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THE・ログインvo1  作者: 秋葉時雨
39/40

FAIE:39『亡霊(ゴースト)』

ーー適応Lv38 封印されし聖域

「くっそ〜!痛ってぇ・・・」


ノイズ現象が起こる少し前、魔神の爆発に寄り土煙にまみれた神殿近くの山でムクリと起き上がる影があった。

焔である。

サンダージャイアントの爆発直前、咄嗟に空へと逃げた鬼人は間一髪爆発に巻き込まれずに済んだのである。

しかし直撃は免れたが、ダメージを負わなかった訳ではなく体のあちこちに傷があった。


(通信がなかったら完璧アウトだったな)


アウトロー達を倒した時に奪った回復アイテムを使いながら辺りを見回す。神殿の周りには焔以外誰もいなかった。蘭丸や阿国達も先程の爆発でやられたのだろう。

見るとアウトローの1人が持っていたのか?【ドラゴンレイン】のマークが入った旗が地面に突き刺さりパタパタと風に靡いていた。


「チッ・・・テメーらアウトローが、ドラゴンレインを名乗るんじゃねーよ!!」

ーーズバッ!!


旗の近くまで歩み寄った焔が、吐き捨てる様に叫びながら持っていたアックスギターを振り下ろす。

怒りに任せて切られた旗は、そのまま風に乗ってパタパタと何処かへ飛んで行ってしまった。


(落ち着け・・・今はキレてる場合じゃねぇ。とにかく一回ヴァーカードさん達と合流してーー)

ーーザザザザザーーー!!


と、その時だった。

突如、神殿の周りの画像が乱れ初め辺りが静寂に包まれたのである。

アウトローとのトラブルで忘れていたが、馴染みになりつつあるこの現象は間違いなくノイズ現象だ。


「チッ!やべぇ・・・こいつは!?」


焔が舌打ちすると、案の定神殿の上空に黒い球体が一つ現れる。その球体はゆっくりと降下し、神殿へと入ろうとしていた。


「くそっ!待ちやがれ!!」


焔が慌てて翼を出し、球体を止めようと飛び出すが、間に合わず球体はそのまま神殿へと入ってしまう。

後にはたった1人、焔だけが取り残されてしまった。


「くそっ!!やべぇぞ、何とかヴァーカードさん達と合流しねーと・・・!」


自分の不甲斐なさに屋根に拳を叩きつけた焔だったが、すぐに通信機で誰かと連絡を取る。

これがハジメ達の前にクロウが現れる数分前の出来事であるーー。


『ーーーーー』


眼球の無い窪んだ穴で烏は見ていた。ただゆったりと羽ばたきながら怒りの籠った目で自分を睨む少年達を・・・そして、恐怖で怯える女神を・・・。

ひょっとしたらこのモンスターには意思すらないのかもしれない。

しかし、空からユーザーを見下ろすその姿はあらゆる者に死を与える死神その者だった。


(バカな・・・あのモンスターが何故「エデン」に!?)


恐怖で顔を歪めながら、女神サラは驚いていた。

クロウがプログラム外の存在だったからではない。その存在事態があり得なかったからである。

どんなバグやウィルスであろうと、「エデン」は所詮ゲームの世界。何者かが作りネットワークに侵入させるしかない。

しかし「クロウを作れる者はもういない」のだ。それは、システムである彼女だけが知る事実であり、彼女が今の地位を築くためにやったある忌まわしい記憶にも繋がっている。

では、目の前にいるあのモンスターは何なのか?そこまでの事実に辿り着いた時、理論と事実しか信じないサラの頭はあっさりと考える事を放棄した。


「い、嫌あぁぁーーーっ!!」


恐怖に駈られた女神は衝動的にホームへと繋がる玉座へと走り出した。

本来ならユーザーのハジメ達を守らねばならないのだが、仕事で女神を演じているだけの彼女は簡単にその職を放棄し、1人逃げ出したのである。


『待て、女神サラ!我々と一緒にいた方が安全だ!』


後ろでヴァーカードの引き止める声が聞こえて来るが、女神の耳には届かない。持っていた杖で玉座を光輝く扉に変えると、慌てて中に飛び込みホームへと逃げ帰ってしまった。


(くっ!どうして・・・どうしてこんな事に!?)


