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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

輪の大陸にある《4の国》

《4の国》の宝物を失ったお坊ちゃんのお話と

エイプリルフールという事で。

近くて遠い4つの世界のお話


世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水

天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し

波紋は大地となった


波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて

それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している


これはそんな世界の《4の国》の話





欲と機械の国、科学が発達した国

仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない、危うい国



早朝、女は眠そうに鞄から部屋のカギを取り出し、ぐるりと開けた。



玄関には男物の革靴と、女物の赤いヒール。もちろん、女の物ではない。赤いヒールなんてベタだな……なんて考えながら靴を脱ぎスリッパをはいて上がり込む。廊下の先は大きなワンルームとロフト、なぜかガラス張りの風呂とトイレ。部屋を広々と見せるためによく考えているわねと、苦笑いをする間取り。



クイーンサイズのベッドには2つの膨らみ。毛布をずらしてのぞき込むとお坊ちゃんと、もう1人。そのもう1人は侵入者に気付き、きゃあと寝起きの癖に可愛らしい悲鳴をあげる。お坊ちゃんも、のぞき込む女に気付き長いまつげをふるふる震わせ、目を開ける。



「あら、セフレが増えたの?」

「うん」


お坊ちゃんは寝ぼけ眼であっさりと肯定する


「ごめんなさいね、起こして。これから朝食作るから、明かりをつけてもいいかしら?」


セフレちゃんは、意味が解らず動きを停止していたが、やっと理解できたのかお坊ちゃんを引っぱたき、散らばった服を身に着けて帰って行った、もちろん赤いヒールをカツカツならしながら。


「いって~」

「なに、セフレだって言っていなかったの?」


カバンからエプロンを取り出し、素早く身につけながらお坊ちゃんに問う。


「……言っていない。けどカノジョが居てもいいんです、とか言っていたくせにさ」

「それは、寝取りたかったって事でしょう。自信満々な彼女の味はどうだったの?」

「あぁ、まぁ、上手かったんじゃないかな」



そう、と言って女は少し笑った。






家政婦はお坊ちゃんの『カノジョ(仮)』という事になっている。完全に虫除けなのだが、いまいち効果が薄い状態。


家政婦は数年前の雨の日にお坊ちゃんに、《1の国》と呼ばれる神の国との国境近くの自然公園で拾われた。その自然公園はとにかく広く、多様な植物がみられることで有名で、学生の校外学習の場として使われていた。


国境のがけの下で彼女は倒れていた。お坊ちゃんはもしかしたら、話に聞く《1の国》の石の一族かもしれないと思いつく。思わぬ宝物を拾ったと、なんとかしてそのまま家に持ち帰りたかった。


なので、ぼんやりしている女をぼんやりしているうちに家に持って帰ってきてしまった。


お坊ちゃんは、両親から拾ったところに捨ててきなさいと怒られたが、記憶喪失という事で身元が分からず、せめて記憶が戻るまで家政婦として雇うと言い出してきかなかった。その為、なし崩し的に同居……という事に。



持ち主が現れなければ自分の物になるかもしれない。お坊ちゃんは、ちょっと人とは違った思考の持ち主だったのだ。



当初、家政婦として雇った割には、日常生活の事は何もできない女だった。どこのお嬢様なんだと呆れて、まずは実家でお手伝いさんとして教育した。呑み込みがいいのか、空っぽすぎたのか、どんどん知識を吸収しあっという間に仕事ができるようになった。


お坊ちゃんは大学に進学するにあたって、一人暮らしを始め、その家政婦として通って来るのだった。さすがに住み込みは両親が大反対をしてできなかった代わりに、平日早朝にやってきて朝食を作り、掃除をして、夕飯を作って帰っていく家政婦。


レンジでチンする夕食は嫌だとお坊ちゃんは言うと、夕食を食べて後かたずけをするまではいるようになったのだが。なんと坊ちゃんは夜遅く帰れば、夜遅くまで家政婦がいると考えつき、遅くに帰宅したのだが。置手紙を残して、あっさり帰ってしまった家政婦。


