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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
4/40

FILE:4『戦闘(バトル)』

『ルオオォ−−−ッ!』

「逃げろ!ハジメ!!」

襲って来たアンデットモンスター、エビル・ゾンビの大刀が近くにいたハジメに向かって振り落とされた。

ハジメはそのあまりの迫力に気圧され、動く事が出来ない。後一歩で鬼モンスターの狂刃が少年を真っ二つにしようかと言う所で、間一髪シュウがハジメを庇い危機を脱した。

ズン−−−!!

「あ、ありがとう!シュウ兄ちゃん」

ハジメの言葉には応えず、シュウは少年を抱えたままエビル・ゾンビから距離を置くと額に掛けていたバイザーの様な赤いサングラスを装着する。

するとサングラスから様々な数字やグラフが写し出され、何かを調べている様だった。

「くそっ、転送用の(ゲート)が開かない!!

ウィング!こちらシュウだ!今すぐ俺達をクロスピアに戻してくれ!−−ウィング?ウィング!!」

サングラスからサポーターのAIに助けを求めたが、通信は通らずサングラスからはザーーッと言う耳障りなノイズしか聞こえて来ない。

システムの人間だけが使えるワープ用の(ゲート)も、何故かまったく開かないのだ。

(フリーズ!?さっきの物体がここを隔離したとでも言うのか!?)

フリーズとはネットワークの回線が切断され、画面が凍り付いてしまう事である。

通常、WB社が管理している

「エデン」

でフリーズなど有り得ない。しかしサポーターとの通信は遮断され、今いる筈の無いモンスターが目の前にいるのである。

「有り得ない」

事が起きていると考えざるを得なかった。

「くそ、ハジメ下がってろ!コイツは兄ちゃん一人で片付ける!」

不安げにピッタリとくっついている甥っ子を下がらせ、シュウが黄金に輝く杓杖を持ち構える。

逃げると言う選択肢が無くなった時点でシュウの腹は決まった。

「エデン」

ではバトル中のログアウトは出来ない。無理にスイッチを切ると人体に影響を及ぼす恐れがあるからである。

そしてこの荒野が隔離されてしまっているのなら、すでに自分達が使ったゲートも閉まっているだろう。そうなってしまったら何処へ逃げても無駄である。

残るこの場から無事に脱出する方法はただ一つ。闘って敵を倒す事だ。

それ以外に方法は無い!

それにエビル・ゾンビも、また自分達を生きて帰すつもりは無い様だ。

『グルルルル・・・ッ!!』

大刀がゆっくりと持ち上げられ、エビル・ゾンビがこちらを向く。腐って骨だけになった頭蓋骨がカタカタと笑い出してハジメはゾッとした。

「はああぁ・・・っ!」

シュウは敵が突進して来る前に杖を地面に突き刺すと、両手を胸の前で合わせ眼を閉じ、集中し始める。

するとサングラスが物凄い早さで計算を始め、合わせた掌の中で真っ白な光が徐々に強さを増していく。

ハジメにもあれがキャラの魔法では無く、何かのデータだと分かった。

「コイツは反則なんだが使わせてもらうぜ!消去(デリート)!!」

シュウがカッと眼を開き両手を離したかと思うと、彼の前に真っ白い菱形の結晶体が現れる。

(デリート)と呼ばれたその結晶体はシュウの腕から発せられると、一直線に飛んで行きエビル・ゾンビに直撃した。

−−バチバチバチッ!!

結晶体がモンスターに当たった瞬間、ハジメは眼を見張った。

それまで菱形だった結晶体が電流の様な火花を放ち巨大なピラミッドに姿を変え、エビル・ゾンビを包み込むとそのまま縮小を始めたのである。

(デリート)とはシステムの人間が『エデン』のメンテナンスを行う時に使う不要データを消去するプログラムなのだ。

つまり、エビル・ゾンビはハジメ達を襲った時点で勝負は決していたのである。

勝利を確信し、シュウが余裕の笑みを浮かべた時だった−−。

『ルオオォ−−−ッ!!』

「なっ!?」

エビル・ゾンビの咆哮が、シュウの笑みを奪い去る。

なんとモンスターは己を消滅させ様とするデータに抵抗し、縮小する(デリート)を自慢の怪力で破壊したのである。

粉々となった(デリート)のデータは離散し消滅してしまう。

残された鬼モンスターは躯中からシューシューと湯気を出しながらも一歩ずつ確実に、二人に近づいて来た。

「(デリート)が効かない?そんな!?」

これにはさすがのシュウも動揺を隠せない。

しかし後ろにハジメがいる事を思い出すと、一足飛びで高く跳躍しエビル・ゾンビの背後に回り込む。

そして黄金の杓杖を向けると一つの巨大な炎の球を作り出しエビル・ゾンビに発射した。

「フレイド!!」

−−ドゴン!!

