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本日、都合により一話だけの投稿になってしまいました。申し訳ありません!
碧人さんと部下の人の交流?となっております。
二人の関係の進展ではないのですが、楽しんでいただければ幸いです。
澄歌と行き違いが発生したあの日以来、家へ帰るのが嫌で、仕事を理由に会社に泊まりこんでいた。流石に部下が苦言を呈してくる。
「社長、いい加減お休みになってください。もう三日も働きづめですよ。とりあえずのめどはついたので、もう大丈夫ですから。」
「そうだったか…?」
「大体、家に帰らなくていいんですか?奥様、心配なさってると思いますよ。こんなに長く帰らないって言ってないんでしょう?」
「…。」
確かに、帰れないという事を毎日人づてに伝えているだけで、いつ頃に帰るかを彼女には伝えていなかった。……しかい、澄歌から、この数日連絡が来ることはなかった。
(まぁ、当然だな。)
あの時は、怒りが先に来てしまって、彼女を責めてしまったが、冷静になると元々そう言った夫婦関係だったのだ。あんなことを言うのは、今までの自分たちの関係からしたらおかしなことだろう。
自分が、勝手に彼女を好きになって、自分を好いてくれていると思って、期待してしまっていただけ…それだけだ。
「…今、妻に会いたくないんだ。」
会ってしまうと、またこじれさせてしまう気がする。理性で理解していても、また感情的になって彼女を傷つけてしまう。…それだけは駄目だ。
「喧嘩でもしたんですか?」
部下が気遣わしげに、尋ねてきた。
「いや、ただ責めてしまったんだ、彼女は悪くないのに。」
やはり、参っていたのだろう。ぽつぽつと、部下にこの前あった事を話してしまった。今まではこんなことありえなかった。
「悪い、こんなことを言われても困るよな。……私情を職場に持ち込んでしまってすまなかった。忘れてくれ。」
いつもは、毅然と接している部下に対して弱音を吐いてしまったことに動揺す、慌てて取り消そうとするが、意外にも部下は真剣に相談に乗ってくれた。
「…社長、差し出がましいとは思いますが、考えるのが辛いからといって逃げていても、どうにもなりませんよ。社長はいつも即断即行が信条でしょう?奥様に対してもすぐに行動すべきです。」
力強い声に励まされる。……こいつのことはもちろん信頼していたが、こんなに腹を割って話すことは今までなかった。
「大丈夫ですよ!奥様が社長の事を愛していなくても、これから頑張ればいいだけじゃないですか!」
「おまえ、何気に失礼なこと言ってるぞ?給料カットしてやろうか。」
(だが、全くその通りだ…。)
すれ違っていたのなら、最初からやり直そう。はじめてほしい女ができたのだ。……絶対にあきらめることなどできない。
「ありがとう、若木。…しかし、駄目なところを見せてしまって少し恥ずかしいな。」
苦笑しながら言うと、部下は整理していた書類を机に置くと、こちらを向いて軽く笑った。
「社長、私たちは本当はこんな風に、ずっと頼っていただきたいと思っていたのですよ?貴方は一人で抱え込みすぎる。」
「そうなのか?」
「…まぁ、さすがに、ここまで私事な相談が最初とは思いませんでしたが…とても嬉しいです。」
「……。」
「最近、あなたは俺達の前でも気を緩めて下さいます。前は、社員の前では決して迷わず、臆さず、立派な社長だった。だけど直属の部下の俺達としては、一人で抱え込むのではなく、もっと自分達に頼ってほしいと思っていました。」
確かに、今まで一人で決めて行く事が多かった。それは人の上に立つ者として、弱いところを見せては不安を感じさせてしまうと思っていたからだが、彼らには別の意味で不満を感じさせていたのか。
「だから奥様の前でも強がらずに、ちゃんと言いたいことを言って、二人で解決しようとすればいいんですよ。そうしたら、ぜったいうまくいきます。」
「…そうだな。」
「ささ、早くお帰りください!それで仲直りして、何日か休んで、私達が……あなたが選ばれた部下がどれほど優秀か実感すればいいんですよ!」
「…本当にありがとう。」
半ば無理やり部下に部屋を追い出されてしまった私は、自分の車に向かって走り出した。
(彼女に『自分』を見てくれといいながら、私が壁を作っていた。…今度こそ間違えない。)
謝って、話して、もう一度やり直してみよう。いや、やり直して見せる。
……だれよりも、彼女が好きだから。
お読みいただきありがとうございました。