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氷海さん家のお酒事情5

更新が遅れて申し訳ありません。少し長めです。

先日ブックマーク登録が二百件をこえ、嬉しいを通り越して、本当に夢なのではないかと思っています。いつもお読み頂きありがとうございます!

なかなかうまくかけず、唸っていたのですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 次の日、私はお屋敷の皆さんに『碧人さんはお酒を飲むのか』と訊いて回った。

 しかし、ほとんどの人が『ときおり外では飲まれていたようだが、家で飲んでいた事はあまりなかった。』と答え、断定することはできなかった。

 唯一、料理人の飯島さんは、碧人さんが葡萄酒をキッチンに取りに来たことがあると言っていたが、とても楽しみにするような様子ではなかったという。

(…わからないなぁ。)

 なかなかはっきりとしないことに、うーんと唸ってしまう。 ……本当は別に、気にする必要はないのかも知れない。調べずとも、彼の方から言ってくる可能性もある。

 けれど、私は自分で彼のことを知っていきたいのだ。

 それは、この前のすれ違いの時の哀しみがまだ恐ろしいからかもしれない。もう二度と、あんな風に傷つけあったりしたくない。

(それに……やっぱり、碧人さんのこと、好き、だから…。)

 大したことでなくても、一歩ずつ知りたい、近づきたい。

「やっぱり、あの方たちに聞くのが一番の近道だよね……。お忙しいから、ご迷惑になるかなと思ったんだけど

…。」

 若干躊躇ったが、意を決して、私は電話をかけることにした。

               *

「お久しぶりです、澄歌さん。」

「こちらこそ、その節は大変お世話になりました。……電話で済むところを来ていただいて。お忙しいのに申し訳ありません…。」

 数日後、私が屋敷に招いたのは、碧人さんの高校時代の後輩で、私も面識のある琴衣さんだった。

「いえ、いいんですよ。私も最近澄歌さんとお会いできなくて、残念に思っていましたので。それよりも……。」

「やあ、澄歌さん!お久しぶりですね。」

「っ樹さま!?」


 私は驚いて、つい叫んでしまった。

 彼女の後ろから、ひょいっと顔をのぞかせたのは、彼女の夫で碧人さんの親友(というと、彼は怒る)の皇須 樹さまだった。

……彼は皇須グループの会長として、碧人さん以上に忙しい生活を送っているはずなのだが、こんな平日の昼間から休んでいて大丈夫なのかと、少し心配になる。

「本当にすいません。本当なら私だけがお休みの予定だったのですが、この人まで休暇を取って、いてきてしまって…。」

「いえいえ!お客様は大歓迎ですわ!どうぞ、お入りください!」

 頭をさげようとする琴衣さんを慌てて止めて、私は二人を応接室へと招いた。

             *

「…なるほど、そういうことでしたか。」

 これまでのいきさつを軽く話したのを聞いて、琴衣さんはほうっと息をついた。

「お二人ならお詳しいかと思いまして……。ぜひ教えていただきたいのです!」

「それは…。」

「ああ、知っているとも!なんたって親友だからな!」

 言いづらそうな琴衣さんとは打って変わって、樹さまが得意げに断言した。

「でも、どうして今更?……もしかして、家で飲んだりしてないのか?」

 若干躊躇った後、こくんとうなづく。

「…だめですよね。こんなことすら知らないなんて。」

 私は、彼について知らないことばかりだ。『妻』なんて、おこがましいような気さえしてくる。

「遠慮されたりしてたなら…悔しいんです。いつもお忙しくて、家でくらい思うままに過ごしてほしいのに…。」

 膝の上でぎゅっと手を握りしめる。二人がこちらを見つめているのがわかる。

「…まったく、あいつは……。」

「澄歌さん、そんなに思いつめなくても、そんなに大した理由ではないと思いますよ。」

 かわるがわる声をかけられるが、小さな声ではい、と返すことしかできない。

「それで、どうなんでしょうか!?」

「えっと……。」

「ああ、あいつは酒を飲むのがすきだぞ!」

「…!そうですか。」

(…やはり。)

「樹さん!?」

「それに、誰かと飲むのも好きでな。普段と違って、酔って甘えてきたりするのに弱いんだ。かわいいらしくてな。」

「何言ってるんですか!…澄歌さん、こんなのきかなくていいですからね!

 琴衣さんが、あわてて止めてくるが、私はそれよりも樹さまが言っていたことが頭を離れなくなっていた。

「…酔って甘える……可愛い…。」

 可愛い、ということは女性の人と一緒にのんだのだろうか。

(…なんかもやっとする。なんだろう?)

「あの…私、お酒を飲んだことがないのでよくわからないのですが、例えば、どんな風にすると喜ぶのでしょうか?」

「そうだな……積極的になってみたりとか…。」

「…樹さん、いいかげんにしなさい!これ以上何か言うつもりなら…こちらも考えますよ?」

 琴衣さんに睨まれて、樹さまが黙る。…いったい何を考えるのだろう。

「…わかりました、今日お誘いしたいと思います!」

「そうか!よし、うちのほうから何か持ってこさせよう。」

「ありがとうございます!」

「澄歌さん!?」

 驚いて立ち上がった琴衣さんを、樹さまが壁際へと連れて行って小さな声で話し出した。

「…琴衣、考えてみろ。あんなことでけんかしているなんてかわいそうだと思わないか?…」

「…それはそうですけど。…」

「…ならいいだろう?…」

 琴衣さんが小さくため息をついてこちらへ戻ってきた。

「仕方ないですね…これ以上は押し付けになってしまいますから。」

「ありがとうございます!」

                    *

 その夜、私は彼らからもらったもののうち、一本を持って夕飯に向かった。唐突すぎないように、理由も考えた。

(ドキドキする……。)

 なり続ける鼓動を無視して、平然としているように話しかける。

「碧人さんは、あまりお酒を飲まれませんが…その、お嫌いなのですか?」


 



 

 


お読み頂きありがとうございました!どんどん伸びていてすいません。

次回から現在に戻りたいと思います。



*呼び方ですが、澄歌→碧人さん、琴衣さん、樹さま  碧人→澄歌、琴衣、樹

        琴衣→氷海さん、澄香さん、樹さん  樹→碧人、澄歌さん、琴衣

        といった感じです。

 ちなみに、澄歌さんが「樹さま」なのは、夫の友人というだけぐらいの関係性だから。琴衣さんが「樹さん」なのは、一つ年下だから。

 呼び方は一応、全員変えてあります。(……主に、自分の混乱防止です。)

       

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