氷海さん家のお酒事情1
大変お待たせしましたm(_ _)m
番外編投稿し始めたいと思います。
と言っても亀更新なので、これからもお待たせしてしまうと思われます。申し訳ありません‼︎
この話は三話ぐらいで終わると思います。…ええ、続きます。少し長めです。
ゆっくりですが、楽しんでいただければ幸いです。
おまけ 氷海家のお酒事情(和解後、一か月ぐらい)
「碧人さんは、あまりお酒を飲まれませんが…その、お嫌いなのですか?」
ある晩、夕食を食べながら妻が訊いてきた。…ついに、きかれたか。
「いや。そんなに強くはないけれど、人並みには飲めると思う。……それがどうかしたのか?」
「……実は、お中元で日本酒が届いたんです。」
そう言って澄歌が出してきたのはある地方の地元酒だった。
「飲まれているのを見たことがなかったので、お嫌いなら、他の方にお譲りしようと思って。……でも、大丈夫なんですね?」
「あ、ああ。」
「それなら……わたし、あんまりお酒を飲んだことがないので、飲んでみたいと思って。碧人さんも一緒に飲んでくださいますか?」
澄歌はおずおずと、けれど期待の目でこちらを見てくる。
(……あれはそんなに多くなさそうだし、彼女と分けるなら…。)
「分かった。飲みなれてないなら、休みの日の方がいいな。今度の土曜日の夜にのもう飲もうか。」
「はい。」
彼女が嬉しそうに笑った。自分も笑い返すが、心のなかは冷や汗をかいている。
(…大丈夫だ。注意していれば、アレは出てこないはずだ…。)
___しかし、現実とは得てして、予想を裏切るものである。
*
そして約束の日、俺は夕方まで猛スピードで仕事を片付け、それでも残ったものは、部下達に押し付けて早々に帰宅した。後ろからは、部下の恨み言が追いかけてきたが無視する。
「あ、おかえりなさい!碧人さん!」
ドアを開けると澄歌がかけよってきて、ギュッと抱きついてきた。
「ただいま。…もう準備できてるのかい?」
彼女はエプロンをしていたので、そう思い尋ねる。
「いえ、これは夕ごはんを作っていたので…。もう少ししたらできますから、ちょっと早いですけど食べちゃいましょう!」
そう言うと、澄歌は食卓に俺を引っ張っていった。席に着いて、料理を作る彼女の後ろ姿を見る。
(…そういえば、あまりこんな風に過ごしたことがないな。)
いつもは、準備を完全に終えてから彼女か、使用人が呼びに来るので、なんだか新鮮だ。
(今度から、少し手伝ってみようか。)
料理人もいるし、手が足りないことはないだろうと安直に考えていたが、こういう時間を一緒にいるのも楽しいかもしれない。
「お待たせしました!どうぞ、碧人さん。」
「…?この前の酒がないみたいだが?」
それに、並べられた料理は、彩りも良く美味しそうだが、酒に合うようには見えない。
「あれは食事の後に、ゆっくり二人で飲みたいなと思って。かなり良いものみたいでしたし。」
「そうか。」
「もしかして、もう飲みたかったですか?すいません、何か他のワインでも…。」
「いや、良いよ。」
必要以上に飲むのは危険だ。いただきます、と言って食べ始める。
「そういえば。」
「はい。」
「今度から、こんな風に時間が空いたら、料理を作るのを手伝おうか?」
…何気なく言ったことだったが、それを聞いた澄歌の顔が固まった。
「…碧人さん、最後にお料理作られたのは、いつごろですか?」
「確か、高校の調理実習の時かな。それからは料理人に任せっきりだ。」
「何を作りました?」
「親子丼だ。ただ、卵を焼くつもりだったのに、同じ班だった樹に止められてな。何もしなかった気がする。」
「熱しろと言われたから器に入れて、レンジにかけようとしただけなのにな。」
「あの…親子丼の卵はそれだとできないと思います…。」
「あと、米は洗えと言われたから、水が濁らなくなるまで洗ったな。近くにそれ用らしい洗剤があったから、それも使った。」
「……。」
「どの班よりも輝いたごはんだったのに、樹は変な顔してたな。やり方がわからないから他の班員にも訊いたが、誰も知らなくて…何か少し違ったのか。」
「…碧人さん、分かりました。大丈夫です。なので、絶ッ対キッチンに入ってこないでくださいませ。」
厳しい目をして言う彼女に、嫌な予感がして恐る恐る尋ねる。
「……もしかして、俺は料理が下手なのか?」
「……。」
……沈黙が何よりの答えだった。
*
お風呂に入って寝る準備をしてから、ゆっくり飲もうということになり、お酒を用意した彼女の部屋に行ったのは、夜の8時頃だった。
「澄歌、いるかい?」
ドアをノックするが、返事がない。
「澄歌?」
「うわぁぁ!ちょっと待って下さい!」
ドアを開けようとすると、廊下の向こうから彼女が慌てて走ってきた。湯上がりなので、髪が少し濡れて、頬も赤くなっている。
「なんだ?」
「いえ、ちょっと…。とりあえず、入って下さい。」
彼女の後ろに付いて部屋にはいる。
「実は…とある方から、碧人さんはお酒がお好きなのに、私に遠慮してあまり家で飲まないようにしていると伺いまして…。」
…なんだか、本日二度目の嫌な予感がする。
「申し訳なくて、今日ぐらいは思う存分楽しんでもらおうと思ったので…。」
妻の部屋は安全を考えて、ドアを部屋の中にも置いている。それを彼女は開けた。
「じゃん!お屋敷のみなさん達に頼んで、出来るだけ集めていただきました!」
_____そう言った彼女の後ろのテーブルには、この前の日本酒だけでなく、ワインや焼酎、ビールは瓶と缶どちらもある。高そうなものだけではなく、チューハイや発泡酒など、そこらへんのコンビニでも売っていそうなものも…とにかく、ありとあらゆる『酒』が並んでいた。
「どうですか⁉︎」
そういう彼女の顔は、とっておきの宝物を見せる子どものような笑顔だった。
「う、嬉しいよ…。」
(……とある方、覚えておけよ…!)
お読みいただきありがとうございました!
お酒の話ですが、甘い話にしたいです。
ちなみに調理実習の時のごはんは、あの後樹さんが他の班から少しずつもらって集めました。
そして澄歌さんは、それらを全部琴衣さんから聞いてます。