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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
9/40

FILE:9『仲間(メンバー)』


――君の邪魔者を始末して来たよ。


ありがとう・・・。でもあまり乱暴な事はしないでね?

――分かっている。ただ邪魔なネズミ達がもう数匹いるから、君の愛犬を借りたいんだ?


・・・良いよ。クロウに言っておく。

――ありがとう。今度帰る時には君におみやげを持ってくるよ。


早く戻って来てね?ボクが淋しくなる前に―――



「ヴァーカードさんと連絡が取れね―ってどう言う事だ!!」


ドーム系の小さな空間全体に赤い髪の青年の怒鳴り声が響き渡る。

それを聞きながら部屋の巨大コンピューターを操作していたラビィは、青年の怒りに驚きもせずに応えた。


「あい、すいませ〜ん。焔さんには連絡しなくて良いって言われたら、逆にヴァーカードさんと連絡取れなくなっちゃいました〜?」

「――このやろう。お前の『すいませ〜ん』は謝ってる様に聞こえねぇんだよ!!」


ラビィの言い分に、ホムラと呼ばれた青年が壁を蹴っ飛ばしながらまた怒鳴る。

実際、二人のいる場所はそんなに広くないので怒鳴らなくても十分聞こえるのだが、チームリーダーが音信不通なのにのほほんとしているラビィを見ては、怒鳴られずにいられない。

青年は頭に超がつく程の気の短い性格だった。


「あいあ〜い。すいませ〜ん」


反省の色ゼロの態度にまた焔の額に青筋が浮くが、疲れた様に近くにあったソファーにドッカリと座る。

このネットジャンキーの少女?に何を言っても無駄なのが分かっていたからだ。

ここはヴァーカードの本拠地。ホームの名前は

「トロイ」。

ホームとは『エデン』でパーティを組むユーザー達が集まる基地の様な物だ。

通常、RPGで一人で冒険をする無謀者はいない。大低は何人かの友達や知り合った仲間達と組むものである。

そこで自分の仲間達だけと情報を交換したい時や、交流の場として作られたのがホームだ。

ホームはWB社に申請すればいつでも作る事が出来る。

時には、メンバーが100人を越える超大型ホームなんて言うのも存在するのだ。

しかし、焔達がいるホームは人が数人入ればいっぱいになってしまいそうな程小じんまりとした物だった。

円形に作られた空間に焔が座っている赤いソファーと、ほんの少しばかりの観葉植物。そして入口に続くドアとヴァーカード専用の秘密の部屋に続くドアと、メンバーが休息などに使うリラクゼーション・ルームに続くドアの3つが設置してあるだけである。