『ルオオォッ!』

シュウの渾身の必殺魔法が命中し、エビル・ゾンビが初めて苦痛に満ちた悲鳴を上げた。

どうやらバトルの攻撃ならダメージを与えられるらしい。

手応えを感じたシュウはニ発、三発と続けて火球を打ち込んでいく。

相手が倒れるか、自分のMPが尽きるかの根比べだ。

(くっ・・さすがにLv50のモンスターを相手に一人で戦うのはキツい!だが負けられない!!俺が負けたらハジメが−−)

攻撃を続けながらも、視界の隅にハジメの姿が入って来る。

このゲームに誘ったのは誰でも無い自分である。

念願だったゲームの世界を楽しんでもらおうと思ったのに、こんな訳の分からないバグに巻き込む訳にいかない。

ハジメだけはなんとしてでも無事に、送り返さなければいけないのだ。

「兄ちゃん!上!?」

と、そのハジメの声でハッと我に帰る。

なんと爆煙の中にモンスターの姿が無い。すると突然自分の足元に巨大な影がヌッと現れた。

見上げて見ると−−エビル・ゾンビである。

なんとモンスターはその巨体でジャンプし、シュウの猛攻をかわしていたのだ。

(しまっ・・!)

シュウが慌てて逃げようとするが、とても間に合わない。大きく振りかぶったエビル・ゾンビの大刀が横一文字に振られ、シュウの脇腹を切り裂いた。

「くっ!!」

「兄ぃちゃ−−ん!!」

攻撃された拍子につんのめり、シュウは地面に顔や体をしたたか打って転んでしまう。

全身の痛みに目眩を覚えるが、ギリギリでかわしたおかげで脇腹の傷は致命傷にはならず、回復魔法で十分治せる程度であった。

幸い、転がったせいで着地したエビル・ゾンビとも距離が出来て呪文を唱えるくらいの時間はありそうである。

早速シュウが精神を集中し回復呪文の一名を唱えようとした瞬間、

「うわああぁ−−−っ!!」

−−パン!パン!パン!パン!!

その言葉は少年の魂の叫びに掻き消された。

ハジメだった。エビル・ゾンビに突然、自分の武器である二丁小銃で攻撃したのである。

だが、それは少年にとってあまりにも無謀な挑戦だった。

「何やってんだハジメ!?馬鹿な事は止めてジッとしてろ!!」

「嫌だ!シュウ兄ちゃんがやられるなんて嫌だぁ−−−−っ!!」

叫びながら小さな小剣銃士は無我夢中で攻撃を続ける。ハジメはシュウがやられたのを見て勇敢にも助けようとしたのだ。

しかしLv1のキャラの攻撃が、エビル・ゾンビに通用する訳が無い。

二つのピストルから発射された銃弾はモンスターの鎧に事欠く弾かれてしまった。

『ルオオォ−−−ッ!』

「ヒッ!」

少年の小癪な抵抗がエビル・ゾンビの逆鱗に触れた。

周りの空気が震えそうな怒りの咆哮でハジメの攻撃を一発で黙らせる。

奮い立たせた勇気を一吹きで壊されてしまった少年は腰を抜かしてしまい、ガクガク震える膝のせいで動く事が出来ない。

武器であるピストルを持とうにも、指が強張ってしまい握る事すらままならないのである。

なんとか這いずってでも逃げようと前を向いた時、エビル・ゾンビの姿が消えている事に気付いた。

「ハジメ!逃げろぉ−−−!!」

シュウが深手を負ったのも顧みず、こちらに駆け寄って来るのが見えた途端、自分の体が巨大な影に覆われた。

驚いて見上げて見ると、ハジメの体よりも大きな刀を振り上げながら、鬼モンスターが落下して来た。

(た、助けて・・)

恐怖で声が出ない状況の中、ハジメは何故か周りの物がスローモーションみたいにゆっくりと動いている様に見えた。

駆け寄って来るシュウの姿。降下して来るエビル・ゾンビの眼?が赤く光り、振り上げられた刀が自分の脳天目掛けて下ろされる。そして−−。

「ハジメェ−−−ッ!」

シュウの悲鳴が耳の中に響き渡った。



・・・。

・・・・。

・・・・・・・。

(−−しだ。−−年)

「ん?」

そこでハジメは自分の異変に気がついた。今正に恐ろしいモンスターに止どめを刺されたにも関わらず、痛みも何も感じないのである。

『エデン』のゲームオーバーとはこんな感じなのだろうか?それにしてもおかしい。さっきあのモンスターの攻撃を喰らった時、シュウはあんなに痛がってたではないか。

(その−−しだ。−−年)

「!?」

今、男の様な声が聞こえた。何を言ってるかはハッキリとは分からなかったが、聞こえたのは確かである。

周りが真っ暗で自分に何が起こっているのかまったく分からない。

と、そこで初めて自分が眼をつぶっている事に気がついた。真っ暗なのは当然である。

自分の間抜けっぷりが嫌になりつつ、ハジメがそっと眼を開けると・・。

「その勇気は良しだ!少年」

眼の前に信じられない光景が広がっていた。

ハジメの前に男が立っていたのである。

大きい背中だった。ハジメの倍所か、シュウよりも身長がある。

しかし驚くべきはそこでは無い。なんと男はエビル・ゾンビの大刀を片手で受け止めているのだ。

「君は・・いや、貴方は!」

シュウもどうやら彼を知っているらしい。

ハジメを助けた男−−それは先程、山の頂上でタバコを吹かしていたあの黒い鎧の男だった。

(続く)

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