扉が閉まりホームへの転送中、爪を噛み苛立ちを露にするサラ。

悔しいがさっきのユーザー達の言っていた事は本当だった様だ。『エデン』にはシステムにもAIにも発見されないバグが存在し、彼らの言葉を信じるなら監視者シュウはそのバグに襲われ行方不明になったのだと言う。

だとするとあのモンスターの狙いは間違い無くシステムの自分だ。冗談ではない。

あらゆる手段を使い、手にいれた地位だったが仕事のために自分の身を危険に晒すつもりは無かった。


「もしもし・・・こちら、社員番号01114329。コードネーム(サラ)です。WB社応答願います」


転送が完了すると、サラはすぐに部屋の中央にある端末を操作し、本社に連絡を取る。

「エデン」の運営を任されている監視者はたくさんのデータを管理してるため、勝手にログアウトは出来ない。本社に申請が必要なのだ。

本来ならシステムのホームが無人になると言うと事はあり得ないのだが、今は蘭丸の騒動のせいで誰もいない。

暫くすると、たくさんの画面の1つがクローズアップされ巨大な人間の顔が映し出された。


『ど・・ました・・サラ。そちらの・・リアに・・大勢の・・・ウトローが・・暴れ・・ると・・・通報・・が・・りましたが?』

「そんな事はどうでもいいです!緊急事態のため今すぐ、私をログアウトさせなさい!」


巨大な顔がサラに話しかけるが、フリーズ現象のせいか画像が乱れ酷く聞き取り辛い。しかし、さっきのアウトロー襲撃事件の事を言っているのだろう。

そんな事は後でどうとでも説明が着く。責任を問われるのなら天使の一人かドラゴンレインの連中に擦り付ければ良い。

今、大事な事は一刻も早くこの場から逃げる事だ。


『な・・ですか?・・サ・・ラ・・・聞き取り辛い・・でもう・・一度・・』

「なっ!?WB社?WB社!応答してください!?そんな・・・」


だが、すぐに本社の通信の雑音が酷くなり、連絡が途絶えてしまう。

どうやら完全にリアルとの通信を遮断されてしまった様だ。そしてーー。


ーーピー!ピー!ピー!ピー!!

「ひぃ!?」


突然また辺りに警戒音が鳴り響き、全身を硬直させるサラ。自分の背後にバチバチと言う小さな放電音が聞こえ、人の気配がある事を感じたのである。

馬鹿な?あり得ないーーと恐怖と疑問でいっぱいになった頭で、意を決して後ろを振り返る。

すると・・・案の定、目の前に死神がいた。


ーーバサァ!

「そ、そんな・・・ゲートを使わず転送なんて出来る訳が・・」

『ーーーー』


驚きながら後ずさる女神に漆黒の烏モンスター、クロウは持っていた水晶髑髏を前に差し出す。すると、髑髏が一瞬光りサラはモニターが写し出されている壁に叩き付けられてしまった。


ーーキィン!!

「キャア!!あっ・・うう・・!」


全身を打つ強い痛みに小さく呻くサラ。これも水晶髑髏の力なのかモニターに張り付けにされたまま、指一本動かせない。

クロウがゆっくり髑髏を持ち上げると、サラの体も徐々に持ち上がりいつの間にか宙吊りの状態になってしまった。


「くっ・・・あ、貴方は一体?ま、まさか、本当に・・・」


あり得ない事ばかり起き、すっかり混乱してしまった女神は今までなら想像もしなかった考えに至る。

それは現実主義な彼女が本来なら絶対に口にしない言葉だったが、今起きてる不可解な出来事と彼女が過去に犯した「ある罪」が結び付き、その言葉を言わずにはいられなかった。


「亡・・霊・・?」

ーーバサァ!!


