PAGE.1
一話に引き続き読んでくださった方、ありがとうございますm(_ _)m
樹達に、招待状を渡した次の日曜日、都内の一流ホテルで彼女との顔合わせが行われた。
さて、始めてみた彼女の印象はというと…
「は、はじめまして!来宮澄歌と申しなす。…いえ、申します。ほ、本日はお日柄もよく…」
「はじめまして。氷海碧人と申します。澄歌さん?…失礼ですがそれは仲人の方の挨拶では?」
「は、はい!すいません!!」
(…ずいぶんあがっているな。)
釣書によると幼稚園・小学校ともに女子校で、中学からは学校すら行かずに女性の家庭教師を雇っていたという。そのせいで男性に免疫がまったくないらしい。全く、現代では珍しいほどの箱入り娘だ。
(まあ、それぐらいの方が面倒が少なくていい。)
妻に求めるものは貞淑さと最低限の品格、そして後ろ盾だけである。問題を引き起こさなければそれでいい。
彼女が恥ずかしがって俯いているのをいいことに、少々不躾ながら顔をさりげなく、しかししっかりと眺める。
肩に付くくらいの黒髪は艶やかで、軽くウェーブがかかっている。おそらく元々がくせっ毛なのだろう。目は大きくぱっちりとしていて、口元は今はきゅっと引き結ばれているが、きれいな形をしていた。 全体的にほっそりとした印象だが、折れそうというほどではなくスッとした印象を与える。
(…こんな美人なら引く手あまただろうに。まだ結婚を急ぐ年齢でもないし、彼女の親はどうして今見合いをさせようとしているのだろう。)
娘とは対照的に、顔も体も丸い父親はなぜかニコニコしている。俺が彼女を気に言ったと思っているのだろうか?自分が言えた義理ではないが、まるで商品を売るような目が気に食わない。
「澄歌さん」
「は、はい!」
彼女が顔を上げる。はじめてしっかりと目が合った。できるだけ柔らかい口調で話しかける。
「このような場で言うのは失礼ですが、澄歌さんには恋人などいらっしゃらないのですが?」
「ふえっ!?い、いえ。いませんが…どうしてですか?」
「いえ、あなたほど美しい方がお見合いをされるなんてと不思議に思いまして。澄歌さんなら周りにいくらでもお相手がいらっしゃるでしょうに」
「碧人さん!失礼ですよ!」
仲人の叔母が目くじらを立てた。しかし彼女の父はにこにこした顔のままである。
「いえいえ、この子は人と交友関係を結ぶのが苦手な様でして、そう言ったお人どころか友人もあまりおらんのです。小さい頃から屋敷で過ごすごとが多かったからかもしれませんなぁ」
彼女が顔を真っ赤にして返事が出来ないので、父親がフォローしてくるが、そういう事を尋ねてはいない。
少しすると彼女は落ち着いたようで、顔はまだ火照っているものの話しかけてきた。
「えっと、氷海さま」
「碧人で良いですよ」
「では、碧人さま。その…お庭に行きませんか。ここの庭園はとても美しいと評判なんだそうです。是非見てみたくて…」
「おお!そうすると良い。すいません氷海さん、付きあってやってくだいますかな」
「…ええ、喜んで」
(これはいわゆる“あとは若いお二人で“というやつかな。)
実際、期待するようにあちらの父親とこちらの叔母はニコニコとこちらをみている。
「澄歌さん、手をどうぞ」
恐る恐る差し出された彼女の手を取って、立ち上がらせる。
やさしく触れた白い手は……とても熱く、柔らかく感じた。
碧人さんがクールじゃないとか言わないでください……私も、ちょっとそう思います。