温めなくても食べられるサンドイッチと、冷製スープを残して…………冬に。さすがに反省したお坊ちゃんだった。




大学では甘いマスクのお坊ちゃんは大層モテた。ちなみに高校でもモテていたのだが、さすがに高校時代はおとなしく遊んでいた。大学へ進学し、両親の監視が外れた結果、そこそこ派手に女遊びを始めたのは、まだ若いからという事を踏まえ、一応容認されていたのだが。


遊んだ女から妊娠したと告げられ責任問題となった時、両親は狂喜乱舞した。お坊ちゃんの子種は弱く、子は授からないと言われていたのだ。その話を聞いた遊んだ女は逃げた。真っ赤なウソだったから。お坊ちゃんの両親はその女を追い詰め、社会的に『さようなら』させてしまった。


「避妊はしたほうがいいですよ?」

「しているよ、生でヤるなんて気持ち悪いし……」


そんな風に家政婦に言われるとお坊ちゃんはぼやいていた。やはりお坊ちゃんは、ちょっと人とは違った思考の持ち主だったのだ。







消化にいいように、柔らかく炊いたお粥。鶏肉と溶き卵に浅葱の刻んだものをちらして。2人でふうふうと息を吹きかけながら向かい合って食事をする。今の彼らの関係はなんといえばよいのだろうか?当の本人である2人にもわからない。


ずっとこんな生活がつづくのだろうか……。


もちろん続く訳がなかった。






女が鏡を見ている。


じっと鏡の中の自分を睨んで百面相、何がしたいのかお坊ちゃんにはわからなかったが。


また鏡をのぞき込む女。


「なにしてんの?」

「目が……ね、ちょっと」

「なに、視力が落ちたの?」

「いいえ、それは平気」


ではなにが平気ではないのだろう?


お坊ちゃんは、家政婦に顔を近づけ瞳をのぞき込む。特に変わったことはない、濃い茶色に見えるがじつはオレンジという不思議な色合い。吸い込まれるように、ついキスをしてしまった。


初めは軽く、そして深く。舌を入れても、全然答えてくれない。不思議色の瞳で不思議そうにお坊ちゃんを見つめていた。




何がいけなかったのだろうか、お坊ちゃんはそう思う。


拾った物を警察に届けなかったこと?他国の人間を囲った事?……大切だと告げなかった事?





鏡をのぞき込んでいた理由が、徐々にお坊ちゃんにも解ってきた。女の瞳の色が変化しているのだ、オレンジ色の瞳が……。何か良くない病気だと大変だからと、大きな病院で診てもらった結果……


おとぎ話では正体がばれたら、居なくなってしまうってお約束。






《1の国》は神の国、月を司る12人の在人神、それぞれの月の象徴する石の色の瞳をもつ。その石の守護石色の瞳を持つ従者とともに、世界の時を回す役目を担う国。


その男は彼女と少し違う色合いのオレンジ色の瞳で守護石と名乗り、行方不明で探していたと家政婦を柔らかく抱きしめる。家政婦は大きく目を見開くと


「あ……わ、た、し、の……従者?」

「はい、お探ししました。無事でなにより……」

「あぁ、わたしは……、なんて罪深い……」


男は家政婦の目蓋に、唇にキスを落とす。そのまま唇を開き舌を絡めあう深いキス。自分がしてもまるで反応しなかったのに、お坊ちゃんは見たくもないのに目が離せなかった。






石姫は子供の頃は守護石と同じ色の瞳なのだが、代替わりが近づくに連れ、それぞれの月の象徴する石の色へと変化していくそうだ。今はすっかり別の色へと変化した瞳を向けて、今までありがとうと言って《1の国》へと帰ってしまった。


