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いつもより、少し長めです。
今のところ保存できたのがここまでなので、少し時間空きますm(_ _)m
楽しんでいただければ、嬉しいです。
庭を出ても、二人は手をつないだままだった。しかし碧人さんも私も、何も言わない。
「…全く、君は優しいな。あんな父親でもまた会いに来たいのか。」
彼が、ぽつりと言う。こちらを振り返らないので、どんな顔をしているのか分からない。
「たしかに、駄目な父ですが…優しかった記憶もあるんです。」
幼い頃、本当に父は優しかったのだ。ちょっと抜けていて、でも温かい手でいつも抱き上げてくれた。
「そんなもので許せるから言ってるんだ…俺なんかまだ怒りが収まらない。」
そう言うと、彼は振り向いて、強く私を抱きしめた。
「…でも、そんな君だから俺なんかも好きになってくれたんだろうな。」
…その温かいぬくもりに、今日だけで、もう何回包まれただろう。その度に、幸せな気持ちが体中を駆け巡る。
彼の元から逃げた私なんかが…とも思ってしまうが、迎えに来てくれたことが何よりも嬉しく、やっぱり彼が好きだと、実感する。
「…いままで、たくさん傷つけてごめん。ずっとほったらかしにしたり、冷たい態度だったり最低だったと思う。これからもたくさん悲しませたり、うまくいかなくなったりするかもしれない。でも…」
彼は、少し辛そうにそこまで言うと、ことばを切って、私から離れた。真っ直ぐに私を見つめる。
「君が好きだ。だから、ずっと、一緒にいてくれ。」
…思いがけず、目から涙がぽろぽろこぼれた。それを見た彼が今まで見た事ないくらいあわてる。
「ま、まさか。嫌なのか?」
「え!?ち、違います!これはその、なぜか出てしまって!」
必死に袖口で目元をぬぐおうとする。その手を碧人さんが取って、私と同じ目線の高さでこちらをじっと見つめてきた。
「答えてくれ。…君も私の事が好きだろう?」
自分勝手なのに、すごく不安そうな彼の顔を見ているうちに…吹き出してしまった。彼がさらに困惑する。
「な、なぜ笑う?」
「そんな顔しなくても。…私も同じ気持ちですよ。」
「…え。」
いつの間にか、また涙がこぼれていた。けれど今度はにっこりと笑う。
「私もあなたが好きです、碧人さん。」
…彼の顔が真っ赤になった。いつもはこちらが赤くなる事ばかりなのに、なんだか新鮮だ。
碧人さんが顔を赤くしたままうつむく。そのまま、ポケットを探りながらボソボソと喋りはじめた。
「…その、いまさらなんだけれども。」
「はい。」
「こういったものを女性は喜ぶんだろう?…そういえば、まだだったと思って。」
彼はそう言って、わたしの手にポケットから出した小さな箱を置いた。
(何だろう…?)
不思議に思って、開けてみる。そこにあったのは…
「碧人さん…これ。」
「結婚式で用意したのは、親が用意したものだったし。…最初からちゃんとやり直そうと思って。」
そこには、細い銀の環に小さなピンクの宝石を上品にあしらった指輪が入っていた。隣には少し大きい指輪がある。石の色は青に変わっているものの、全く同じデザインだ。
「来宮澄歌さん、私と結婚して下さい。」
彼の長い指が、わたしの薬指にその指輪をはめる。ついでのように手の甲に口づけられて、顔がほてる。
「…⁉︎」
「そうそう、その顔が見たかった。」
にやけながら彼が嬉しそうにそんな事を言う。
余裕のある彼の様子が悔しくって、胸をぼかすか叩く。
すると片腕に抱きこまれ、もう片方の手で顎を掬われた。
「返事は?」
完全にさっきまでのうろたえていた様子が消え、意地悪そうな色が顔に浮かんでいた。
まさかこれが素なのだろうか。…今までの優しい彼はどこに。
「はい…。」
「聞こえないな。」
「はい!私もあなたと結婚したいです!」
言った瞬間、唇をふさがれた。長く長く呼吸を絡ませる。
「はあっ…」
「…ありがとう。」
彼に強く抱きしめられる。ちらりと見えた横顔に浮かんでいたのは、今まで見た事ない程…柔らかい笑みだった。
「さあ、帰ろう…俺達の家に。」
お読みいただきありがとうございました!
これで、一応ひと段落です。(話は続きます。)
残りは、澄歌さんの生い立ち?と後日譚になると思われます。
しばしの間、お付き合いくださいませ。