砂漠の彼方に
少年は歩いていた。
一歩、また一歩と足を踏み出すたびに容赦なく体力が奪われていく。あと数歩先で出口が見えるかもしれないという期待が、少年を歩かせる唯一の力の源となっていた。
大地は荒涼たる砂漠である。
少年は、なぜ自分がこんな所にいなくてはならないのか分からなかった。それどころか、自分の存在自体さえ疑い始めていた。
熱風が砂塵を舞い上げて吹いてくる。
少年の喉は渇いていた。水が欲しかった。金銀の貨幣の山も、重く冷たい銃も、他の物は何もいらなかった。
ただ、ただ、水だけが欲しかった。
一度欲しいと思ったら、大概の物は手に入れてきた。それを得るためにはいかなる苦痛にも打ち勝ってきたし、友人を犠牲にすることさえ顧みなかった。
(強盗や殺人をした訳ではあるまい。そうだ。誰が何と言おうと、オレは悪ではないのだ)
少年は笑みを浮かべた。真昼の砂漠には不釣合いなほど、冷たい笑みだった。
不意に立ち止まり、少年は瞳を凝らした。その黒ずんだ瞳には、いつもの自信に満ちあふれた光が戻り始めていた。
「オアシスだ! オアシスが見える!」
残る力を振り絞り、砂に足をとられながら駆けていった。
走って、走って、走った。
少年は200メートルほど走ったが、急に勢いを失い、膝を突いた。
オアシスは消えていた。いや、最初からそこにオアシスなどなかったのだ。
あるのは、灼熱の太陽と褐色の砂。
「こんな、こんなことって……誰もオレを助けてくれないのかよぉ……」
信じたくはなかった。しかし、心の裏側では認めていたことだった。
少年はゆっくりと倒れていった。まるで、切り倒された枯木のように……。
目の前に野原が広がっている。草花や蝶と戯れるように、長い黒髪の少女が踊っている。動きに合わせてふわりふわりと揺れるその髪は、さながら妖精の羽のようだ。
「フフフ……」
既視感を覚えたが、少女の名前を思い出すことはできない。
少女は、くるりとこちらを向いて言った。
「ね、一緒にワルツを踊ろうよ」
「え……あ……」
少年は失われた日々の記憶をいつの間にか呼び起こしていた。
ワルツ。少女と学園祭で手をつないで踊ったあの曲。
まだ純粋な心を持っていたあの日。
戻りたかった。いや、今なら戻れそうな気がした。
「うん」
少年は無邪気に答えていた。
手を取り合い、リズムに乗って軽やかに踊り出す二人。
「二人で踊ると楽しいね」
「そうだな……ハハハ」
幸せな時間が流れる。
やがて二人は疲れて、草むらの上に倒れた。
そよ風が頬を撫でていく。暖かな陽射し。空を仰げば、綿菓子のような雲がゆっくりと流れていく。
少年は、次第に自分の心が洗い清められていくように感じた。
(今、オレには何の力もないけど……)
隣を振り向くと、少女は小声で歌を口ずさんでいた。
微笑みながら言葉をかけようとする。
「……!」
少女の姿は急速に薄れていき、幻のように消えていった。
草花や蝶、野原全体が消えていった。
砂塵を舞い上げながら吹いてきた熱風に、少年は目を閉じた。
争いをやめてください
争いが生み出すのは、消えない炎と止まない雨ばかり
怒りに、悲しみに、耐えて下さい
怒りは、汚れた鋼鉄で
悲しみは、ガラスの破片で
自分とみんなを傷つけるだけ
森も、海や空も
何も語ろうとはしないけど
あなたは気付いているはずだから
失われていく森の
汚されていく海や空の
力になってあげてください
あなたにはそれができるはずだから
心の中の壁を突き抜けたとき
あなたは歩き出すでしょう
あなたの夢とともに
少年は目を開けた。
そこには褐色の砂が広がっていた。
「蜃気楼……いや、夢だったんだろうか?」
少年はゆっくりと立ち上がる。
「でも……もう一度……」
渇いたのどを潤され、力を取り戻したかのように、少年は再び歩き出す。
彼方にある、確実に存在するものを目指して。
「……彼女に会うために」
繰り返しますが、筆者が高校時代に書いたつまらない小説です(恥)
現在に至るまで、あまり上達していない(むしろ退化?)です。
終盤のポエムは環境問題の啓発っぽい感じになっていますが、「いじめイクナイ! やめようね」というメッセージを込めていたような気が・・・うん、誰も分からないね。
お目汚し、大変失礼致しました。