後は部屋の中央に描いてある魔法陣と、部屋の大半を占めているラビィ御愛用の巨大コンピューターがあるだけだ。

ほぼ、必要な物すら削ぎ落としたシンプルなホームと言えるだろう。


「ムムッ?ムムムムム〜〜〜ッ??」

「どうした?」


とそれまで巨大コンピューターに向かっていたラビィが突然手を止め画面に眼を凝らし始めた。 名前の由来でもあるウサミミもピコピコと落ち着き無く動いている。

それを見てソファーに寝転がっていた焔の目付きが変わった。


「あい。どうやらここに向かっているユーザーがいるみたいですねぇ〜?数は2人と・・・解析不能なのが一つあるみたいです〜」

「不審者か?ちょうど良いや。ムシャクシャしてたから追っ払ってやる!!」


ソファーから飛び立つと指をポキポキ鳴らしながら凶悪な笑みを浮かべる焔。血の気の多い青年がズンズン入口のドアに向かうと、ラビィは振り返りもせず

「いってらっしゃ〜い!」と袖から出し切れていない手をブンブンと振った。


・・同じ頃。クロスピアの港付近ではシュウとハジメ、そしてシュウの金色杓杖に乗ったヴァーカードの姿があった。


「まさか《黒き勇者》のホームがこんな身近な所にあったとはねぇ?」

歩きながらシュウが顔を竦める。


二人と一匹が向かおとしているのはもちろんヴァーカードのホーム『トロイ』だ。

謎の多いユーザーであるヴァーカードのホームだから一体どんな場所にあるのか?と期待して案内されてみたら、なんて事は無く街の中にあったのである。

しかもクロスピアの名所の一つ、巨大な港の端の端らしい。

知っての通り、クロスピアは王宮ストーン・キャッスルと本物に近い美しい港が自慢の街だ。

だからこそ港にも大小様々な船が停めてあり、その作りはユーザー達からも人気を博している。

システムのシュウならほぼ毎日見ている場所にヴァーカード達のホームはあった訳だ。


『人は隠そうとすればする程逆に目立って見つかり易い。シンプルな物の方が隠れ家には持ってこいなのだ。・・・見えて来たぞ?あれだ』


杓杖に乗りながら悠々と案内するヴァーカードが翼で指差す。

声や姿は違うがハジメ達もようやくこの小さくなってしまった《黒き勇者》に馴れて来た。


「え?あれって・・・」


指ならぬ翼で指された先にあったのは、それこそ港の端の端。数々の豪華な船の陰にひっそりと隠れたボロボロの小型船である。

もっと大きければ、幽霊船と呼んで良いかもしれない。

一応港に上がれる階段の近くに横付けしてあるので乗れる事は乗れるのだが、出来れば遠慮したい船だった。


「え〜と・・・あれはグラフィックじゃないかな??」

『グラフィックの中にホームを作ってあるのだ。あの船なら誰も近寄らないからな』


頬を掻きながら苦笑するシュウにヴァーカードが答える。

確かにあの船ならば誰も近づきはしない筈だ。

仕方なくシュウ達がオンボロ小型船に近づくために歩みを進める。そして船がようやくちゃんと見える所まで差し掛かった時だった。


「オラァッ!!」

「!?ハジメ、避けろ!」


突然シュウ達のいた場所に陰が差したかと思うと雷鳴を轟かせながら、拳に稲妻を纏った男が降って来たのである。

男の一撃は間一髪シュウが気付き、ハジメを突き飛ばしたため誰にも当たらなかったが、代わりに当たった石床のグラフィックがドゴン!と言う音と共に穴に開く。

そのあまりの威力に自分が当たっていたら?と想像してしまい、ハジメの顔からサーーッと血の気が引いた。


「ちっ!外した!!」


石床から手を抜きながら襲って来た男が舌打ちをする。

短く真っ赤な髪を炎の様に立ち上げ、額には梵字の火の一文字。浅黒い肌には足の部分を切り取った短めの袴以外、着ておらずせいぜい両手足に付けている二重の金の輪か 首から下げている勾玉の首輪ぐらいな物だ。

両手の爪は鋭く伸びてており、口から見える八重歯や尖った耳などは正に獣を思わせる男である。

・・ここまで言えば、もはや説明はいらないだろうが男は先程『トロイ』を飛び出して行った焔だった。


「おいおい、見ず知らずの人をいきなり襲うなってお母さんから習わなかったのかな?」

「るせぇ!!テメーら俺達のホームになんの用だ!?」


軽口を叩きながら身構えるシュウに対し、焔も体制を立て直しながら獣の唸り声を上げる。

攻撃を避けられて余計頭に血が上ってしまった様だ。


「不用意に近づきやがって・・・俺は今むしゃくしゃしてんだ!!大人しく引き返さねーってんならこのまま力づくで――」

『馬鹿者っ!!』


――ボワアァァ〜〜〜ッ!!

今にも飛び掛かりそうな鼻息の焔だったが、突如彼の顔を巨大な炎が襲った。

今まで事の様子を伺っていたヴァーカードである。まだ炎を吐き出すのは慣れていないのか、その後ケホケホと黒い煙を咳込んでいたが・・・。


「な、なんでククルがここに〜!」

『自分のホームをバラしてどうする?手を出す前にまず考えてから行動しろと言った筈だ』


今までの勢いは何処へやら、顔を真っ黒にして眼を真ん丸にしながらその場へ倒れる焔。

・・その後、シュウ達が仕方なく彼を抱えて『トロイ』に入る事になったのは言うまでもない。


「あい、すいませ〜ん!よくよく確認して見たらヴァーカードさんの情報が含まれていたの言うの忘れてたました〜♪」


袖から出し切れていない腕で頭を叩き、エヘッ♪と言う感じでラビィが舌を出す。

近くのソファーにはふて腐れた顔の焔がおり、入口の近くには感心した顔で部屋を見回すシュウと緊張した様子のハジメが立っている。

そしてヴァーカードは皆の方を向いているラビィの頭の上に止まっていた。


「ふっざけんな!!テメーぜってぇワザとだろ!?」

『焔、いい加減にしないか。ラビィも以後気をつける様に』


納得のいかない焔がまたしても怒り出すが、ヴァーカードに諌められると

「ケッ!」とだけ吐き捨ててソッポを向いてしまうラビィもまた

「あいあい♪」と言いながら、大して気にしていない様子。

相変わらずな二人の態度に、ヴァーカードも呆れて長い首を降るばかりだ。


『まぁ、道中色々あったが君達には改めて自己紹介しよう。

ようこそ私のホーム

「トロイ」へ。

私はヴァーカード。姿は大分変わってしまったがタイプは(戦士)だ。

そして彼らが私の仲間で戦闘専門の焔と、ここのオペレーター担当のラビィ。タイプは一応(魔導士)だ』

「あい♪貴方が《悠久の監視者》さんですねぇ?優秀なシステムだとお噂は聞いてます〜」


ヴァーカードが仲間の説明をシュウ達にすると、ラビィが異様に長いローブをズルズル引きづりながら近づいて来て一方的に握手する。

ラビィは顔に装着している大きめなゴーグルとウサミミが特徴的な兎の獣人の姿をしていた。


「あ〜これはどうも、ご丁寧に」

『・・ラビィ。話の腰が折れてしまったが、以上3人が私のパーティー《ゴースト・ハッカーズ》のメンバーだ。

そして私達が追っている物こそ、君達が遭遇した原因不明のバグ――ノイズだよ』


ノイズと聞いた途端シュウや焔、それに今まではしゃいでいたラビィまでもが押し黙ってしまう。クロス・パウロで経験したあの恐怖感を思い出して、ハジメは変色してしまった左手を摩った。


「教えてもらえますか?あのノイズってのが一体なんなのか・・・。俺達はそのために来たんだ」

真剣な表情になったシュウがヴァーカードに尋ねる白い竜となった凶戦士も魔導士の真っ直ぐな眼を受け止めると、分かっていると言う様に静かに頷いた。


『私もそのつもりで案内したのだ。君達には知っておいてもらいたいこの(世界)の危機を・・・そして、真実をな』

   (続く)


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