その言葉を発した途端、クロウが羽ばたきサラの目の前に急接近する。哀れ、囚われの身となった楽園の女神を烏モンスターが持つ水晶髑髏が写し出していたーー。



「サラさん!クソっ!!」


主のいなくなった神殿でハジメが玉座を叩く。サラが神殿から逃げ出して直ぐの事だった。

突然クロウが玉座の前まで移動し、球体に戻ると壁の中に消えてしまったのである。

恐らく女神を追って行ったのだろう。

すぐにでも追跡したかったが、周りがフリーズしてしまっては後を追う事も出来なかった。


『落ち着くんだ、少年。こんな事態のために手段は考えてある』

「ヴァーカードさん!お待たせしました!」


焦る少年を尻目に肩に乗ったヴァーカードが冷静に諭す。すると、どうやって入ったのか?神殿の外にいた焔が戻って来た。


「ほ、焔さん!?無事だったんですね!でも、どうやって中に・・・」

「へっ、噂屋のババァだよ。ラビィに連絡して神殿の中に転送させたんだ」

(助けてやったのに随分な言い草だねぇ?クソガキ)


驚いたハジメが聞くと悪態を突きながら焔が説明する。すると、アカネの方から何故か噂屋のオババの声が聞こえて来た。


「げっ、婆さん。聞いてたのか?」

(当たり前だよ。さて、ヴァーカード。状況はそこのバカから聞いてるよ。どうやら神殿に閉じ込められちまったみたいだね?)


通信機だった。アカネも腕に小さな腕輪を着けていて、そこからオババの声が聞こえて来る。

今までキャラの装備品だと思っていたので少年は気づかなかったのだ。


『ああ、黒衣の魔女よ。我々を監視者のホームへ転送する事は出来るか?』

(愚問だね。但し転送出来るのは後一回が限度さ。一度飛んだら今度はノイズ現象が終わるまで出られないよ。それでも良いのかい?)


通信機から聞こえる魔女の言葉にハジメの表情が曇る。

ノイズ現象の終わりーーそれはクロウを倒すかハジメ達の全滅を意味していた。

少年の脳裏に今までのノイズ現象で味わった恐怖が一気に甦る。

しかし・・・。


「行きましょう。サラさんを助けないと!」


決意の籠った目でハジメは肩に乗るヴァーカードに言う。それを見て焔はニヤリと笑い、アカネも同意の意思を込めて頷く。

ノイズの脅威は身をもって知っている。だが、だからこそ自分達がやらねばならない。

サラを助け、今度こそクロウを倒し大切な人達を取り戻すのだ。


『分かった。黒依の魔女よ、転送を頼む』


少年の言葉を聞き、ニヒルな笑みを浮かべたヴァーカードが通信機に伝える。するとカタカタと言うキーボード音と共に女神の玉座が光り輝く扉に変わった。


『よし、行くぞ』

「はい!」


光の扉を越え、全員がホームへと続く小さな部屋に乗り込む。扉が消えると通信機からオババの声が聞こえて来た。


(じゃあ、行くよ。さっさと烏の化け物をぶっとばして来な)


それはオババ成りのエールなのか?通信が遮断されると若干の浮遊感と共に、小さな部屋が運命の蛇が回転する果てしない空間へと変貌する。

監視者のホームへ転送されたのだ。

と、そこでハジメ達の目の前に衝撃的な光景が飛び込んできた。


「キャアアアアーーーーーーーー!!」

「っ!?サラさん!」


女神サラだった。空中で両腕を張り付けにされた監視者の体からクロウの三つ目へと光の文字が吸い込まれていく。

それはシュウの時と全く同じ光景だった。


「やめろーーーーーーっ!!」

「ライトニングアロー」

「焔炎弾!!」


ハジメが叫びながら2丁拳銃を乱射し、アカネと焔も魔法と火炎弾を発射する。

するとクロウの持っていた水晶髑髏の目が大きく光り、撃った銃弾や炎がハジメ達の方に戻って来た。


ーードガァン!!

