体の前で組まれた彼の腕に、そっと手をのせる。小さな声で呟く。
「…すみません。私、ダメな奥さんで。こんなこともすぐに気づけない。」
「…?なにかいったか?」
「いえ。…本当に、お水を取ってくるだけです。すぐ戻ってまいりますから、そしたらまた飲みましょう?」
「そうだな。」
後ろから聞こえてくる優しい声に、一歩踏み出す。手を重ねていた彼の腕を、きゅっとつかむ。
「わたしも、その…も、もっとあなたと…い、いちゃいちゃ…したいので…。」
言ってから恥ずかしくなり、私は慌ててドアを開けて台所へと駆け出した。
お読み頂きありがとうございました!
おそらくR15指定にはならないと思うのですが…一応確認して、タグに追加するかもしれません。
これはダメだろうと思われましたら、ご連絡ください。
次の話は、そこまで甘くない(予定)です。