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もう少しデート続きます。
話の展開はゆっくりですが、楽しんでいただけますように……。
「あははっ!楽しかったですね!」
「それは良かった。」
水でびしょびしょになってしまった俺たちだが、彼女は途中から逆に楽しくなってしまったらしく、かかるたびにきゃあっと可愛い声をあげていた。
売店でタオルを一枚買い、髪などを軽く拭う。気休め程度でしかないが、何もしないで館内に戻るよりましだろう。
「さて、順路を行くか。」
「はい!次は何の水槽ですかね?」
そこからは何の変哲もない水槽が並んでいるだけだったが、彼女はそれで十分らしく、興味深げに覗いていた。
しゃべりながら何個か通り過ぎ、次のものに移動しようとした時、
どんっ!
「きゃっ!」
「どうした?…って子どもか。」
彼女は足元に蹲っていた子どもに気づかず、ぶつかってしまったらしい。
「ごめんなさい!ぼくどうしたの?」
子どもが顔を上げる。四歳くらいの男の子で、泣き出しそうな顔をしている。
「おとうとのてをはなしちゃって…あわててもどってきたらおかーさんもどっか…ふぇっぇっ。」
予想通り泣き出してしまった。どうやら弟と一緒に回っていたらはぐれてしまい、それを探していたら母親とも会えなくなってしまったというところだろう。
「旦那様どうしましょう?迷子センターに連れていくべきでしょうか。」
彼女が、困ったようにこちらを振り返る。するとさっきまでぐずっていた子どもが顔をあげて首を振った。
「や、やだ!おとうとをみつけなくちゃ!それにぼくがおにいちゃんなんだから、まいごせんたーなんてはずかしくていけない!」
「そうはいっても、迷子センターに行くのが一番早く会えると思うぞ。」
「やだったらやだ!おじさんのばーか!!」
子どもは俺を敵と認識したのか、彼女にがしっとつかまってこちらを睨んできた。頑固なお子様だ。
梃子でも動かなそうなその子の様子と、それに絆されたのか何か言いたそうな妻の顔を見てため息をついた。
「わかった、とりあえず私一人で行ってくる。母親が来たらこちらに連絡をもらえるよう頼んでみよう。…できるかは知らんが。澄歌、すまんが一緒にいてやってくれ。」
「分かりました。…じゃあ坊や、お姉さんと一緒に弟君探そうか。そうだ!お名前はなんていうの?」
「ぼくは、こうた。おとうとは、さいきだよ。」
「こうた君かぁー。じゃあ、こうた君はどこらへんでさいき君と離れちゃったの?」
「あっちだと思う。」
こうたは、順路の方を指示した。
「じゃあ旦那様、私たちあちらを探していますね。行こうか、こうた君。」
「ああ、任せた。」
お読み頂きありがとうございました!