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いつもお読み頂きありがとうございます!
今回の話は、一番書きたかったシーンがあります。
読んで頂いた方にも、少しでも面白いと思っていただければ嬉しいです。
ある日、父がニコニコと笑いながら部屋に来た。
「澄歌、今日は庭に出てみないか。流石に部屋にずっといるのは良くない。」
「お父様。」
入って来た父は、いつもとは違い、男性を紹介してくることはなかった。
(…もしかしたら、諦めたのかもしれない。)
安堵した私は、素直に父の誘いを受けた。
「分かりました。着替えてきますね。」
「おお!すぐに使用人を呼んでこよう!」
「いえ、大丈夫です…」
遠慮する私のことを聞かず、父は、嬉しそうに部屋を飛び出して行った。
「……まあ、いいか。お父様とこうして過ごすのも最後だし。」
昨日の夜、私はあの人に会いに行くことを決心していた。
もしかしたら、ただ冷たく拒絶されるだけかもしれない。けれどきっちりとけじめをつけないと、彼の為にもわたしの為にもならない。……そう思った。
着替えて外に出ると、もう肌寒くなっていた。思えば、二週間近く外に出ていなかったのだ。そのことに、彼と会わなかった日々の長さを感じる。
庭の入口につくと、父がスーツを着て待っていた。……何かがおかしい。
湧き上がる不安を抑えて、父の後をついて行く。だが、良く考えると自分に着せられた服も、ただ庭を散歩する為だけにしては上等すぎる。
(まさか…?)
「すみません遅れて。澄歌、ご挨拶なさい。」
たどり着いた庭の喫茶スペース___そこには、スーツを着た若い男性と、その父親らしい人がいた。
驚いて、父を睨みつける。掴もうとした手は振り払われた。
「お父様!これはどういうことですか!?」
「静かにしろ!…すみません、もう少しお待ちいただけますか?」
そういうと父は手を掴んで、二人から見えないところまで私を引っ張って行った。あわてて手を振りほどく。やはり、油断してはいけなかった。
「……どういうことですか?私は結婚しているし、どなたとも会う気はないと申し上げたはずです。」
「だから、頼み込んであちらから来て頂いたんじゃないか!どうだろう?彼は評判もいいし、きっと幸せにしてくれるぞ。」
「っそういう事を言っているんじゃないんです!」
「うるさい!おまえは、私が言う通りの男と結婚していればいいんだ!ずっと言ってきただろう!」
そうだ、わたしは父親のその理不尽な言い分を、ずっと信じていた。彼と仲良くなれたのはそのお陰だと思っていた。
……けれど今、私はそれを受け入れることはできない。
負けるものかと歯を食いしばる私に、父は冷たい一言を投げつけた。
「それに、あちらは離婚届を渡して来たぞ。」
「…え。」
「だから、お前はもう氷海澄歌ではない。この家の、来宮澄歌に戻ったんだ。」
(…ウソ。)
「っ嘘です!碧人さんがそんなこと……」
覚悟はしているつもりだった。けれど、実際にそうなると、耐えられない程傷ついた。こぼれそうな雫を必死に我慢する。
「心当たりがないとでもいうのか?…もういいだろう。そんなに傷ついて、やはり二人の結婚は失敗だったんだ。」
「…そんなことないです!私は幸せだった!それを、私が壊してしまっただけ!間違いだったなんて言わないでください!!」
「おまえの『夫』は、これから彼になるんだ!前の男なんて忘れろ!」
___もし、違う男が『旦那様』になったら、すぐにその相手を愛せるのか!?
彼に突き付けられた質問が頭の中を流れた。あの時、自分は何と答えた?
「……いや。」
「なんだと?」
「いやです。できません。」
「澄香っ!」
父が掴みかかってくる。強い力で掴まれた腕の痛みに顔がゆがむが、全力で振り払う。
「他の人を愛することなんて、できない!私の旦那さまは…愛しいひとは!氷海碧人さんだけです!例え離婚されたって、もう会えなくたって、それ以外の人なんて、私は『旦那さま』とは絶対に呼べません。…呼びたくありません!!」
父を睨みつけて叫ぶ。もしかしたら泣いているかもしれない。でも、目をそらしたら、何かに負ける気がした。
「もういい!おまえの意思なんて関係ない!」
父が私の肩を掴んで、もう片方の手を振りかぶった。なぐられることを覚悟して、目をギュッと閉じる。
「そこまでです、来宮さん。」
聞こえた声に、胸が跳ねる。目をうっすらとあけると___彼が、碧人さんがいた。
お読み頂きありがとうございました!
結構話も進んできたので、完結は35~40話ぐらいになりそうです。