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夢見ちゃいなよ、斎藤くん

作者: 鈴木真心

斎藤くんは目を覚ました。

(たぶん)

きょろきょろと辺りを見回す斎藤くんはそれは可愛らしく、そう、それはさながら子犬のような仕草だ。

(当社比)



「当社比って何だ!」



突っ込まれた。

(突っ込み担当か)

これは参った、非常事態だ。

(たぶん)

まさか斎藤くんにこの僕が見えるとは……



「マイク入ってんだよ!まる聞こえなんだよ!一人二役やってんじゃねえよ!」

「おっとうっかり」

「モノローグは心ん中で言えよ!てか何だよここは!」



斎藤くんはご立腹な様子だ。

(短気だろうか)



「だからマイク入ってんの!」

「胸元に付いてるんです」

「どこが胸元なんだよ!」

「鳩胸でして」

「どう見たって鳩じゃねえだろうが!」

「ナレーションは必要かと」

「いらねえよ!てか意味わかんねえ!」

「可愛い顔してますね」

「はあ!?」



間近で見た斎藤くんは、それはそれは可愛らしい。

当社比ではなく、それは真実だと思う。

真実とはまた、おかしなものだねマイハニー。



「……何、マイハニーて」

「斎藤くんのことをここでは指してますが」

「きもっ」

「きもくないです」

「てか何なの!?ここ何なの!?」

「おっと、そうきますか」

「さっきから聞いてんの!」



そうだったろうか。

斎藤くんの可愛らしさにかまけて、よく聞いていなかった。

(これはいけない)



「だからマイク……もういいや。で、ここ何?あんた何?」

「何とは失礼な。わかるでしょう」

「わかるかよ!」



斎藤くんは右も左もわからない様子。

(おばかだろうか)

この世界は、斎藤くんの全てなのに。



「全て?は?」

「全てです」

「だから俺の名前知ってるって?」

「察しがいいですねマイハニー」

「マイハニーはやめろ」

「そうは言われましても」



で、ここはどこかって?



「夢の中でございますれば」

「……」



おーっと!

斎藤くん、遂にマットに沈んだ──っ!

カウント!

ワン、ツー、



「……やっぱ、バク?」

「大当たりー」



まさかの復活劇!

これは劇的展開になってきましたね。

どうですか、漠山バクヤマさん。

(そうですね、今日の一番の見所と言っても過言ではないですね)

そうですか、ありがとうございました。



「……いつまで続くんだよ、それ」

「一緒にいる限りは続けたいなと」

「てか、ここ夢!?」

「はい、ちなみに帰れません」

「何で!?」



それはね。

(斎藤くんが気に入ったからですよ)



「っざけんなああぁああっ!」

「夢見ちゃいなよ」

「現実になっちゃってんだよ!」

「上手いこと言いますねマイハニー」

「マイハニーはやめろ!」



そうして、始まり始まり。



「ざけんな!始まってたまっかっつのおおぉおっ!」

「おやおや、元気でよろしいことで」

「話聞けよ!」






──がばっ。



「はあ、はあ、」



お、起きた。

起きた?

起きれた?俺。



「……よ、よかった……」



きょろきょろと自分の部屋を挙動不審に見渡す俺。

俺、斎藤さいとう雛菊ひなぎく17歳。

真っ当に生きてる健全な男子高校生だ。



「へー可愛い名前なんですね」

「可愛いとか言うな!親が付けてくれた名前だぞ!」



全く失礼な話だ。

まあ、気に入ってるかどうかってのはまた別の話として。


とにもかくにも、ここは俺が住んでるアパートの部屋だ。

ちょっとばっかしレトロでメルヘンで正直気に入ってるかと言われたらそれもまた別の話だけど、まあ、それはいい。

話すと長くなるし。


とにもかくにも俺の部屋、今は何よりそこが大事。

起きれた、そこはもっと大事。

つまり、よかった!



「何だよ……起きれないとか戻れないとか……」



ふう、と安堵の溜め息を吐いてから、ばふっと、ベッドにまた沈んだ。

ちらと向けたベッドサイドのデジタル時計はam.5:24を表示してるから、起床まではまだまだ余裕がある。



「はあー……」



よかった……わけわかんないけど、とにかくよかった。

あんなわけわからんバクだかハグだかマングースだか、とにかく得体の知れない (しかも何かねちっこい) 謎の生物なんか忘れよう。

だいたいあいつは何なんだ。

あれか、今流行りのUMAユーマとかEBEイーバとかそういうやつか。

まあ、いいや。

もう終わったことだし、夢だし……ああ、あったかい。

何かもこもこする、気持ちいい。



「おや、また夢の世界へ?」

「うっせえな」

「いやはや、斎藤くんの……いや、雛菊くんの精神力には驚きました。まさか起きるとは」

「だから、うっせえって……」



……?


俺、さっきから、誰と、会話してる?


がばっと勢いよく掛け布団を剥いで隣を確認した。

そして目は点、からの凝視に続く。


バクが、いた。



「今更な」

「な、何でいんだよ!」

「雛菊くんが途中で起きちゃうからですよ」

「い、意味わっかんねー!」



パニックに陥った俺。

取り敢えず、奴のボディに一発入れた。



「ぐふっ……ジョー、いいパンチだ」

「ジョーって誰だよ!」



ど、どうする俺!?



「で、話変わりますが、ここペット可ですかね?」

「パンチ効いてねえのかよ!」

「ずいぶんとメルヘンなところに住んでますね」

「うるせえよ!」

「趣味なんですね」

「ちげえよ!断言すんな!」

「趣味なんですね」

「ちげえっつーの!」



「ちょっと!早朝なんだけど!」



ガン!と隣の壁が大きく鳴って、びくう!と肩が竦んだ。

お隣さん……ごめんなさい。



「趣味なんですね」

「しつこいっつーの……」



冗談は夢だけして欲しい。



「で、ペットは可ですか?」

「……」



お前、本気でうちに居座るつもりか。

前途多難な日常は、こうして幕を開け──



「──て堪るかよ!」

「おや、いい感じに流されてくれそうだったのに」

「勝手にアテレコすんじゃね─────っ!!!!!」



──ガンッ!


またお隣さんが壁を蹴った、先行き不安なam.5:30。




end?

2009.01.12 / 2012.07.19改稿

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