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PAGE.13

重要なシーンほど、うまく書けないような気がします。

まだまだ拙い文章ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

詰め寄ってくる樹に対して、なぜか逃げ腰になってしまう。

「…別に、夫婦仲をある程度保つために行っただけだ。俺がどう思ったかなんて関係ない。妻も喜んでいたから、それだけは良かったが。」

 渋々答える。樹にどんどん押されていく。こんなの初めてだ。

 樹はちっ!と舌打ちすると、樹が来てから後ろで所在なさげに立っていた部下を振り返った。

「君、いままでのこいつの様子とか、今の話聞いて奥さん仲悪いように思う?」

 突然話を振られた部下はびくっとすると、たどたどしく答え始めた。

「…えっと、その、いつものお弁当とか、今のお話とか…私はとても仲がよろしいと思います!」

 その返事を聞いて、樹は自信満々にこちらを見た。

「ほらな!周りからはちゃんと円満夫婦に見えているんだよ!…少なくとも、お前は奥さんの事を愛しているだろう?」

「……は?」

 今、こいつはとんでもない事を言った気がする。おれが…?

 あまりのことに言葉を失う俺に気付かず、樹は呑気に肩を叩いてきた。

「いや、もう照れ隠しに『嫌いではない』なんていわなくていいからさ。」

「そうですよ!奥さんに言うのは恥ずかしいのかもしれませんが、いない所ならそれぐらい言ったっていいと思います!」

 部下がいつも通りの元気に戻っている。…いや、そんなことよりも、俺が妻を愛している…?

「…そんなわけあるか。俺がそんな、誰かを好きになるなんてありえない。」

 かたい俺の声に、流石に樹もただの照れ隠しではないと気付いたのか顔を引き攣らせる。

「…おい、まさか本気で好きじゃないと思ってたのか?」

「俺は、お前とは違う。…妻とは別に好き合って結婚した訳じゃない。」

 舶用に居た俺に、樹がふーん、と、冷たく相槌を打つ。

「じゃあ、なんで結婚したんだ。ちなみに会社の利益とかそういう答えはなしだぞ。何で彼女がいいと思った?」

「……来宮の父親の、澄歌に対する態度に苛立ったからだ。」

「じゃあ、それよりも一番苛立った事とかあるか?」

「…彼女が、無防備に水族館で男達に絡まれた時だっ!何か文句でもあるのか!?」

 意味の分からない質問をするこいつが一番腹が立つ。噛みついてきた俺に、樹がため息をついた。

「これで自覚がなかったなんて信じられん。碧人、お前…馬鹿だな。」

「はぁ!?」

「…いいか?お前は、澄歌さんの事が、好きなんだ。」

 樹が、一言一言区切るように告げる。それが、頭にしみ込むのと同時に、深く納得した。

(そうか…そういうことか。)

 彼女が父親に冷たく扱われていることに腹が立ったのも、気遣われて抱きしめたくなったのも、喜んでくれた事がとても嬉しかったのも、彼女が愛しかったからなのか。

「で、彼女をどう思ってるって?」

 確信しきった顔で、樹が尋ねてくる。業腹だが、素直に認める

「ああ、私は…彼女が大切だ。」

 口に出すと、顔が勝手に赤らんでいった。いつも、なぜ澄歌があんなに顔を赤くするのか不思議だったが、今なら納得できる。

 樹が机にダンっと手をついた。

「もう、奥さんを愛してなんかないなんて言うな……誰も愛せないなんて、絶対言うな!お前がそれを言うたび、ほんとはすごい腹が立った!!」

「…すまん。」

 樹が顔をしかめながら言うのに、苦笑してしまった。こいつが殊更眩しく思えるのはこういう時だ。

「あのーすいません。今までのお話を聞いていると、もしかして社長、奥様に『愛してる』とか、言ってないのですか?」

 部下が恐る恐るといった風に、話に入って来た。樹が頷く。

「確かにそうだな。…よし、今からすぐ電話しろ!愛してると言え!」

 樹が目を輝かせて、詰め寄ってくる。こういうところは変わらずうざったい。

「いや、あちらはどうなのか分からんのに、愛を押し付けるのは傲慢じゃないか?」

「俺はいつも琴衣にやっていたぞ。恋人になる前も、もちろん今もだ!」

 俺とは正反対の意味で、面倒くさいこいつの愛を受け止めてきた彼女は、ほんとに苦労した事だろう。

「愛していない奴から、無理やり思いをぶつけられるのは嫌だろう。」

「…は?」

「だから、澄歌は私を好きだとは限らないのだから…。」

 部屋に沈黙が落ちた。二人がこちらに背中を向けてひそひそし始める。…部下が既に樹に馴染んでいる。

「…おい、まさかとは思ったけど、相手の気持ちにも気付いてないみたいだぞ。どうすんだこれ。」

「…社長は女性とのお付き合いは、スマートな肩でしたので、まさかここまでとは思ってもなかったです。」

 樹だけでなく、部下までもが深くため息をついた。今度減給してやろうか。

 ひそひそしていない話を終えた二人がこちらを振り返り、詰め寄って来た。

「とにかくだ!少なくとも話を聞いている限り、嫌われている事は絶対にない!…むしろ、愛情を示さなくて嫌われる方があり得る。」

「そうです、女性は甘い言葉が好きなんですから。今までの方だってそうだったでしょう。」

 二人からよってたかって注意される。もう上下関係なんてどこか遠くへ行ってしまったようで、部下と樹は俺の鈍さを話の種にして、どんどん盛り上がってしまっている。

「…あ、そろそろ流石に、琴衣の怒りが取り返しつかなくなりそうだ。」

「そういえばお前、今日は何のために来たんだ?」

「それだが、琴衣が今度お前の奥さんと、ゆっくり話してみたいと言っていた。日時を考えてみてくれ。」

「…それだけか?」

「それだけだ!じゃあな!ちゃんと言うんだぞ!」

 そう言って、樹はものすごいスピードで帰って行った。…電話で五分で済むことを、仕事をさぼって伝えに行く社長(兼夫)を持った琴衣が、本当にかわいそうだ。

 ふと気付くと、樹が来襲してから小一時間が経っていた。…本当に、嵐みたいなやつだ。

「俺も、もうそろそろ帰ろうと思う。」

「あ、奥さんに言うんですね!頑張ってください!前はもっと砂糖吐きそうこと、さらっと言えていたんだから大丈夫ですよ。じゃあ、お疲れさまでした!」

「…お前今度のボーナス覚えとけよ。」

 社長への遠慮なんて全くなくなったらしい部下に、捨て台詞を吐きながらも帰りの準備を手早く済ませて、急いで家に帰った。

(いまなら、素直に言いたい事を言える気がする。)

「澄歌っ!」

「あ、おかえりなさい旦那さま。どうかされましたか?」

 出迎えてくれた彼女は、明るい色のワンピースに白いエプロンをつけていて絵にかいたような『新婚のお嫁さん』で……自分の気持ちを認識したばかりの俺には、少々眩しすぎる。

(いつも、こんな恰好だっただろうが!何を今更ドキドキしてるんだ!?)

「旦那さま?」

 …結局いつもどおり「ただいま。」といってしまい、勢いで『愛してる』と言おうとする気持ちは…見事にくじかれてしまった。


お読み頂きありがとうございました。

次あたりから、澄歌さんの方に行きたいと思います。

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