「うわぁ!」


慌ててハジメ達がその場から回避するが、爆発に巻き込まれ大きく吹き飛ばされる。

少年達が怯んでいる間にもクロウの蛮行は続き、ついにサラの体から巨大な文字が出て来た。


『G』

「キャアアアーーーーあ・・アァ・・!」


巨大な『G』の文字がクロウへと吸い込まれた途端、まるで魂が抜けた様にそれまで絶叫していたサラが項垂れる。

全てのデータを吸収すると、用済みになったのかクロウはその場から離れ、解放された女神は地面へと落下した。


『女神サラ!!』

「くそっ!待て、クロウ!!」


サラに駆け寄ったハジメがクロウに銃口を向けるが、目的を果たした烏モンスターはあっという間に黒い球体へと姿を変え、その場から消える。

見るとサラの体もデータが抜き取られた部分からウィルスが侵食し、徐々に崩壊し初めていた。


「アァ・・ちが・・違・・の。私は・・・されただけ・・許・・してぇ・・」

『何だ?女神サラ、君はやはり何かを知っているのか?教えてくれ!クロウとは・・ノイズとは一体何だ!?』


うわ言の様に許しを乞う女神を珍しく感情的になったヴァーカードが問い質す

すると虚空を見つめていたサラが絞り出す様に声を発した。


「ぼ・・亡霊・・・ァアアアッ!」

『亡霊?』


最後に恐怖の叫び声を上げながら『エデン』を守る女神、サラは消滅した。

その最後の言葉に少年の肩に乗っていたヴァーカードは驚きの表情を見せる。

女神がいなくなった後、主を失ったホームは静寂を破り何事も無かったかの様に動き出した。

ノイズ現象が終わった証拠だ。


(・・しもし。もしもし!坊や達、聞こえてるかい?聞こえてんなら応答しな!)


と、通信機から噂屋のオババの声が聞こえてくる。クロウが去り通信も復活した様だ。

だが結局サラを守れなかった事実に焔は苛立つ様に舌打ちをし、ハジメもその場から動けず誰も通信に出ない。

アカネもハジメにどう声を掛けたら良いか分からず悩んでいる様なので、仕方なくヴァーカードが通信に出た。


『聞こえている。こちら、ヴァーカード。メンバーは全員無事だ』

(おおっ、ヴァーカード!無事だったんだねぇ?

アンタらを転送した直後にフリーズ現象が解除されちまったが一体どうなってるんだーー)

「クソッ!!」


オババの声を遮る様にハジメが持っていたダガーを地面に叩きつける。

怒りを露にする少年の叫びはその場に響き渡り、それを聞いて全てを察したのかオババはそれ以上何も聞いて来なかった。


(・・どうやら賭けはアンタ達の敗けみたいだね)

