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もしかしたら、この話が一番書きにくかったかも知れません。
ここから、少し深刻な感じです。澄歌さんの方の気持ちや事情も少しずつ明かしていきたいと思います。
その日、いつもより早めに仕事が片付いた俺は、家に直帰することにした。
普段から、あまり寄り道をして帰る事はなかったので、珍しい事ではない
いつも通り、家のドアを開ける。しかし、澄歌がいつものようにかけよってこなかった。代わりに奥の部屋の方から女性達の楽しそうな話声が聞こえる。
(そうか、今日は友人達を招く日だったか。)
楽しそうに話している彼女達に気を使わせないように、静かに家に入る。途中で使用人ともすれ違うが、静かにしてくれと示すと、黙って仕事に戻って行った。
「…まったく、夫の仕事好きにも困ったものですわ!」
部屋の前を通りかかると、澄歌の友人の一人の声が聞こえた。どうやらそれぞれの旦那についての話をしているらしい。
(澄歌は私の事をどう思っているのだろう?)
一度思うと、気になって仕方がなくなってしまい、駄目だとは分かっているのだが、我慢できずドアの隙間から彼女らの会話を少し聞くことにした。
「いくらお忙しいからって、家に一カ月で一週間しか帰らないなんて!いくら仮眠を取られてるとおっしゃっても、体が心配ですわ。...それに、全然会えないから、さびしくって。」
ため息をつきながら言う彼女の夫は、確か工業開発会社の開発責任者で、最近新技術の実験や手続きなどで火のついたような忙しさだったはずだ。
うちは医療系なので、そこまで関わりはなかったが、皇須の会社はつながりがあるので、その余波であの樹まで仕事漬けになったという。
「確かに、旦那様が仕事ばかりですと心配ですよね。...うちは逆に、全然働かずに私に絡みついてくるのでそれが嫌ですね。」
そう言ったのは、皇須グループ取締役(実質社長)の皇須琴衣だった。やはり樹の愛の重さは、愚痴らずにはいられない程らしい。
「ええー。でもそっちの方がいいですよー。うちなんか、最近会話もなくて。家にいても気付かないぐらいなんですよ!」
「ああ、それ私も似たようなところあるかも。夫が仕事と子供しか目に入ってみたいで。」
やはり全員、夫に対して色々思うところはあるらしい。琴衣の友人だけあって、上品で仲の良い、オシドリ夫婦たちばかりなのだが、やはり何も不満や軋轢がないわけではないのだろう。
「澄歌さんはどう思われますか?」
「えっ?」
いきなり話を振られて、澄歌がびくっと震える。
「だから旦那についてよ。」
「たしか結婚して一年くらいですよね?うわぁ、まだ新婚さんかあ〜。うらやましいわぁ。」
「…えっと、その。私は旦那様についてそんなに不満だと思ったことはないです…。いつもお優しくて…かっこ良くて。悪いところなんて思いつきません。」
顔を少し赤らめて、はにかみながら彼女が言った。ふわっと笑う顔が、可愛くてたまらない。
今更過ぎるが、さすがにもう、立ち聞きしているのが心苦しくなってきた。それに、彼女を早く抱きしめたい。
意を決して、ドアをノックしようとした。その時、
「ほんとにもう、可愛いわねぇ。でも、少しぐらいは旦那様にこうして欲しいとか思った方がいいわよ。自分に不満がたまって、相手と知らないうちに心が離れちゃったり、嫌いになってしまっていたら、悲しいでしょ?」
「いえ。」
彼女は笑って言った。。
「『妻』は『夫』を愛することが役目でしょう?だったら、私が『旦那さま』を嫌いになる事なんてありえません。私が『旦那さま』の『妻』である限り。」
____一瞬、時間が止まったような気がした。彼女の無邪気な声が、頭の中に響く。素直に聞けば、まさに、良妻の鏡のようなセリフだ。しかしこれは、
バタンッ
「だ、旦那さま!?すいません、お迎えせず!」
澄歌が慌てて立ち上がって、こちらに駆け寄ってくる。
「…旦那さま?」
「…か。」
「なんですか?」
「今言ったのは、どういう意味だ…!?」
お読みいただきありがとうございました。
ここまでだと、いまいち、なんぞや?という感じなので、三話目になりますが、もう一話投稿したいと思います。