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いつもお読みいただきありがとうございます。
物語も山場に入ってきていて、もう少しだけ続く予定です。まだひと波乱?あるのですが…。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
「まあ、旦那様、どうされたんですか?そんなにお急ぎで。」
家に着くと、使用人達が慌てて駆け寄って来た。いつになく息を荒くしている主人の姿に、動揺が隠せないようだ。
「用事が済んだので帰って来たんだ。何日も家を空けてすまなかったな。…それよりも、澄歌は、どうした?」
いつもは玄関を開けた瞬間に駆けてくる姿が見えない。流石に、気まずさがあるのかとも思い、奥の方の部屋をのぞくが、そこにも姿が見えない。
俺が尋ねたのを聞いて、使用人達にざわめきが走った。
「え。……旦那さまも了承されていたのではないのですか?」
使用人頭の顔が青ざめ、声が動揺で震えていた。何が言いたいのか分からず、怪訝な顔になる。
「何の話だ?この数日の間、彼女に関して何の連絡もないぞ。…友人の所にでも行ったのか?」
俺が言ったことに、さらに顔を青くする使用人頭。一瞬ためらいを見せた後、ぽつりと言った。
「いえ、旦那さまが出て行かれた次の日に…お父様が来られたんです。」
「父上が?」
「…いえ。澄歌様の、お父様です。」
部屋に沈黙が落ちた。
彼女の父、来宮卓は結婚してからも、娘を訪ねるという名目でしばしばうちに来ては、彼女を叱責していた。その姿は使用人達も目にしており、主の妻として、彼女への敬愛の念が深まるにつれて、そういった態度に憤りを覚えている者も増えていた。
「…それで?」
「奥様は、あれからずっと落ち込んでいられて。そこに来宮様が、旦那様に一旦家に戻った方がいいと言われたと、澄歌様を連れていかれたんです。…澄歌様はとても憔悴してらしたので、ご実家で落ち着かれた方がいいと私達も思って…まさか嘘だったなんて!本当に申し訳ございません!」
「いや、そうか…。」
使用人達は来宮氏が私の要請できたという事で安心していたのだろう。だがそれが、彼の独断だったと知って、不安に駆られているようだった。
彼女がいつも座っていた椅子に近づく。今そこにはいない姿を思い出しながら、椅子の渕をなでる。
(やはり、もっとすぐに帰ってくるべきだった…。)
今更、自分自身に深い憤りお覚えたが、もう変えられない。それでも、後悔は止むことがなかった。
彼女は、彼らに分かるほど傷ついていたのにほっといてしまった。しかも、実家に帰ってしまうなんて。
果たして、父親について行っただけなのか、彼女自身もそれを望んだのかは分からない。
…しかし、それほど彼女が追いつめられてしまったのは確かだ。
(いや、決めたはずだ。もう一度彼女とやり直すと。)
傷つけていたのなら、謝る。もう会いたくないというのなら、別れよう。
…だが、手を伸ばすこと、それ自体をあきらめてはいけない。
「彼女は私の妻だ。必ず帰ってくる。…だから、待っていてくれ。」
(彼はおそらく娘のために来たのではない。さて…彼が『駒』を取り戻したら、次にすることといえば…)
俺は、一刻も早く妻を取り戻すために頭を働かせながら、携帯を取り出した。
「ああ、私だ。少し頼みたい事がある……琴衣。」
お読みいただきありがとうございました!
次回は、澄歌さんの視点の話になると思います。