『ああっ、女神サラが襲われた。黒衣の魔女よ。外の様子はどうなっている?』


ヴァーカードが状況を聞くが、もうハジメの耳には届いていなかった。

シュウの仲間を守ると決死の決意で乗り込んだのに、結局何も出来ず目の前でまたクロウに逃げられたのだから無理もない。

自分の不甲斐なさに少年が打ちのめされていると突然、ハジメの頭に柔らかい感触が当たった。


「落ち着いて、ハジメ。・・・ミッションはまだ終わってない」


アカネだった。

ハジメを守る事を決意している魔法少女はそっと少年を抱き締め、慰める様に優しい口調で語りかける。

アカネの突然の行動に少年は、顔を真っ赤にしてしまった。


「あ、アカネ!?何を・・・」

「私達の目的はクロウを倒し、被害者達を救出する事。・・なら、まだ負けてない」

『アカネの言う通りだ、少年。我々はまだクロウを見失ってはいない』


ギュッと抱き締めてくるアカネの体温を感じてアワアワしていたハジメだったが、少女の肩に乗ったヴァーカードの言葉に、動きが止まる。

理解できないと言う表情を読まれたか?驚いてる少年の顔を見て白竜がもう一度同じ事を言った。



『よく理解出来なかったか?追跡は可能だと言ったのだ。』

「え・・ええっ!!」


改めて言われて立ち上がったハジメを見てアカネも無言で頷く。見ると焔もやれやれと言った様子で不遜な笑みを浮かべている。

どうやら知らなかったのは自分だけだった様だ。


『さっきも言った筈だ。こんな事態のために手段は考えてあると。全ては黒衣の魔女のおかげでな』

(ヒッヒッヒッ・・私を誰だと思ってるんだい?

あの化け物が移動する際、必ずエリアに微弱なノイズが起きるのが分かったのさ。

ホームを襲われた時に奴のデータも取っておいたからね。

ノイズを追っていけば奴が何処に向かっているのかも分かる筈さ)


通信機からオババの不気味な笑い声が聞こえて来る。さすがは情報屋、そう言う所は抜け目が無い。

クロウの追跡が可能と聞いて、自分の不甲斐なさに暗く荒ぶっていた少年の心に新たな炎が宿った。


『女神を失うと言う最悪な形になってしまったが、我々はまだ希望を失っていない。

分かるな?少年。クロウを追跡し、奪われた人々を取り戻す』

「ヴァーカードさん・・・はい!行きましょう!」


どんな事態になっても、そしてどんな姿になっても諦めないヴァーカードの言葉に新たな決意を籠めてハジメが答える。

少年の様子を見て、もう大丈夫と思ったか立ち上がったアカネも微笑を浮かべた。


(そうと決まったら早速出発だ。だが、その前にアカネ、監視者の杖を持っていきな。システムの道具なら何か役に立つかもしれないからねぇ)


決意を新たにしたメンバーに忠告する様にオババがアカネに指示をする。

確かに主のいなくなったホームには女神サラの杖が落ちていた。

シュウのサングラスと同様、何かゲームに関する力があるかもしれない。


「了解・・・マスター」

(それじゃあ、早速転送するよ。システムのホームならこっちに戻らずに飛ばす事が出来る筈だ。ちょっと待ちな)


アカネがサラの杖を拾い上げると通信機の中からカタカタとキーボードの音が聞こえて来る。

暫くすると宙に浮く端末を中心にホームの周りが光り始める。

これはハジメ達が神殿へ転送された時と同じ現象だ。


(それじゃあ行くよ。クロウが向かっている場所は・・・)


オババが伝えた目的地に、ハジメの表情が変わる。

そこは少年が初めて従兄弟と冒険をした場所であり、そしてノイズに初遭遇した因縁の場所でもあったからだーー。



ーー適性Lv3 クロス・パウロ教会前の荒野


初心者が初めて冒険する広大な荒野。そこに一人歩くユーザーの姿があった。

エンドレスである。

帰らずの森で出会った少年魔導師は一路、ゲートの方向に向かっている。

しかし、ただでさえ広い荒野。

長いローブを纏った少年は急ぎ足でもゆっくりしていて中々ゲートまではたどり着けそうになかった。


『また一つ(鍵)が奪われた・・・』


歩きながらエンドレスがポツリと呟く。

誰もいない荒野でその言葉を聞く者はいない。しかし、全てを見透かした様な灰色の眼を真っ直ぐ向け、急ぐ姿はまるで何かから逃げている様だった。


『奪われたのは封印されし聖域の(女神)

そして奪ったのは(彼)のペットモンスター・・・。

彼らが次に狙うのはーー』

ザザザザーーーッ!!