宝物は呆気なく手から滑り落ち、お坊ちゃんは1人残された。






近くて遠い4つの世界のお話


世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水

天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し

波紋は大地となった


波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて

それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している


これはそんな世界の《1の国》の話





神の国、月を司る12人の在人神、それぞれの月の象徴する石の色の瞳をもつ

その石の守護石色の瞳を持つ従者とともに、世界の時を回す役目を担う国


それは突然の凶事だった。八月姫が不慮の事故でお隠れになった。お勤めを終えて九月中旬、己の村へと帰還途中にがけ崩れにあってしまったのだった。多くのお付の者と共に。運よく、いや彼の事を考えれば運悪く生き残ってしまった八月姫の従者は、亡骸を村に届けてから自ら後を追うために命を絶った。


それとほぼ同日、次代の八月姫が失踪した。


事故でかろうじて助かった者の中には、次代の従者もいた。先代がお隠れになった為に、当代となる従者は急いで自分の姫の元へ戻ろうと、ボロボロな体を引きずって村にたどり着くと……姫はいなかったのだ。


まだ子供の彼女がそう遠くに行けるはずもなく、総出でくまなく探した。他の石の一族へも連絡し、捜索隊を組んだのだが、行方はようとしてわからなかった。最悪当代が命を失っていれば、さらに次の姫が瞳の色を変え初めるはずなのに、それもない。


生きている、どこかで……その思いだけで従者は姫を探す。それが思いもよらないほど、長い年月になるとは思わずに。



そろそろ七月が終わる。《時の椅子》の間には八月姫以外の姫と従者、それぞれの一族の長老が揃う。八月姫の行方はいまだ知れず。


「……わたくしがそのまま八月をまわしましょう。同じ夏の姫、多少時が荒れるやもしれませぬが……空席よりはましでしょう」


七月姫はそう語る、しかし七月姫の従者は言う。


「私の姫、さらにひと月のお勤めなど、御身がもちません。どうかご自愛ください……」

「いやね、わたくしの従者。確かに最年長の姫ですが、夏の姫は暑さに強いのですから平気ですよ」


すでに見かけは初老へと入っている七月姫。姫の在任期間は一定ではなく、次代の姫の瞳が月を象徴する色へと変わった時に引退となる。やっと次代の七月姫が育ち引退となったのに、まだお勤めを続行しなくてはいけないことに、従者は戸惑っていた。


「では私九月が時をまわしましょう。冷夏となってしまいますが……、やむを得ません」


他の姫達との協議の結果、七月姫と九月姫が半分ずつ受け持つこととなった。しかし、誰も口にはしないが来年はどうなるのか、八月姫の行方は、守護女神様は何故お言葉をかけてくれないのか……。





八月姫の捜索は数年かかった。


やっと見つけた姫はなんと《4の国》にいた。記憶喪失で保護されていたところ、血液検査と螺旋検査で分かったそうだ……()()ではないことを。どうしてそこにいたのかは本人も記憶があいまいで、国を越えたところで姫としての意識は途切れているとの事。瞳は月を象徴する色へと染まりきり、これで正しく時を回すことが出来ると安堵した石の一族達。




しかし、八月姫の村が1番《4の国》に近いとはいえ、何故そこまで足を延ばし記憶を失ったのか、原因不明のままの為石達は一抹の不安を拭いされなかった。現に迎えに行った従者は、国を越えたからと言って記憶を失ったりしなかったのだから。




もしかしたら、《1の国》が変化していく始まりなのかもしれないと……。

軽い異種婚姻奇譚(結婚していないけど)モノと思わせて、実は世界の成り立ちに重大な変化をもたらすかも知れないお話でした。急にサイバーな世界になった《1の国》や急に砂漠になった《1の国》も面白い……かもしれないですね(ニヤリ)。ファンタジーではおこがましいかと思い、文学にしておきました……文学?かなぁと言う気もしますが。


瞳の色はカーネリアン色という事で、色々な色味のなかオレンジと表記しました。赤でもよかったのですが日本っぽい国で赤は目立つだろうという事で、茶色のようなオレンジにしました。それが黄緑っぽくなってきたらさぞや驚くでしょう。


読んでくださって、ありがとうございました。

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