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いつもお読みいただきありがとうございます。
本日、三話目の投稿です。少し長めです。
今まで溜めた分を、早く更新しようと思います。
のこり少ないですが、お付き合いいただければ幸いです。
「おい、ここ間違っているぞ。早急に直せ。それからこっちも変更が出た。先方に確認してから訂正しておけ。」
「はい!」
走り回っている部下達の机の上から、処理済みの書類を取り、目を通す。同時に他の部署へとまわす書類を分類していく。
「…やっぱり、あの人鬼だな。こなしてる量も、こっちにまわしてくる仕事も半端ないよ。…奥様への甘い顔はやっぱり夢なのか…。」
「いや、これもきっと社長が俺達に課した試練なんだ!社長!俺はいつまでもあなたについて行きます!」
「そこ!喋る余裕があるなら、これを総務に持っていけ!そして五分以内に帰って来い!」
「は、はい!」
「うおう、忙しそうだなあ。あんなに部下に冷たくしていると、嫌われてしまうぞ?」
_____本当に、どうしてこういう時にばかり現れるのか。
「…この年末に、これぐらい忙しいのは毎年の事だ。それより…そんな状況で他の会社に遊びに行く社長は嫌われないのか?樹?」
「ああ!うちの社員たちは慣れっこだからな!」
「慣れっこなのか…。」
俺は書類から目を離さずに受け答えをする。そんな俺を尻目に、来客用のソファで樹は茶を飲み始めた。周りの部下達から、八つ当たり混じりの殺気が飛ぶが、意にも解さない。
「おい、今すぐ帰れ。琴衣が怒り狂っている様子が目に浮かぶ。」
「ふん!かまってくれないのは琴衣の方だもん!」
いつも思う事だが、三十路の男がすねている姿なんて一ミクロンも同情を呼び起こされない。全く、まじめにやれば優秀なのに、無駄なやつだ。
だが、他の場所ならともかく、この忙しい時に目の前でくつろぐ様子を見せられるのは本当に腹がたつ。
「さっさと帰らないと、今すぐある事ないこと彼女に告げるぞ。」
「なっ!?お前、この前来宮の情報渡してやったろうが!少しの時間ぐらい匿ってくれよ。」
「生憎だが、彼女からも情報をもらったんでな。うちの会社の士気の為にも、速やかに回収してもらおう。」
書類を置いて、携帯を取り出す。しかし、私用電話の方の充電が切れてしまっていた。
ピルル、ピルル
「はい、もしもし…琴衣か!?久しぶりに声を聞いたな!えっ?今朝話したばかりだって?いやいや、俺にとっては十分に懐かしいよ、マイハ二―!愛してる!」
「おい、人の会社で何いちゃいちゃしてんだ?部下達のやる気をこれ以上減らすな。」
(おそらく一方的な)惚気会話を聞いた部下(特に独り身の奴)たちの顔から、生気が抜けていく。
俺自身、会社にひたすら泊まり込みで、澄歌の顔を見ていない。そろそろ臨月なので、家を出ることもなく、差し入れなどで会う事も出来ていない。
なので、他の奴のイチャついてる様子など、気持ちを荒ませていくだけである。
「え…ホントか?そうか!わかった、伝えておくな。じゃああとで、愛しい人!」
「おい、何しに来たんだ?」
ニコニコと電話を切った樹に、冷たい眼差しを向ける。しかし樹には全く効かない。
「そんなこと言っていいのかなあ〜。」
「なにがだ。」
言い方がむかつく。さっさと言ってくれ。
「今、琴衣から電話があったんだけどぉ〜。」
「知ってる!というかその話し方やめろ!…で、なんだ?」
「澄歌さん、陣痛が始まったって。」
時間が一瞬止まった。いや、自分の思考回路が固まったのだ。
「っ早く言え!というか、なんでその情報が琴衣とお前に先に来る!?」
「お前の携帯に通じないから、直接言ってくれって。」
しまった、こんな大事な時に携帯が使えないなんて!
(……それにしても、こいつがここにいるのは決定なんだな…。)
そこに、山程の書類を各部署に渡してきて、へろへろの部下が帰ってきた。
「社長~届けてきました。」
「よし、いいところに帰って来た。この仕事は片づけた。残りの分は、社長補佐の権限の中で可能な限り片付けておいてくれ。」
「ええ、分かりましたけど…社長はどうなされたんですか?」
「家に帰る。」
「分かりまし…ええっ!そんな!この状況で社長がいなくなってしまったら、どうしようもないじゃないですか!」
「妻が出産なんだ!……若木、お前を信じているぞ。お前なら必ず、俺の代わりを遂行できる。…じゃっ。」
「社長…!って、絆されませんよ!待ってぇ!」
後ろから追いかけてくる部下の声を無視して、最低限の荷物だけを持つ。会社を飛び出して、車に飛び乗る。
(家まで飛ばして三十分。澄歌、今すぐ帰るからな…!)
お読みいただきありがとうございました。
碧人さんは結構部下の方達から、慕われています。
最近あまりクールでないですがね……。