一人呟くエンドレスだったが、突然何かに気づいたかの様に空を見上げる。

その途端、周りの画像が乱れ荒野が静寂に包まれる。

ノイズ現象だ。

少年の真上には案の定、黒く巨大な烏モンスター・・・クロウが姿を表した。


『やはりボクか。

それはあの男の命令なの?それとも(彼)の

意思・・?』


ノイズ現象に驚きもせず、クロウを見上げながらエンドレスが語りかける。

それまで無表情だった少年が(彼)と言う名前を出した途端、少し憂いを帯びた表情になる。

しかし、そんなエンドレスの質問を無視する様に烏モンスターは持っていた赤い杖を少年魔導師に向けた。


キュイーーン・・キュイーーン・・キュイーーン!

『ボクを消去するつもりかな?・・それでも良いよ。

この主のいなくなった世界を一人でさまよい続けるには少し疲れていた所だから・・・。

だけど、今のボクにはーー』


自分が襲われそうになっていても、全く動じずエンドレスが両手をゆっくりと広げる。

その姿はまるで死を受け入れている囚人の様だった。

そして今正に赤い杖の光線が発射されようとした瞬間ーー。


「待てぇーーーーーっ!!」

ーーバキュン!バキュン!バキュン!!

『新しい友達がいるんだ』


エンドレスが話し終えると同時に、クロウ目掛けて銃弾が飛んで来た。

突然、襲撃を受けてクロウは攻撃を中断し回避する。

少年魔導師の前に立ったのは、自分と同じくらいの小さな姿・・・。

クロウを追跡してきたハジメだった。


「もう逃がさないぞ、クロウ!・・って、君はエンドレス?」

『やぁ、また会えたね?ハジメ』


襲われているのが誰だか分からなかったのか?エンドレスの顔を見てハジメがすっとんきょうな声を出す。

それと同時にハジメの仲間か?大柄な男と、赤いドレスの少女がやってきた。


「どうやら間に合ったみたいだな!」

「はい、焔さん。ごめん、エンドレス。今は説明してる時間が無いんだ。とにかくこの場から離れて。

アカネ、エンドレスを安全な場所に」


エンドレスを守りながらハジメがあわただしく告げると、アカネが持っていたサラの杖を少年魔導師に向ける。

すると、エンドレスの足元に小さな魔方陣が現れ、瞬く間に別の場所に転送されてしまった。


『ハジメ、気をつけて。あのモンスターは君の・・・』


何か言いかけながらエンドレスが別の場所に転送される。

着いたのはゲート近くの山の上。

ノイズ現象で街へは帰れないがここなら戦闘に巻き込まれずに済みそうだ。


「さすが女神サラの杖。他のレアアイテムとは訳が違う。確かにこれなら・・・」


サラの杖をマジマジと見つめながらアカネが小さく呟く。

その間にも、クロウは黒い球体に姿を変え、またこの場から離脱しようとしていた。


「あっ!また逃げるつもりか?待て!!」


逃走を目論むクロウにハジメが慌てて2丁拳銃を向ける。

だが何故かそれを少年の肩に乗っていたヴァーカードが、翼で制した。


「ヴァ、ヴァーカードさん?どうして!」

『安心しろ、少年。今度は逃がしはしないさ・・・。アカネ、頼む』


納得のいかないハジメを冷静になだめながら、白竜がアカネに指示を出す。

小さく頷いたアカネがサラの杖を地面に差すと辺り一面に巨大な魔方陣が現れ、ドーム状の結界がクロウと少年達を閉じ込めてしまう。

すると、黒い球体になり逃げようとしたクロウが何故か弾かれた様に元の姿にもどってしまった。


『ーーーーー?』

『やはり逃げられない様だな?

この魔方陣の中だけ、エリアのアクセスパスワードを変えさせて貰った。

女神サラの転送魔法とシステムの権限なら可能だろうと思ったよ』


ニヒルな笑みを浮かべながらヴァーカードがクロウに語りかける。

感情などないと思っていたクロウが初めて戸惑いの様子を見せている事にハジメも驚き、そして何が起こっているのか全く理解出来なかった。


「えっ!な、なんで!?」

「・・・ヴァーカードに言われてノイズフィールドと同じ物を作った。・・上手く行く保証は無かったけど」

『ノイズモンスターを隔離し、倒すための結界。

GHF(ゴースト・ハッカー・フィールド)とでも名付けようか』


ヴァーカードが静かにだが得意気に話す姿を見て、ハジメも何となく理解した。

ウィルスモンスターがユーザーを逃がさないために作るバトルステージ・ノイズフィールド。

これはその応用だと言う事だろう。

つまり、結界を作り出したアカネを倒さない限りクロウはここから出られなくなってしまったのだ。


「へっ!つまりテメーはもう逃げられないって事だ。

・・今まで散々舐めた真似してくれたんだ?今度はテメーにたっぷりと弔いの歌を聞かせてやるぜ!!」


指をポキポキと鳴らしながら、ヤル気満々の態度で焔が相棒のアックスギターを取り出しクロウに向ける。

アカネもサラの杖をアイテムボックスにしまうと、赤きロッドを取り出しブルン!と振った。


「ミッション開始。最優先事項はハジメを守り・・クロウを倒す事」


二人が戦闘態勢を取る中、ハジメもそっと瞳を閉じる。

今までのクロウへの憎しみや怒りが溢れだし、左手がドクン!と脈動する。

眼を開けてみると黒い何も無い世界に自分そっくりの闇がまたニタリと笑っていた。


ーー力が欲しいかい?

(うん。手を貸して)


それまで人を傷つける事を躊躇していたハジメが闇の質問に即答する。

それに満足したのか?闇はニヤニヤ笑いながら少年の体にゆっくりと抱きついた。


ーー良いよ。そして倒すんだ!敵を・・・ボクから大切な物を奪う奴らを!!

(うん。分かった)

ーードクン!


何処か狂気染みた闇の言葉を聞きながらハジメは全てを闇に委ねる。

何も無い世界が崩壊し、黒い光が少年の全身から発せられた時、ハジメはまたエデン最強の勇者の力を手にいれていた。


「うわぁあーーーーーーーーーーっ!!」

「・・ハジメ?」

「野郎!いつもは肝心な時にガッカリさせるが、今回は準備万端じゃねーか!」


いきなりのウィルス発動にアカネは驚きの表情を見せ、焔がガッツポーズを見せる。

ただ一人、少年の肩から飛び立ったヴァーカードだけが何も言わず、厳しい表情でハジメを見ていた。


「・・長い鬼ごっこも今日で最後だ。クロウ」


黒い光を左手だけに残し、ゆっくりと歩み寄りながらハジメがクロウに語りかける。

静かな口調だが、その節々には烏モンスターへの明確な殺意と憎しみが籠められていた。


『ーーーーー』

「お前が何者で、何の目的でシステムを襲っているかなんてもうどうでも良い・・・。

今ここでお前を倒して、消えたユーザー達を取り戻す!」


少年が叫んだ途端、持っていた2丁拳銃を構えた。

ハジメが銃口を向けてもクロウはただ空中で羽ばたき続けるのみである。

ハジメが構えるのを見て軽口を叩いていた焔達も気を引きしめる。

ドーム状に隔離されたGHフィールドの中は、一転殺伐とした空気に変わった。


「決着を着けるぞ・・・クロウ!」

ーーキュイン!キュイン!キュイン!!


ハジメがボソリと呟くと、一気にチャージしたエネルギー弾を空中にいる烏モンスターへと向ける。

ウィルスモンスターを作り出した今回の事件の『主犯』クロウと、ハジメ達<<ゴースト・ハッカーズ>>の決戦が今、始まろうとしていた・・・。


(続く)

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